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77_こういうときに限って会ってしまう

 


 プリメラ様とショーン様を見送った後、さて帰ろうかと思ったところで突然肩を掴まれた。


「ルーツィア……?ルーツィアじゃない!」

「あ……」


 驚きすぎて声がでない。必死な様子で私を揺さぶり、話しかけてきたのは、リーステラのお母様だった。その後ろから、驚いた様子のお父様も近づいてきている。


(嘘、どうしてここにいるの?まさかこんな街中でばったり会ってしまうなんて……!)


 思いもよらない再会に、体が震えて動けない。そんな私を、セルヒ様が後ろから腕を引き、お母様から引き離してくれた。


「リーステラ伯爵夫人。ルーツィアが驚いているから離れてもらっていいか」

「あなた……!ルーツィアを攫った魔法使い!」


 ええっ!?セルヒ様が、私を攫った……?

 お母様は何を言っているんだろう?


 ふと思い出す。そういえば、ミハイルお兄様は、除籍の書類は私をリーステラ家から追い出すためのものではなかったし、魔塔への引き渡しは断ったって言っていたっけ。


 あの時の私にはそれがあまり重要なことに思えなかったから、深くは考えていなかったけれど。

 じゃあ、ひょっとして本当にお母様はセルヒ様が私を攫ったと思っている可能性があるのかな?


 ……うーん、いや、それはおかしい気がするかも。


 だって、書類についてはそうだったとしても、お母様やお父様が私を疎んでいたことは間違いなかったはずだし、私がいなくなって喜ぶことはあっても、悲しむことはないはず。


 うん。やっぱり『セルヒ様が私を攫った』なんてとんでもない誤解をする理由がさっぱりわからない。


「セルヒ様」


 私は、私を守ってくれようとしているセルヒ様を「大丈夫です」とそっと止める。

 私を守ろうとしてくれている優しい人。セルヒ様が側にいて見守ってくれているから、私は大丈夫。最初は怖かったけれど、体の震えもすっかり落ち着いている。


 家族()()()人だもの。きちんと私が話さなくちゃ。


「ルーツィア、どうか我が家に帰ってきてちょうだい」


 意を決して向き合ったとたん、思いもよらないことを言われて驚いてしまう。

 お母様ってば、どうしちゃったんだろう?思わずお母様を支えるように立つお父様の方を見るけれど、まるで「自分も同じ気持ちだ」と言わんばかりの表情でただ頷かれてしまった。


 まさか、そんな、そんなわけがないのにな?


「どうして、ですか?」


 だって、お母様は私のことなんて嫌いだったでしょ?

 そう思ったけれど、私の疑問はすぐにとけることになった。


「リゼットが神教会から全く帰ってこないの!だから住まいまで移すのは反対だったのに……ねえ、ルーツィア?屋敷に戻ってきて、リゼットがもっと帰ってくるように一緒に説得してちょうだい?きっと、今度こそ二人は仲良くできるでしょう?あなたも反省したわよね?」


 ああ、そっか。なんだか妙に納得してしまった。

 お母様は、私に戻ってきてほしいんじゃない。リゼットに戻ってきてほしいんだ。

 だからって、どうして私が戻ればリゼットも戻ると考えているのかはよく分からないけれど。

 だって……


「……お母様。私がいると、きっとリゼットは余計に帰ってこないと思うわ。私ね、多分、リゼットにあまり好かれていないの」


 そう、さすがにもうそれくらいは分かる。

 私はリーステラでうまくやれなかったんじゃなくて、リゼットに私と仲良くする気がなかったんだって。


「そんな!?どうしてそんなひどいことを言うの!?リゼットは誰かを無暗に嫌ったりなどしないわ!ルーツィアがいつまでも意地を張って意地悪をするから、リゼットはどう接すればいいか分からなかっただけでしょう?だから、あなたが戻ってきちんとリゼットと仲良くすることができれば、きっとまた家族みんなで楽しく暮らすことができるはずだわ」


 お母様は本気で言っているのだろうか?私は、私は……リゼットがリーステラ家に来てから、楽しく暮らせていたことなんて一度もない。


 ハッとした。私、今なんてことを考えたんだろう?

 だけど、それが本心だったのも事実で。私はこれまで、そんな自分の気持ちにさえ、気付かないふりをして生きてきたんだわ。


 だけど、もう気づかないふりなんてできないから。


「お母様。リゼットは私がいない方が戻ってくると思うし、神教会に面会に行って、直接お話した方が良いと思います。それに……もしも私が戻った方がリゼットが喜ぶとしても、私は、私の意思で、もう戻りません。私の居場所を、見つけたから!」


 にっこり笑って本心を告げると、お母様とお父様はどこか呆然とした顔をしていた。


「くっ!ルーツィアが魔塔を、いや、俺の側を!自分の居場所だと言ってくれている……この世にこんな幸せなことがあるか?いや、ない」

「セルヒ様?もうお話は終わったので、帰りましょう?」

「ああ!そうだな!俺達の家へ!帰ろう。それではリーステラ伯爵夫妻。我々の帰りを()()が待っているので、これで失礼する」


「あ……」


 お母様はまだ何か言いたそうだったけれど、私とセルヒ様はそれ以上は聞かず、その場を後にした。


「ルーツィア、大丈夫か?まさかあんなところでリーステラ伯爵夫妻に出くわすとは……あんなひどいことを言われる前にあの忌々しい口を塞いでしまうんだった」


 気づかわしげに私を見つめるセルヒ様が物騒なこと言い出すから、目を丸くしてしまう。


「セルヒ様!?そんなこと、セルヒ様にさせてしまうわけにはいきません!それに、全然大丈夫です。セルヒ様が側に居てくださったから」


 ちょっと恥ずかしくて、えへへと笑うと、セルヒ様はなぜか天を仰いで呻き声をあげた。


「ぐ、う、可愛すぎる……!」


 なんだろう?呻き声をあげながらも何か呟いている……?

 だけど、次の瞬間にはキリリと表情を変えて、私に向き直る。


「これからは俺が必ず君を側で守るよ。何があっても。だから安心してくれ」

「はい!」


 こんなに心強いことがあるだろうか?

 私って、本当に幸せ者だわ!


 ◆◇◆◇


 思わぬハプニングもあったけれど、心を乱されたのは最初だけ。気を取り直して。

 魔塔に帰った私達は、すぐにアルヴァン様に魔獣ちゃんの新事実について報告した。


「魔力はもっているのに、魔力回路がない……!これは……とんでもないヒントかもしれません。少し時間をいただきます!」


 そうして目の色を変えたアルヴァン様はあっというまに消え去り、それから自分のお部屋から全く出て来なくなってしまった。

 何日も何日も……。

 お食事と飲み物だけ部屋の前に置いておくと、いつの間にか消えているらしい。


 心配になったけれど、セルヒ様いわく「アルヴァンは変態だからな。ああなると誰の声も聞こえはしないし、生命維持だけは本能でこなすから心配しなくて大丈夫だ」とのことなので、魔塔の皆さんにとっては慣れっこな状況だったみたい。


 私は日課に魔力マッサージを追加して、毎日魔獣ちゃんとフワフワにマッサージをさせてもらっている。


『おお……ルーツィアのマッサージは、本当に気持ちが、いい……ぐ、意識が』

「ふふふ、フワフワ、眠ってもいいからね?」


 フワフワはとろけるようにくったりと体を地面に預けて堪能してくれている。

 むしろ、私のマッサージが気持ち良くて眠ってくれるなんて、とっても嬉しい。

 毎日繰り返していると、少しずつ魔力回路の雰囲気を感じ取れるようになってきた。もちろん、まだ全然ぼんやりとだけれど。このまま続けて行けば、プリメラ様やショーン様に弟子入りさせてもらえるかも?


 何より、魔力マッサージにはあまり大きな失敗がないのがとてもいい。

 施術が下手で効果がないことはあっても、魔力を使って体の状態を探りながらマッサージするから、現状より悪くなることはよほどおかしな触れ方をしなければないんだもの。


 それから、魔塔には魔物討伐依頼が舞い込むことが多くなった。やっぱり瘴気だまりがあちこちに発生している影響が大きいらしい。

 セルヒ様やオーランド様と一緒なら、私も一緒に行ってお手伝いさせてもらえるようになった。


 神殿騎士様や王宮魔法使い様、王宮騎士様と現場で一緒になることもあって、そういう時、討伐終わりにこっそり魔力マッサージをさせてもらったりもしている。


 セルヒ様は


「ルーツィアがやりたいことならば、俺は見守るのみ……ぐ、ほ、本当は、他の男に触れるなどちょっと許しがたいが……いや、やっぱり許しがたいな?女性魔法使いと女性騎士中心にさせてもらおう……」


 などと、なにやらよく聞き取れなかったけれどぶつぶつ呟きつつ、どなたが魔力マッサージをさせてくれるか、先に騎士様や魔法使い様とお話して交渉してくれている。


 フワフワも一緒に行ける時には攻撃にも参加できるし、最近はやれることが少しずつ増えてきていてとっても嬉しい。


 魔獣ちゃんも元気になってきていて、魔獣ちゃんが侵されている瘴気も薄くなってきているみたいだし、そろそろ契約したらすっかり瘴気が消え去ったり……しないかなあ?


 この調子で行けば、そのうち契約できるようになるんじゃないかな?と密かに期待しているんだよね。


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挿絵(By みてみん)

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