98_私には無縁の話だと思ってたのに……!
「なんと!モネは実はつい最近まで神殿に所属していた神官だったんだよ~」
「ええっ!?」
オーランド様が付け加えたモネ様の情報に、思わず驚いてしまう。
「オーランド、まさかあなた神殿から引き抜いてきちゃったの?いくら今は例の件があった影響で、神殿は魔塔に頭が上がらないとはいえ、さすがに今後の関係に響かないかしら?」
「グレイス、人聞きの悪い事を言わないでおくれよ。さすがの僕でもそんなことはしないさ」
オーランド様によると、モネ様はリゼットの身の回りをする役目を与えられていて、かなりひどい目にあったうえで、神殿から追放されてしまったらしい。
その話を聞きつけたオーランド様が、田舎に帰っても仕事がないと悩むモネ様を迎えに行き、魔塔にこないかとお誘いしたんだとか。
「なんてひどい……」
「でも、オーランド様に拾っていただけたので、結果的によかったです。実は……魔塔には、以前から憧れがあって……それに、神獣様にもルーツィア様にも、こうしてお会いすることができて、本当に光栄です!」
「ええっと、おこげちゃんは分かりますが、私にも、ですか?」
「もちろんです!ルーツィア様のご活躍は私の耳にも届いております!元々持って生まれたわけではないのに聖魔力を宿したなんてことは前代未聞です!その上で高い親和性で神獣様と絆を結ばれ、悪魔まで倒してしまうなんて、奇跡の所業です……本当に本当に尊敬いたします!よかったら握手していただいても?」
「わ、私なんかで良ければ……」
「感激です!」
そっと手を差し出すと、がしっと握られ、ぶんぶんと振るモネ様。
えへへ……なんだか照れちゃうな。私なんて、そんなことを言ってもらえるような人間じゃないんだけど……でも嬉しい。
「聖魔力や神獣のことについてモネはとても詳しいから、ルーツィアも色々教えてもらうと良いよ。その代わり、魔塔のことはモネに教えてあげて。魔塔の魔法使いの先輩としてね」
「!は、はい!!!」
先輩……私が先輩!
なんて素敵な響きなんだろう?
浮かれてポヤポヤしていると、モネ様が心配そうな表情に変わる。
「それより、ルーツィア様は大丈夫ですか?」
「え?」
「なんでも、縁談が殺到しているとか……」
「「え!?」」
セルヒ様と同時に驚きの声をあげてしまう。
縁談って、私に……?縁談って、あの縁談だよね?
「ル、ルーツィアに縁談だと……!?」
セルヒ様もびっくりしている。
そりゃそうだよね、私自身も信じられないもん。
リーステラ家にいた頃は伯爵令嬢だった私。本当なら幼少期から婚約者がいてもおかしくない立場だったのだけれど、魔力ナシだと判定されて、無能な落ちこぼれダメ令嬢だと思われていたから、私と婚約したがる人なんていなかった。
そのせいで、いずれ訳ありの方のもとに嫁ぐか、ご高齢な貴族のご隠居の後妻になるくらいしか道はないんじゃないかとリーステラの元両親に言われていた。
そんな私に縁談があるだけでもびっくりなのに、殺到……?
あまりにも想像できなくて固まっていると、モネ様が困ったように教えてくれる。
「神獣と契約し、聖魔力を宿した魔塔の魔法使い……貴族令息からは引く手あまたでしょうね」
「そ、そうなんですか……」
ちょうどその時、シェラ様がダイニングルームに飛び込んできた。
「ルーツィア!」
シェラ様とは、以前ディカルド様のところにお邪魔したときに魔道具の使い方を親切に教えてもらって以来、時々お互いの時間があうときにティールームでお茶をする仲になっているんだよね。
そんなシェラ様のお顔がなにやら険しい。
「シェラ様?どうされたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわ。あなた宛てに大量の手紙が届いているのよ!」
そう言って、両手いっぱいの手紙を見せてくれる。
「さっき届いたものだけでこれよ。もっともっとたくさんあるわ」
「ええっ?」
どうやら、モネ様から聞いた縁談の話が関係しているらしい。
私と縁繋ぎになりたいという内容や、お茶会へのお誘い、そのまま縁談を申し込む手紙も含め、とにかく私と会いたいというものがほとんどだった。
中には聖魔力を使った治癒の依頼もある。
これって、一体どうしたらいいのかな?
困惑していると、ふとセルヒ様が俯いてぶるぶると体を震わせていることに気が付いた。
「ルーツィアに縁談などと、許せるわけがない!」
突然顔を上げたセルヒ様はそう叫ぶ。
ゆ、許せないって、どういう意味だろう?
首を傾げた私に気づいたセルヒ様はハッと我に返ると、素早く私の目の前まで移動して、両手を握って来た。
「ひえっ!?」
「ああ、ルーツィア!大きな声を出して驚かせてしまってすまない。念のため言っておくと、ルーツィアの縁談が許せないというのは、ルーツィアに何か問題があるとかそういうわけじゃないから、誤解はしないでくれ。ルーツィアの魅力に全人類が気づくのも時間の問題だとは思っていたが、まさかこんなに早いとは思わず、つい取り乱してしまった」
「は、はあ……」
あまりの勢いに、間の抜けた返事をしてしまう。
「うぷぷ!セルヒのその感じ、久しぶりに見たな~。ほらほら、俺らはすっかり慣れたけど、初めて目にするモネちゃんがびっくりしてるよ~?」
ノース様の言う通り、セルヒ様のこういう姿、最近はあまり見ていなかった気がするなあ。
相変わらず両手を握られた状態で目をぱちくりさせていると、「それにしても」とオーランド様が思案する様子をみせる。
「このままだと、王家まで参戦しかねないね。それほどルーツィアの力は素晴らしいから」
さすがにそんなわけないと思ったけれど、オーランド様の言葉にモネ様もうんうんと頷いている。
ど、どうしよう。そんなことになったら、断れない縁談が出てくるかもしれない。
そうしたら、私、魔塔から出て行かなくちゃならない可能性もあるの?
(そんなの、いや……!)
嫌な想像をしてしまい泣きそうになっていると、セルヒ様が握っていた手にギュッと優しく力を込めて、私の意識を自分に向けた。
「ルーツィア、提案がある」
次が最終話です!




