70_聖女リゼットは忙しい①(リゼット視点)
私は聖女としてのあまりの忙しさに、本当に苛立っていた。
「あ~~もう!なんだか最近忙しすぎるんだけど!?討伐討伐討伐!危ないし汚いし疲れるし最悪!」
忙しいのなんて大嫌いなのに!
ゆっくり休んで買い物にも行きたいし、美味しいお菓子も食べたいし、神殿の神秘的な雰囲気の豪華なガゼボに令嬢たちを呼んでお茶会もしたい。
私は討伐で感謝されるよりも、綺麗で特別なドレスを着てみんなにちやほやされたいのよ!
『オレの可愛いリゼットはご機嫌斜めだな?』
「フォー!」
自らの名をフォーと教えてくれた私の美しい神獣は、優雅な動きで近づいてくると、私の体に尻尾を巻き付けて揺らす。
「あなたの力でもっとどうにかならないの?せめて一緒に来てくれればいいのに!」
フォーは美しくて優しくて、まさに私に相応しい。
だけど、神獣にとって召喚されることはなかなか体に負担がかかることらしくて、力が戻るまでは静養が必要だーとか言って、ずっとこの神殿の私の部屋でくつろいでいるのよね。
せっかくこれほど綺麗なんだから、もっと見せびらかしたいのに!
そんな不満を零していると、フォーがにんまりと笑う。
『ああ……そうだな。かなり力も戻って来たところだ。そろそろリゼットと行動を共にしよう』
「本当!?」
やった!可愛い私と、美しいフォー。私達の組み合わせって最高に素敵だから、きっと誰もが羨望のため息を漏らすに違いないわ。
それに、フォーといるとすっごく力が漲ってくるのよね。
さすが神獣。聖女に相応しい存在!
こうしてくっついていると疲れも取れるし、すごく気分もよくなる。不満や愚痴を満足するまで聴いてもらっているのも癒される理由の一つだとは思うけれど。
それに加えて、どんどん能力も上がっている気がする。
初めて瘴気だまりの解消のためとか言って討伐に連れ出された時はどうしようかと思ったけど、出発前にフォーに魔力を分けてもらったら、びっくりするほど簡単に瘴気だまりを解消することができたのよね。
私、ちょっとだけ怪我を治せるくらいだったから、自分があんなにすごいなんて知らなくて、自分でもびっくりした。
きっと今までは環境が私の才能を台無しにしていたのね。
あの時の神官や神官騎士の顔、最高だった。みんなが「さすがリゼット様!」って顔を赤くして興奮気味に褒めそやしてくれたから、すっごく気分がよかったことを思い出す。
神獣とは、魔力を込めて名前を呼び合うことで契約する。契約をすれば、お互いの魔力と能力は繋がり、それぞれの力も底上げされる。フォーはそう教えてくれた。
神獣は気難しくて、よっぽど気に入った人間としか契約しないんだって。だから、召喚に成功できてもすぐに契約できないことも多いらしい。
何度も何度も召喚して、交流して、媚を売って……それでなんとか気に入ってもらうことがほとんどで、それでも契約できないことも珍しくないって、老神官は言っていた。
でもフォーは一目で私を気に入ってくれたし、私はすぐにフォーと契約したの!
やっぱり、私って特別な存在よね。
召喚を手伝わせてあげた神官は「もう少し交流を深め、お互いの相性を見てからでもいいのでは」なーんて言って、まるで私がフォーと契約するのをよく思っていないんじゃないかって態度だったけど。あれってきっと、美しい私と美しいフォーの組み合わせに嫉妬したんじゃないかしら?
あの神官、地味で冴えない女だったし。
事実、私達の相性は最高だった。
おかげで瘴気だまりを解消するのも簡単だしね。
この前なんて、セルヒ様が驚いた目で私を見ていたわ!
きっとルーツィアが私のことを悪く伝えていたんじゃないかしら?そうじゃないと聖女である私の護衛を断るなんてありえないし。
だけど、ルーツィアから聞いていたのとは違って、私が可愛くて可憐で、おまけに瘴気だまりもあっというまに解消してしまうほどの超有能聖女だったから、ぽーっと見とれてしまったに違いない。
あの時は混乱していたみたいでルーツィアを庇うみたいな雰囲気をだしていたけれど、きっと今頃悶々としているはずよ。
『ルーツィアは本当に俺の思っていたような存在だったのか?』って!
その疑問は大当たりなのだから、きっと近いうちに自分の間違いに気づくはず。
聖女リゼット様こそ至高の存在で、自分が愛するべき人だ!って気づいたセルヒ様に、どうか護衛につかせてほしいとかお願いされちゃったらどうしよう?
何度かは断るべきかな?ルーツィアのせいで誤解があったとはいえ、私、ちょっと恥をかかされたようなものだし。お仕置きは必要だよね。
何度も何度も懇願して、私の足にキスをしたら許してあげてもいいかも。
『さっきまで不機嫌だったのに、いつのまにかご機嫌じゃないか』
「ふふふ。フォーのおかげよ。瘴気だまりがあまりに多いのは気に食わないけど、フォーが一緒にいてくれるならもうちょっとやってあげてもいいわ。うーん、でも、そうね。どうせできるなら、そろそろ街中とかにも瘴気だまりができればいいのに。そうすれば、私の神々しい活躍をもっといろんな人に見せられるのになあ」
『そうだな。オレのリゼットの前に全人類跪くべきだ』
「そうでしょ!?さすがフォー!あなたって本当によく分かっているわよね」
そういえば、ルーツィアってばまた汚い魔獣を連れていたっけ。
まあ、ルーツィアには恐ろしいあの黒い獣とか、あの小さくて地味な獣がお似合いよね。
(あの時のルーツィアの傷ついた顔も傑作だったし)
あの魔獣もルーツィアなんかと出会わなかったら、私に治してもらえる可能性もほんの豆粒くらいはあったかもしれないのに、お気の毒。出会う相手が悪かったわね。自分の運の悪さを呪ってほしい。
「それに比べて、私はすごく運がいいわ」
思わず零すと、フォーは満足げに体をくっつけてくる。
『オレも、自分の幸運に感謝しているよ。リゼットのような素晴らしい聖女とはなかなか出会えるものじゃない。おまけに契約までできた。これほどの喜びはないさ』
ああ!契約を拒むことも多い気難しい神獣が、私との契約を喜んでいる!
フォーの甘い囁きにどんどん気分は良くなっていく。
だけど、私を疲れさせるのは討伐だけじゃないのよね……。
◆◇◆◇
「はあ?今日もこんなに依頼があるの!?」
翌朝、神官の持ってきた予定表に思わず声を上げた。
そこには私の聖魔法で怪我や病を治してほしいという貴族たちの名前がずらりと並んでいる。
たしかに、たしかに気分はいいわよ?治癒は人の目に触れやすいから、感謝もされるし、お礼の贈り物も豪華で悪くないし。
だけど、これは人数が多すぎるでしょ!私、そんなに頑張りたくないんだけど!
不満がどろりと溢れ出し、お腹の底から黒いモヤモヤが湧き上がるような感覚に、イライラが止まらない。
だけどフォーが、そんな私を見てなだめるように笑う。
『リゼット、いい方法を教えてやろうか』




