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92_そんな名で呼ばれるような存在じゃないけれど

 

 おこげちゃんに魔力を渡しても、まだまだ魔力が湧いてくる!

 私は掲げた手に魔力を集め、一気に放出する。


「こんなの、ぜーんぶ消えちゃいますように!えいっ!」


 私が放った魔法は、セルヒ様やグレイス様、ノース様の魔力と絡みあい、結びつくようにして瘴気だまりに向かって行くと、溢れた瘴気ごと、その全てを白い光で包み込んでいく。

 さすがにすぐに消し去ることは出来なくて、魔法を放ち続けた。


 魔法を継続的に使うには、魔力の強さとは別に技術と集中力が必要になる。魔力が安定させられなければ、あっという間に魔法は消え去ってしまうのだ。

 魔法の使用自体にまだまだ不慣れな私には難しいことだった。


「うっ……!」


 魔力はたくさんあるのに、意識を集中させ続けることがこんなに難しいなんて……!

 頭の中が乱れて行ってしまいそうで、視界がチカチカしてくる。


 そんな私に、セルヒ様が魔法を使いながら手を伸ばしてくれた。


「ルーツィア!俺の手を握れ!」


 言われるがまま、必死になってその手を握る。

 すると、セルヒ様の魔力がその手を通じて糸のように私の中に伸びてきて、私自身の魔力を補助するように動いてくれているのが分かった。


『どけ、どけー!』


 悪魔の、いら立ち焦った叫びが聞こえる。

 視界の端ではおこげちゃんとフワフワが、こちらを妨害しようとする悪魔に攻撃し続け、抑え込んでいる。


『どかないもん!もう、お前なんかに、好き勝手にさせない!』

『そうだ!ルーツィアに手出しはさせん!』


 この瘴気だまりが消えれば、悪魔の力が増幅することもない。

 セルヒ様の魔力は優しくて、乱れそうになっていた魔力が一気に安定していく。こんなにも違うなんて、びっくりしてしまうほどだった。


(セルヒ様って、やっぱりすごい)


 そんな風に思いながら、私は色んな思いを込めて、魔法をさらに強くする。

 勢い余ってセルヒ様の手を握る力がぎゅっと強くなる。それにこたえるかのように、セルヒ様も私の手をさらにしっかりと握り返してくれた。


(お願い、消えてー!!)


 今私にできる限りの力で魔法を一気に放つと、当たりが真っ白になるほどの強い光が瘴気だまりを飲み込んだ。

 次の瞬間、パン!と破裂するような音が響いた。


 キラキラと光の残滓が金色のきらめきになりあたりに降り注いだ時には、瘴気だまりは跡形もなく消えていた。


(や、やった……!あとは、悪魔を……!)


「て、あれ……」


 振り向いた足元がふらついて、気が付けばぺたんと地面に座り込んでいた。

 ど、どうしよう、足が震えて、力が入らない……!


 魔力はまだまだ残っている。それなのに、強い聖魔法に体の方がついていかなかったようで、立ち上がることさえできなくなっていた。


(どうしよう、あとは悪魔を倒すだけなのに!)


 リーステラ家にいる頃、古い本を読んだ中に描かれていた。

 悪魔は、聖魔法でしかその命を絶つことができないと。


 だから、私がやらなくちゃいけないのに、こんな時に限界を迎えるなんて!

 自分の情けなさに泣きそうになっていると、そんな私の肩をセルヒ様がポンと叩く。


「大丈夫だ、ルーツィア。魔力が繋がったままルーツィアが強い聖魔力を放出したおかげで、一時的に俺の体にも聖魔力がめぐっている。あとはゆっくり、見ていてくれ」

「セルヒ様……」


 そう言って右手を悪魔の方に突き出したセルヒ様は、魔力を一気に練り上げていく。

 私のすぐ側で行われるそれに見惚れてしまう。私の目には、セルヒ様の魔力の中に私の魔力がキラキラと絡みついているのが良く見えた。


 その魔力も、セルヒ様も、びっくりするほど神々しくて。


(綺麗……)


 場違いにもそんなことを思った瞬間、セルヒ様の魔法が悪魔に向かって飛んでいく!


『な、なんだこの強力な魔法は……!?』


 不思議なことに、その魔法は悪魔の前にいたおこげちゃんのことも、フワフワのことも通り抜け、悪魔に向かって一直線に進んでいった。


『そんな、このオレが、聖女でもない者に殺されるなど、そんなことは──ギャアアアァ!!!』


 悪魔の断末魔が響いた瞬間、さっき瘴気だまりを包み込んだのと同じように、辺りが一気に光に包まれる。

 その光が徐々に落ち着いた時、その場に悪魔の姿は跡形もなく消え去っていた。


「や、やった……悪魔、倒せたんですね……!」

「ああ、全部、ルーツィアのおかげだ」


 呆然と呟く私の肩を抱き、セルヒ様が支えてくれる。


 私のおかげなんて、そんなわけがない。


 おこげちゃんが魔力をくれて、フワフワが助けてくれて、セルヒ様が導いてくれた。

 それだけじゃない。グレイス様もアルヴァン様もノース様も、プリメラ様もショーン様も、この場にいる皆の力でこの危機を乗り越えることができたんだ。


 その事実を実感するとともに、喜びが湧きあがってくる。


 ──ずっと、リゼットが羨ましかった。

 聖女の力で、皆を助けることができるリゼットが。


 だけど、今日、私の力が誰かを助ける一端を担えたのは確かで。


(私でも、誰かの役に立つことができた……!)


 その事実が、全身が喜びで震えそうなほどに、嬉しかった。


「せ、聖女様だ……」


 どこからか、ぽつりと小さな声が落とされる。

 思わず視線を向けると、全てを近くで見ていた街の人達が、皆私を見つめていた。


 そんな人達と目が合うと、突然ワッと歓声が上がり始める。


「あの方こそ、聖女様だ!」

「見たか?あの美しい魔法!あんなに綺麗な魔法があるなんて!」

「ぼくも見たよ!なんかキラキラしてたー!」

「聖女様が皆を、この国を救ってくれた!」

「救国の聖女だ!」


(え、ええ~!?)


 思いもよらない言葉たちに驚いてしまう。

 聖女って、私!?皆、私を見て言っているよね!?私が聖女なんて、そんなわけないのに……!


 それに、この空気。こんな風に私を聖女だと誤解する街の人達。

 リゼットが黙っていないんじゃ……。


 恐る恐るリゼットの方をうかがう。

 けれど、リゼットは座り込んだまま呆然とするばかりで、私の方を見ることもない。


 そんなリゼットを、少し離れた場所に立ち尽くすギズリ様とソレイユ様が、複雑そうな表情で見つめていた。


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大好きな勘違い・すれ違い盛りだくさんのお話です!ぜひよろしくお願いします^^

【勘違い令嬢は魔術師になりたい~聖女になった義姉に全て奪われましたが、好都合です!~】
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