68_アルヴァン様にも分からない謎
「魔獣が出す実など聞いたことがありません!どうか、どうか私にもその実を分けていただけませんか!?」
部屋に転がり込む勢いで現れたアルヴァン様は、鼻息荒く床に這いつくばって魔獣ちゃんに頼み込んでいた。大興奮である。
わあ……とっても目がキラキラしているわ……!
でも、そうやって魔獣ちゃんに何度も何度もお願いしながらも、その合間にときどき何か小さな瓶のような物を顔の前に持って行って深呼吸している。あれはいったい何をしているのかしら?
「あれ、気付け薬だよ~。うぷぷ!アルヴァン、こんな貴重な機会を前に、興奮で気絶するわけにはいかないからって、超強力な気付け薬をひっつかんで持ってきたんだ。というかあいつ、薬使う頻度高すぎない?」
ノース様が笑いを零しながらそう教えてくれた。
アルヴァン様……いっつも倒れて意識を失ってしまうものね……。
「キュウキュウ~キュッ!」
「ああっ、そんなっ」
魔獣ちゃんはアルヴァン様が気に入らないようで、近づくアルヴァン様を小さな足で必死に蹴り飛ばしている。
蹴られているアルヴァン様は、なんだかちょっと嬉しそうだけれど……。
しばらくしてやっと、どんなに頼み込んでも魔獣ちゃんが自分の望みに答えてくれるつもりはなさそうだと諦めたアルヴァン様が泣きながら近づいて来た。
「魔獣が出す謎の実……食べたかった……調べたかった……!」
「ア、アルヴァン様、元気出してください……」
「アルヴァンでも分からない実ということは、本当に謎に包まれているよな。それならアルヴァンを呼んだのもただややこしくなっただけのような……というかルーツィア、それを毎日食べていたってことだけど、体に異変はないのかい?」
「はい、とっても美味しくて、むしろ元気が出る気がするくらいで……」
その瞬間アルヴァン様が俯けていた顔を勢いよくあげ、目を見開いて私に迫って来た。
「ひええ!?」
「実を調べることができないのならば!どうかどうか、ルーツィア嬢の体を調べさせていただきた──ああっ!」
最後の一文字を言う前に、アルヴァン様はセルヒ様に首根っこを掴まれ、雑に引っぺがされていった。
ちょっと離れた部屋の隅に連れていかれたアルヴァン様は縮こまってなにやらセルヒ様に怒られているみたいだ。
……いや、あれはなんだか、の、呪われている?セルヒ様、蹲るアルヴァン様の頭上から、至近距離で呪詛のようなものを呟いていない?
側でノース様が大笑いしているから、きっと、本気で呪っているわけじゃあなくて、冗談みたいなやりとりをしているってことだよね……?
なんだか見てはいけないものを見ているような気がして、そっと目をそらした。
「まあ、変態アルヴァンの言うことも一理あるんだよね。ルーツィア、久しぶりに君の魔力鑑定をしようか」
「……はい!」
本当に私の魔力量が増えたのか、とっても気になる私は、オーランド様の提案に元気よく返事をした。
◆◇◆◇
久しぶりに鑑定用水晶の前に立つ。
ノース様は別のお仕事があるらしくて行ってしまった。なので、今回の鑑定を見届けてくれるのはセルヒ様とオーランド様、そして興奮でうっかり私に飛びつき邪魔をすることがないように、とセルヒ様に縛り上げられたアルヴァン様、私の帰塔に気づいてお出迎えにきてくれたフワフワと、おまけに魔獣ちゃんだ。
「では、行きます!」
最初に、普通の魔力を測る水色を帯びた水晶に手を翳す。
普通の魔力は体内に持つ魔力回路を流れる魔力で、私はこの魔力を一切持っていないから、魔力ナシと判定されていた。
案の定、水晶には何の反応も起こらない。
「まあ、ないものは増えようがないから、こっちは念のための測定だったけど、やっぱり普通の魔力については変りないみたいだね」
「ほんの少ししかないものが増えることはあっても、一切ないものが生まれるのはそれ以上に稀な現象だからな。それが魔力なれば奇跡でも起こらなければありえない」
オーランド様もセルヒ様も結果に納得しているようで、何度も頷いている。
……私にとっては、特殊魔力があると分かったことも、たしかに奇跡だったんだよね。
もちろん、あると知らなかっただけで元々少しは持っていて、セルヒ様が言うように全くなかったものが生まれたわけじゃないけれど。でも、私からすれば同じようなことだった。
まさか私が魔法を使えるようになるなんて、少し前の私には思いもよらない奇跡だった。
感慨深い思いに浸りそうになるけれど、今はそれどころじゃないよね。
気を取り直して、次にオレンジ色を帯びた水晶に手を翳す。
こちらが本命。自分の肉体、血、細胞、体を作り上げている全てで生み出される特殊魔力を測る方の水晶。
以前、魔塔に来たばかりの頃に鑑定したときには、ほんのり小さな金の粒子の混じった、淡く白い光が出てきたんだよね。綺麗な綺麗な、私の魔力……。
魔力ナシだと思っていた自分に、魔力があったことに驚いたこと、可視化されたその魔力があまりに綺麗で、すごく嬉しかったことを思い出しながら、手のひらがぽわりと温かくなるのを感じた、次の瞬間。
「わっ……!?」
突然水晶がピカッ!と、咄嗟に目を瞑ってしまうほどのとんでもない光を放った。
「ルーツィア!」
思わず仰け反り、よろめいたしまった私を、セルヒ様が後ろで受け止めて支えてくれる。
次に、バチン!と何かがはじけるような音が響く。
目を瞑ってしまった一瞬のことだった。
「な、何が起きたの……?」
目を開けて、呆然と立ち尽くす。
部屋中に眩いばかりの金色の粒子が舞い、その中心で……オレンジ色の水晶が粉々に割れてしまっていた。




