94_自信を持って言える、私の答え!
ソレイユ様はさらに頭を下げる。
そのまま勢い余ってゴン!と鈍い音が響き、思わず仰け反ってしまった。
す、すごい音がしたわ!どうやらそのまま机に頭をぶつけてしまったらしい。
それでも動じる素振りもなく、ソレイユ様は続ける。
「これまでの私の態度を考えても、無茶なことを言っている自覚はある!だが、どうか、どうか少しでも考えてはもらえないだろうか……!」
「神官ソレイユ殿」
私が戸惑っているうちに、セルヒ様が静かにソレイユ様に呼びかける。
「あなたは以前、言ったはずだ。神殿の人間はルーツィアを拒絶し、どのような内容であっても関りを持つことはないと。神官の名を掲げ、契約の意味を持つ宣言として」
「それはっ……!」
「そして俺は告げた。『俺はその意味を軽んじない』と」
「っ……そうだな……そのとおりだ」
ソレイユ様は、それ以上何も言えないようで、すっかり項垂れてしまった。
うーん、すごく空気が重い……!どうしよう、私が関係することでこんなにも深刻な雰囲気になると、なぜか私が焦ってしまう……!
ええっと、とにかく、セルヒ様が答えてくれたとはいえ、ソレイユ様は私に依頼してくれているわけだから、自分の口からもきちんとお返事しないと失礼だよね。
そう思い、私は姿勢を正してソレイユ様に向き直る。
「ソレイユ様。ソレイユ様の以前のお言葉がなかったとしても、やっぱり私がお申し出を受けることはありませんでした」
「……それは当然の答えではあるが、できれば理由をうかがってもいいだろうか。やはり、我々神殿の人間が、散々あなたを侮辱したからだろうか」
そうだと確信しているような口ぶりだけど、正直、酷いことを言われてショックは受けたけれど、それで神殿の人達を拒絶したいなんてことは全然思っていないんだよね。
だって。
「いいえ。私は落ちこぼれダメ令嬢として知られてしまっていましたし、聖女として迎えられていたリゼットの言葉を信じ、大切な聖女様を守ろうとする行動を神官であるあなたがとることは間違った行動だったとは言えないと思っています」
「!では、なぜ」
なぜか。その答えは、胸を張って言える。
「私が、魔塔を、魔塔の皆のことを、大好きだからです!ここが私の居場所だから!」
そう。魔塔は私を受け入れてくれた。私を変えてくれた。
たくさんの大事な人と出会わせてくれた。
温かくて優しい、大好きな場所。
思わず微笑んでいると、隣でセルヒ様がぷるぷると震えていることにふと気が付いた。
「ル、ルーツィア……!大好きという中に俺のことも含まれているのか……?」
「はい!もちろんです!」
「くっ……可愛すぎる……ルーツィアがこんなにも嬉しそうに魔塔を、いや、俺の隣を自分の居場所だと言ってくれるようになるとは……こんな幸せがあっていいのか?いやむしろ俺が一生ルーツィアを幸せにする」
『おい、ルーツィアに聞こえていないからと余計なことばかり言うでない』
『そうだそうだ~!ルーツィアは、ぼくが幸せにするんだもんね!』
「フワフワ、おこげ、うるさいぞ」
なんだかセルヒ様とフワフワ、おこげちゃんがこそこそと話している。
けれど、こんな風に話の輪に入れなくても、この場所では以前の私のように『私のことを言われてしまっているのかも』なんて不安がよぎることもない。
いや、時々『ルーツィア』って聞こえる気がするから、私のことは言っているかもしれないけど……でも、私を嫌悪して発する言葉ではないと、ちゃんと分かるから。
それに、セルヒ様は必要なことは絶対に全部言葉にして私に伝えてくれると、もう知っている。
そんなことも嬉しくて、思わず頬が緩んでしまっていると、そんな私をソレイユ様がぽかんと見つめていることに気が付いた。
ハッ!いけない!ええっと、理由をもう少し詳しく言った方がいいかな?
「それに、私はやっぱり聖女様なんて器じゃないと思うんですよね……!たまたまおこげちゃんと出会って仲良くなって、たまたま契約したら、それがうっかり神獣様で、運よく聖魔力を使えるようになっただけなので……!」
ソレイユ様は一度息をのみ、そしてすぐに諦めたように小さく笑った。
「それがどれほど尊い事か……ルーツィア嬢、あなたは……いえ、だからこそ、なのでしょうね」
「?」
「いや、いいんだ。改めて、失礼なことばかり申し上げてしまい、大変申し訳ありませんでした。ただ、これから先ずっと、神殿はルーツィア・リーステラ嬢と神獣様の味方です。何かあればいつでも頼っていただければ幸いです」
「はい!ありがとうございます!」
リゼットが聖女になったことをきっかけに、ソレイユ様にも嫌われてほんの少し悲しかった気持ちがすっかり浄化されていく。
セルヒ様たちのおかげで誰かに嫌われてもその全てが私のせいなわけじゃないと思えるようにはなったけど、やっぱり嫌われていない方が良いに決まっている。
こんな風に和解できて、本当に良かった。
「最後に一つだけ良いか?」
もうすっかり話も終わりの雰囲気だったのに、セルヒ様がすっと手を挙げる。
「なんだ」
「ルーツィアはもう、リーステラ嬢ではない。魔塔のただのルーツィアだ」
「……はは、承知した。大変失礼いたしました」
ソレイユ様たちをお見送りするときに、ギズリ様だけが一度戻って来た。
「ソレイユ様のことをお許しください。そして、ソレイユ様のことも、リゼット・リーステラ嬢のことも、止めることが出来なかったこと……本当に、申し訳ありませんでした」
「ギ、ギズリ様!顔を上げてください。……私、気付いていました。ギズリ様は、一度も私を悪く言わずにいてくれたこと。そして、ちゃんと私自身を見ようとしてくれていたこと」
ソレイユ様と同様に私にいい感情を抱いていなかったはずなのに。
ギズリ様はもう一度深々と頭を下げると、ソレイユ様の後を追いかけて行った。




