67_魔獣ちゃんの実
日によってやってることが違うこともあるけれど、最近はわりとやることもやる流れも決まってきていたので、とりあえずその通りにやってみよう。
と言っても、本当に特別なことは何もしていないんだけれど……。
オーランド様に教えてもらった作り方で、拙くてもいいから回復薬を通常よりも魔力を多めに注ぎながら作って……それを今日もやったように魔法で増幅させて準備した後、ひたすら魔法を使ってみたり、本来なら体の中を循環させる魔力操作を、わざと魔力を漏らしたりしながらやってみたり。
そうすることで魔力をどんどん消費するから、魔力切れを起こす寸前で薄めた回復薬を飲む。
あとは合間にストレッチしたり、文献を読んだりして勉強したりとか、それくらいのものなのよね。
本当は魔力が完全に切れてしまう方が回復過程で魔力量が増えるって文献には書いていたんだけれど、そうすると休む時間が今の3倍以上必要になるし、翌日の体調にも響いてしまいかねないから、今の方法に落ち着いたのだ。
この訓練は自主的なもので、オーランド様に見てもらう時間をおろそかにするわけにはいかないから。
実際にそんな流れを披露する間、何度かセルヒ様が「なっ!?」とか「ひっ!?」とか呻き声や悲鳴を上げていた気がするけれど、ノース様に抑えられていた。
まさか、私のやっていることがあまりにも無茶すぎるから、心配したセルヒ様が咄嗟に止めようとしていたことなど気づかずに、私は慣れ切った内容を淡々とこなして見せていく。
「なるほど……たしかに、無茶苦茶で褒められたものではないけど、理にはかなっているし効率的ではある。ルーツィア、これを毎日繰り返しているのかい?」
「少し内容を変えてみたりもしますけど、基本的にはこんな感じです」
「そう。これを毎日こなせるだけでも本当にすごいことだ。普通は3日でぶっ倒れていてもおかしくないよ?とはいえ、それでもこれほど魔力量が飛躍的に増えるのは不思議なんだけど……」
うーん、毎日やっているとはいえ、人に見られている緊張感もあって、さすがにいつもより少し疲れてしまった。
はあはあと小さく息を切らしていると、さっき飲んだ回復薬ですっかり元気を取り戻した魔獣ちゃんがとことこと近づいて来た。
そして、私の足元に辿り着くと、いつものようにぷるぷると震え、ポンッとツヤツヤの実を出してくれた。
疲れ切っていたところに美味しい実をもらって、私は我慢できなくて。
本当は皆がいる前で私だけおやつを食べるのって良くないかもしれないけど……正直、すっかりお腹が空いている。
魔獣ちゃんも食べて食べてと期待したような目で私を見つめているし、ちょっとくらい、きっと許してもらえるよね……!
「魔獣ちゃん、いつもありがとう!いただきます」
食欲に負け、すっかり食べなれた実にかじりつく。
すると、その瞬間なぜか息を呑む音がいくつか聞こえた気がした。
んん……?
顔を上げると、セルヒ様もノース様もオーランド様も、みんな目を丸くして私を見つめている。
ひゃっ!やっぱり、みんながいるのに一人だけこんなに美味しい実を食べるなんて、非常識だったよね!?
そうだよね、みんな討伐で私なんかよりもいっぱい動いて疲れているはずで、それってつまり私より何倍もお腹が減っているはずってことでもあって。
それなのに私のために時間を割いてくれている中で、私ってば食欲に負けてとんでもないことをしてしまったわ……!
だけど、食べてしまったことはもうなかったことには出来ない。
私はなんとか引きつった顔でほんのり笑顔を浮かべると、食べかけの実を3人に向けて差し出した。
「ええっと、た、食べますか……?」
私がそう言った次の瞬間、オーランド様が大きな声で私を名前を呼ぶ。
「ルーツィア!」
その声が、どこか緊張感を含んでいるように聞こえたため、やっぱり怒っているんだわと感じた私は反射的に頭を下げて必死に謝る。
「はい!すみません!や、やっぱり、食べかけを差し出すなんて失礼だったですよね!というか、皆さんがいる前で何も考えずに一人だけ食べちゃうなんて、食いしん坊で本当に本当にごめんなさい!」
「そうじゃなくて!」
あれ?そうじゃないの?
それなら一体どういうことだろう?
私を咎めているわけじゃないなら、どうしてそんなに表情が強張っているんだろう?
さっぱり分からない私に詰め寄ると、セルヒ様は私の肩を掴み、がくがくと揺さぶる。
わ、わあ!頭の中が揺れるわ!
それに、実を、実を落としてしまう!
「ルーツィア!?今、何がっ……というか、何を食べた!?それはなんだ!?」
焦ったようなセルヒ様の声に、とにかく必死に答える。
「こ、これは、とっても美味しい実です……!ええっと、私が勉強や訓練をしていると、いつも魔獣ちゃんがこうやって出してくれて……」
「いつも!?いつもこれを食べているのか!?」
セルヒ様の顔が驚愕に染まる。
オーランド様はそんなやりとりを見て、ぽつりとつぶやいた。
「ちょっと、ノース、アルヴァンを呼んできてくれ」
その声がなんだかとっても疲れているように聞こえて、やっと私は、これはひょっとしてとても大変なことなのではないかと不安になったのだった。




