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76_またひとつ、謎が増えた


 

「まずこうして魔力を手に纏い、そのまま体に触れ、魔力を馴染ませながらマッサージしていきます。慣れるとこの段階でお客様の魔力回路が段々と感じ取れるようになるので、血流を流すように魔力を流していくんです」


「魔力回路を感じ取るのは簡単じゃないですよね?」


「そうですね。これには技術が必要です。ただ、的確に魔力回路を刺激することができなかったとしても、魔力を馴染ませた手でマッサージするだけでも少しは効果があるので、まずは見様見真似で触れていくことが大切です」


 なるほど。魔力回路が分かるようになる前段階のマッサージは、私が魔獣ちゃんにしているマッサージに近いのかもしれない。

 そんなつもりはなかったとはいえ、魔獣ちゃんの体にいいことができていたのかなと思うと嬉しい。

 今までは肉球マッサージが主だったけれど、これからはもっと全身やってあげようかな……。


 そんなことを思いながら、マッサージの手順を覚えるべく真剣に見学していたのだけれど、なぜだかプリメラ様の表情がどんどん怪訝なものになっていく。


「あれ……?いや、そんな馬鹿な……」

「どうされたんですか?」

「ちょっとお待ちくださいね。ショーン!」


 お二人で魔獣ちゃんに触れては観察しているようで。ただならぬ様子に思わずセルヒ様と顔を見合わせてしまう。

 魔獣ちゃんは、きっと瘴気に侵されていて。その影響で、ひょっとして魔力回路にもすごく問題が出てしまっているんじゃ……。


 そう不安になっていたのだけれど、少し話し合ったプリメラ様とショーン様は、思いもよらなかったことを告げた。


「魔獣ちゃんの体には、魔力回路が存在していません」

「え……?」


 一体どういうことだろう?そんなこと、ありえるのかな?

 だって生き物には、必ず魔力回路があるはず。魔法が使えなくっても、たとえ魔力を持たずに生まれてきても、魔力回路は体の中に存在しているはずなのに。


「魔力を持っているのに、魔力回路がない……そんなことがありえるのか?」


 分かったことは、魔獣ちゃんには確かに魔力が存在していること、だけど、やっぱり魔力回路がない、特別な種族なのではないかということ、そしてそれはありえないことだということ──。


(……んん?)


 私は魔塔に来てすぐの頃、魔力鑑定を最初にさせてもらった時に教えてもらった話を思い出す。


 魔力回路を流れている魔力は、普通の魔力で、魔力回路ではなく自らの肉体、血、細胞、体を作り上げている全てで生み出される魔力は、特殊魔力とよばれている……だったよね?


(そして、私は普通の魔力を一切持っていなくて、特殊魔力だけを持っている珍しいタイプで……)


「それじゃあ、魔獣ちゃんの魔力も私と同じように全部全部特殊魔力なんですねえ……」


 ひょっとして、普通の魔力がなくて特殊魔力だけだってことが、今の体調不良にも関係があるのかしら?

 うーん、だけど、もしもそうならきっとすぐにセルヒ様がそのことに思い至るはずだし、ただ魔獣ちゃんが珍しい体質なだけ?


「とにかく、魔塔に戻ったらアルヴァンにこのことを伝えよう。ひょっとするとチビの正体を掴むヒントになるかもしれない」

「はい!」


 それにしても……魔力回路はないから、魔力を活性化することはできないとはいえ、プリメラ様にマッサージをしてもらっている魔獣ちゃん、すっごく気持ちよさそう。

 マッサージの理論としては成立しないのかもしれないけれど、それはそれとして、少しでもリラックスできるならすごく素敵だよね。


「あの……プリメラ様。マッサージはこのまま教えていただけませんか?」


 魔獣ちゃんにできるだけのことはしてあげたいがそうお願いすると、プリメラ様は快く引き受けてくれて、技術の手ほどきをしてくれた。


(魔獣ちゃんってば、もうとろんとろんだわ!)


 かなり気に入ったみたいなので、これは毎日の肉球マッサージにプラスして日課にするのがよさそう。予想外のことはあったけれど、マッサージを教えてもらえて本当に良かった!


 それに……原理と施術方法をすごく丁寧に教えてもらえたから、魔獣ちゃんとは体の大きさが随分違うフワフワにもしてあげられそうだし、それで魔力回路を感じ取れるようになってきたら、セルヒ様やオーランド様、グレイス様にもさせてもらえたらいいなあ。


 練習、させてくれるかなあ。


「今日は本当にありがとうございました!」

「いえ、私達も貴重な体験をさせていただきました。魔獣ちゃんは魔力回路がないのであまり私達のマッサージの効果は感じられないかもしれませんが、よかったらまた魔獣ちゃんも、ルーツィア様と一緒に遊びに来てくださいね」

「はい!……あれ?」


 プリメラ様とショーン様に見送られながらそんな風に挨拶を交わしていると、なんだか急にお店の前が騒がしくなってきた。

 なんだろう?


 不思議に思っているうちに、お店のドアが勢いよくあけ放たれる。

 慌てて顔をのぞかせたのは若い男の人だった。


「ショーンさん!父さんの体調がすごく悪くて、さっきそこで一人で立っていられないほどにふらつきはじめて……!急で申し訳ないけど、魔力マッサージ今から受けられるかな!?」

「それは大変だ……!僕も一緒に迎えに行くよ」

「ありがとう!」


 どうやら急患らしい。だけど、立っていられないほどって、大丈夫なのかな……。


「最近、こういうことが増えているんですよね。王都に魔物が出た事件もありましたし、瘴気も増えているんでしょう?その影響かしら……」

「そうなんですか?」

「ええ。聖女様の魔法石が流通するようになって少し減っていたんですけど、最近では以前よりも多いくらいで。魔法石も在庫が間に合わないくらい売れているらしいですし、本当に王都の皆さんの体調が心配です」



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