最終話_落ちこぼれダメ令嬢は生まれ変わりました
セルヒ様は意を決したような表情で言った。
「ルーツィア……俺と婚約してくれないか」
真剣な目で私を見つめるセルヒ様に、息を呑む。
「え……と」
咄嗟に言葉が出てこない。
セルヒ様と、婚約?私が?
婚約するっていうことは、ええっと、セルヒ様と、ずっと一緒にいられるってことで……。だけど、そんなのいいのかな?私なんかが、セルヒ様と?
そんな風にぐるぐると考えている中で、ふとリゼットがセルヒ様に護衛依頼をしてきたことを思い出した。
あの時……私は嫌だった。セルヒ様がリゼットのことを好きになったらどうしようって。
それに、私にしてくれるみたいに、リゼットに優しくしたり、笑いかけたり、触れたりするのかなって思ったら、すごくすごく嫌で。
それって、リゼットだったからなの?ううん、きっと違う。リゼット以外だったとしても私は嫌だった。
「アッ!!!」
私が何かを答える前に、セルヒ様が突然そう声を上げる。
そして、なぜか慌てた様子で。
「ルーツィア!誤解がないように伝えておきたいのだが、この提案はルーツィアの縁談を断る口実を作るためのものではないからな!いや、もう二度と余計な縁談が入ってほしくないと思って今この提案をしたのは間違いないが……だが、そのためだけに、軽い気持ちで言い出したわけじゃないことだけは分かっていてほしい!だから、そう、だから……いや、違うな」
途中でピタリと止まったセルヒ様は、なぜか違うと言い始め、ひとつ深呼吸した。
そして、私の前に跪く。私を見上げる目が、いつもとは違う熱を持っている気がして、心臓がどきどきして頭が真っ白になっていく。
「ルーツィア。君に伝えたいことはただ一つ。俺はルーツィアのことを愛している。どうかこの手をとってはくれないか」
心臓が、耳の奥に移動してしまったんじゃないかと思うほど、脈打つ音がうるさい。
顔が熱くて、指先がなんだか痺れていく気がする。
まるで、目の前の光景が夢みたいで……。
──魔塔の皆が家族なら。セルヒ様は……私の旦那様。
そんな想像をしてしまうくらいには、いつの間にかセルヒ様の隣は私の居場所だって、そう思ってしまうようになっていた。
そっか。私、とっくに自分の気持ちに気が付いていたんだわ。
「……私も、セルヒ様のことが好きです。どうか、セルヒ様の婚約者にしてください」
私の返事を聞いたセルヒ様は──そのまま後ろ向きにばったりと倒れて行ってしまった。
「ええっ!?」
「いやアルヴァンじゃないんだからさあ!」
突然気絶したセルヒ様に、ノース様の突っ込みが飛ぶ。
今、すごい音がした気がしたけれど、大丈夫なのかな……!?
恐る恐るセルヒ様の顔を覗き込むと、その目はぱっちりと開いていて、目と目が合ってしまった。
ひえ!びっくりした!き、気絶したわけじゃなかったんだ!
「ねえ、本当に?ルーツィアちゃん、セルヒで本当にいいの!?」
「セルヒ、これで婚約したら、きっと今まで以上にうるさいよー?」
「黙れグレイス、ノース!ルーツィアの気が変わってしまったらどうしてくれるんだ!?」
グレイス様とノース様が私の側に近寄ってそんなことを言うと、セルヒ様は慌てて起き上がり二人を止める。
「はっはっは!弟子たちが今日もおもしろい!」
オーランド様は愉快そうに大笑いだし。
「ええっと、私、仮にも神官だったので。正式なご婚約の際には、ただ書類申請するだけよりも強固な婚約を結べる、誓約魔法を使えます!ちなみに誓約式も取り仕切れますのでいつでもどうぞ!」
モネ様は頬を紅潮させて、興奮気味に提案してくれる。
「ハッ!その誓約式や結婚式を行うことになったりすれば、ひょっとしてフワフワやおこげさんも祝福に参加するとんでもなく特別な式になるのでは!?み、見たい……!私はセルヒ殿とルーツィア嬢の結婚に大賛成です!!!」
アルヴァン様は……うん、通常運転ですね。さすが魔獣マニア、いつだってアルヴァン様の頭の中はフワフワとおこげちゃんのことが中心に回っている。
「ルーツィア、あなた、本当に大変ね……」
わあわあと騒がしくなっていく中で、シェラ様がそっと近寄り、まるで哀れむように私に声をかけてくれた。
「あはは……でも、すごく楽しくて、とっても幸せです!」
「ふふ。それならいいわ」
皆の盛り上がった雰囲気に、おこげちゃんまではしゃぎはじめた。
何度も飛び跳ね、くるんくるんと回りながら、私の側に近寄ってくる。
『ルーツィア、セルヒと結婚するの~?えへへ、僕、お祝い、あげられるよ~?』
「え?お祝い?」
『うん!僕、神獣だから~。契約主が愛する人と出会って、ずーっと一緒にいたいなって思ったら、その二人を結び付けて祝福をあげられるのー。愛は一番強い力だから、そうしたら僕の聖魔力もたくさん増えるんだ~』
「そうなの!?」
それって、とっても魅力的な気がする。
だけど、突然フワフワが私とセルヒ様の間に立ちふさがった。
『だ、ダメだ!まだルーツィアはやらん!やらんぞ!』
「わあ!?」
そうだったそうだった、フワフワは私のママみたいなものなんだった!
「はいはい、フワフワ、気持ちは分かるけど、今は我慢しような」
ノース様がフワフワを連行していく。
すると、セルヒ様がおずおずと近づいて来た。
見上げる形になったセルヒ様の顔は、見たこともないほど赤くなっていて、私まで顔が熱くなる。
「ルーツィア。……抱きしめても、いいだろうか」
「は、はい……」
セルヒ様は、少し遠慮がちに、だけど優しく私を抱きしめる。
「ああ、こんな幸せがこの世にあっていいのか……!」
噛みしめるように呟くセルヒ様だけれど。
そんなの、私のセリフだ。
──ずっとずっと、家族の中にいても、ひとりぼっちだった。
無能で落ちこぼれのダメ令嬢の私は、いつも自信がなくて。
愛されたくて、私を見てほしくて、いつだって悲しい気持ちを持て余していた。
だけど今、私の周りはたくさんの大好きで大切な人に囲まれている。
魔塔の家族たちの笑顔に祝福されながら、私は心からの幸せに満たされていた。
……だけど。
「?……ルーツィア?大丈夫か……?」
ガチガチに固まった私を不審に思ったようで、セルヒ様がそっと体を離し、私の顔を覗き込む。
ひえ!ち、近い……!
今までだってこんな風に近くでセルヒ様と顔を合わせることはあったはずなのに、想いを伝え合ったことでセルヒ様の目を見るだけでとんでもなくドキドキしてしまう。
ええっと、ええっと……!私、こういうの、あまりにも慣れていなくて……!
「──れ」
「……れ?」
「恋愛小説を読んで、もっと勉強してきます……!!!」
だって、セルヒ様も恋愛小説で勉強したんだって、ノース様が言っていたもの!
セルヒ様の隣に並びたいと思うなら、私も同じように勉強して、セルヒ様に並ぶくらいの恋愛マスターにならなくちゃ……!
そう思い、慌ててダイニングルームを飛び出した。
「あ!ルーツィア!?」
セルヒ様が私を呼び止める声が聞こえるけれど、恥ずかしすぎてもう止まれない。
逃げる私と、追いかけるセルヒ様。そんな私達を皆が面白そうに笑っている。
それは、祝福と愛情の笑いだった。
──ああ、本当に、なんて幸せなんだろう!
あっという間に追いついたセルヒ様に捕まえられて後ろから抱きしめられながら、この幸せをかみしめる。
不幸な顔をして俯いていたルーツィアはもういない。
落ちこぼれダメ令嬢だった私は、大切な人にうんと愛されて、すっかり生まれ変わったのだ。
《FIN》
ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
なかなかお返事できずに心苦しいですが、感想も嬉しくていつも楽しく読ませていただいてます(:_;)♡
この後ももしよければページ下部の★★★★★クリック評価や感想などいただけましたらすごく嬉しいです!!
またとっても素敵なコミカライズも連載中なので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします!
明日からは連載中の【勘違い令嬢は魔術師になりたい~聖女になった義姉に全て奪われましたが、好都合です!~】を毎日更新しますので、そちらもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
(★下の方にあるリンクからとべます^^)




