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71_聖女リゼットは忙しい②(リゼット視点)


「いい方法って?」


『人数が多いことが問題ならば、一度に大勢を治癒できるようにしてやればいいのさ』


「えっ!どうやって?」


 今まで一人ずつにしか聖魔法をかけたことはない。だって、治癒って難しいのよ?

 最近はフォーのおかげで能力がすごく上がってるけど、なぜか治癒はあんまり楽にならないのよね。


『簡単だ。魔法石に魔法を込めて、それをばらまけばいい。起動は本人にさせればいいだろう?』

「そんなことができるの!?」


 神官を見ると、ためらいながらも頷く。


「そんな方法があるなら早く教えなさいよ!私、今までも人数が多すぎて大変だって、何度も言ったわよね?まさか、わざと私に大変な思いをさせようとしてたってわけ?」


 私のスケジュール管理をさせているのは、フォーとすぐに契約することに難色をしめしたあの地味女神官だ。


 こうやってイライラすることが多いから、他の神官の前では優しい聖女様像を壊さないために、どう思われてもいいこの女に私の身の回りのこととかは全部やらせている。

 フォーと私がとってもうまくいっていることで余計なことを言った自覚が出たのか、私の目を気にしてオドオドしているんだけど、まさか私が楽になる方法をあえて隠していたんじゃないでしょうね?


 そう思い睨みつけると、女神官は間抜けな悲鳴を上げて震えあがった。


「ひっ!ま、まさか、そんなことはありません!確かにそれは可能ですが、魔法石に魔法を込めるのは特殊な技術が必要で、とても、とても難しいのです……!」

「本当に?」

「本当です!これは魔法の才能とは別物でして、天才魔法使いでもできない者も多いのです!一対一で同じ人数に治癒を施すよりもよほど魔力が必要になりますし、必然的に魔法石に魔法を込める時間も長くかかります!」


 なんだ、じゃあだめじゃない。魔法石に魔法を込める練習なんかもしたくないし。


 あーあ、私の代わりに私の魔法を誰かが魔法石に込めてくれればいいのに……。


「それなら、せめて一日の人数をもっと絞ってから私のところに持ってきなさいよ」

「ですが、これでも絞っているのです……寄付金や貢ぎ物を神殿が受け取ったことのある貴族の依頼者のみで、平民や低位貴族はすでに断りしている状況で……」


「え?これで?それなら断る基準をもっと下げて。そうね、差し出してきた金額が高い者優先で、一日五人までにしてちょうだい」


 20人はのっている手元のリストを弾きながら命じる。


「五人ですか!?」

「そう言っているでしょ?ちなみに、断る理由は私の印象が悪くならないようにちゃんと考えてよね。今日はあんたとの会話に疲れたから、体調不良で寝込んでて誰もみられないわ。自分が聖女様に無茶を言って聖女様が寝込んでしまわれたせいです~とでも言いなさい」

「そんな……」


 討伐に出ない日くらいゆっくりしたいし遊びたいもの!本当は1日5人でも多いくらいよ。

 私は顔色が真っ青になった女神官を追い出すと、お昼寝をするべく大きなベッドに転がり、フォーに抱き着いて目を閉じた。


 ◆◇◆◇


 ギズリがやってきたのは夕方だった。


「ギズリ!来てくれて嬉しい!討伐の時以外であなたとゆっくり話せる時間がなかなかないから、寂しかったの」


 せっかく可愛い私が甘えてあげているのに、ギズリは堅苦しく丁寧に礼をする。

 ソレイユだったらもっと分かりやすく喜んでくれるのに。ギズリってば真面目過ぎてちょっと面白くないのよね。

 せっかく見た目がかっこいいんだから、もっと私を喜ばすことを考えてほしいわ。


 ギズリもソレイユも、神殿の中でとても能力が高く見目もいいため、それぞれ神官、神官騎士の中では一番私に近い職務についていた。討伐の時はいつも二人が一緒だし、私の近くを守ることになっている。


「リゼット様、本当に治癒を施す人数を今よりも制限するおつもりですか?」


「ええ。だって、私、すごく疲れてしまっているの。討伐もあるし、そんなにみんなを治してあげられないわ」


 面倒な話だわ。だけど、本当は私も皆を癒してあげたいんだけど……という顔で話す。

 それで納得すると思ったのに、ギズリは不思議なことを言いだした。


「本当によろしいのでしょうか?」

「何が言いたいの?」

「もしもリゼット様が治癒できないとなると、聖女の力の恩恵にあずかれない者たちはきっと回復薬にたよろうとするはずです。回復薬は今、その多くを魔塔が調合し、流通させております」

「それってつまりどういうこと?」

「ひょっとすると、ルーツィア・リーステラの手柄にされるかもしれません」

「なんで!?」


 そういえば、街中に魔物が現れて大変だったあの時、ルーツィアが使っていたのが回復薬だったんじゃなかった?

 私が助けないと、ルーツィアが助けたみたいにされる危険性があるの?


(そんなのダメよ!しかも、私の力を受けれない貧乏人や軽傷人の方がよっぽど多いのに、下手したら私よりもルーツィアに感謝する人の方が多く生るかもしれないってことじゃない!?)


 そんなことは到底許されることじゃない。

 想像するだけで胃がむかむかする。苦々しい気持ちを持て余していると、ギズリは続けた。


「ですが、リゼット様。良いお話があります。モネ神官がリゼット様のために、特別な空間魔法の使い手を探してきたそうです」

「何の話?」


 本気で分からなくて首を傾げてしまう。どうやら朝の話の続きらしい。

 モネって誰だっけ?と思ったけど、あの地味な女神官がそんな名前なんだって。知らなかったわ。


「魔法を空間に留める、という魔法を使える者がいるのです。魔法石をまとめて置いておき、そこに一気に聖魔法を放っていただき、それを空間魔法で一定時間留め、閉じ込めておけば、魔力を取り込もうとする魔法石の特性で効率はあまり良くはありませんが、魔法をこめることができます」


「それってつまり、私は一人を治癒するときよりも、頑張って強めの聖魔法を長めに出せばいいだけってこと?」


「その通りです。1度の負担は増しますが、回数が減るので結果的にはリゼット様が楽になるかと」


「それ、すごくいい!私のためにありがとうギズリ!」


 その空間魔法の使い手とやらに頑張らせれば、私はちょっと頑張るだけでいいってことだよね?

 ギズリの話によると、もちろんきちんと魔法を込めたものと比べれば入る魔法量も少しで効果も薄くはなるらしいけど、ばらまき用ならそれでも民たちは喜ぶでしょ。


 だって、聖女様の魔法の込められた魔法石なんだもの!


(あ……でも、最近治癒魔法が一番疲れるんだよね……そのせいでちょっと効果が出にくい気がするし。もしもやってみて、魔法の強さが足りないなんて難癖をつけられたらどうしよう)


 まだ起こってもいないのに、そういう場面を想像してしまうとカッと怒りが湧いてくる。

 そんな私に、側でそっとフォーが囁いた。


『安心しろ、リゼット。オレの魔力も貸してやる。そうすれば、いつもより簡単な治癒魔法でも大丈夫なくらいになるだろう』

「本当?」


 そうだよね、フォーの力は絶大だもん!

 気になることは何もなくなった。


「ギズリ、私、民たちのために頑張るわ!だからあなたは、側で私を支えてね?」


 気になることがすっかりなくなった私は、とびきり可愛く見える笑顔を浮かべ、ギズリを見つめてあげた。

 隣では、フォーが満足げに笑っている。


 ふふふ、これでますます私は人気者になっちゃうわね!

 聖女って、本当になんて最高なのかしら!



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