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61_瘴気だまりについて

 

 時は少し遡る──。


 セルヒ様、ノース様、オーランド様とBランクの魔物の出現地点に向かう前に、私は最近の魔物事情を説明してもらっていた。


「瘴気だまり、ですか」


 瘴気とは、悪意を持つ魔物がその体から放っているもので、そういう魔物が存在しているだけで瘴気も生まれ続ける。

 また、そんな魔物がひどく興奮したり、強烈な怒りを覚えたりしても瘴気は増えるし、瘴気を纏う魔物が死ぬことで、さらにその量は増えてしまうらしい。


 だから、魔物の被害が多ければ大きいほど、その場に広がる瘴気も増えてしまうことになる。


 瘴気は一定量が集まって凝縮されてしまわない限り、その発生源がいなくなれば徐々に薄くなり消えていく。

 だけど、一定量が集まり、薄くならなくなってしまうと、そのうちに瘴気だまりが発生するのだ。

 そうすると、自然に消えることはなくて、聖魔力で消し去るか、瘴気だまりの強さの何倍もの威力の魔法で一気に消し去るかしかなくなってしまうのだとか。


 つまり……リゼットの聖魔力か、セルヒ様たちくらいの強い魔法使い様たちの魔法以外では、瘴気だまりには対処できないのだ。


 ……街中に魔物が現れた時も、下手すれば瘴気だまりが出来てもおかしくなかったらしい。

 想像してしまって、ちょっとゾッとした。


 最近、王国内のあちこちの地域で急激に成長する瘴気だまりが発生していて、その解消に聖女であるリゼットや聖騎士様たちが駆り出されていること、瘴気だまりからは新たに魔物が生まれるため、そのせいで魔物の数が増えてきていること、今回の件で分かるように、出現する魔物の強さが増していることなど……。


 事前情報として、色々説明してもらった。


 そんなことが起こっていたなんて。

 そういえば、魔塔の魔法使い様たちからすればBランクの魔物の討伐はそこまで難しいことではないのに、それにしてはセルヒ様がさっきやけに難しい顔をしていたことを思い出す。

 きっと今回の魔物の出現のことだけではなくて、それ以上に瘴気だまりが多発していることについて問題視していたんだわと気づいた。


「じゃあリゼットは聖女としてすごく頑張っているんですね……」


 私がまず思ったのは、リゼットの頑張りについてだった。


 リゼットとは色々あったけれど、やっぱりリゼットの力はすごいし、そうやって皆のために頑張ってくれているんだと思うと頭が上がらない。

 それにそんなリゼットの活躍を思うと、私ももっともっとセルヒ様たちはもちろん、色んな人のために何かできるようになりたいとますます強く思う。


「ルーツィア……まったく、君は本当にすごいな」

「えっ?」


 気が付けば、ぽかんとこちらを見ていたセルヒ様がしみじみといった様子で呟く。

 私、何かへんなことを言ったかしら?


「いや、リゼット・リーステラの聖女の立場は、君から横取りしたと言っても過言ではないものなのに。そんな彼女の頑張りについてそんな優しい表情で話せるなんて、本当に心が綺麗なんだなと感心していたところだ」

「ええっ!?」


 驚きすぎて、思わず大きな声が出てしまった。

 セルヒ様はあまりにも優しすぎて、私に対する評価がちょっと甘すぎると思うのよね……。


 リゼットが聖女になったのは、改めて考えてもやっぱりリゼットの聖魔力の力がとても稀有で優れているからだと思うし、私の心が綺麗だなんてとんでもない。

 でも……セルヒ様が本当にそう思ってくれているなら、それは私にとってとても嬉しいことだから。


 だから、私はリゼットに負けないくらい能力をつけたいなと思うし、心が綺麗なように見えるほど、人に優しくいたいと決意したのだった。


「さて、セルヒ、ルーツィア、それにノース。そろそろ準備が整ったから行こうか」

「はい!」


 オーランド様に促されて、私はローブの懐に魔獣ちゃんを大切に包み込み、右手をセルヒ様と、左手をオーランド様と繋ぐ。

 私は一人で空を飛べないから、こうしてセルヒ様とオーランド様に手を繋いでもらうことで魔法を纏わせてもらい、一緒に空を飛ぶことができるのだ。

 ちなみに、フワフワは残念ながらお留守番です。

「我もルーツィアとともにいく!!!」と駄々をこねていたけれど、あまり関係がいいとはいえない聖教会の人達に、魔獣連れであることを理解してもらえない可能性が高いというオーランド様の判断だ。「うっかりフワフワも討伐対象だと勘違いされても大変だしねえ」とのことで、私も必死に待っていてもらえるように説得した。


「くっ!本当はオーランドがルーツィアの手を握るのも許しがたい……俺一人でルーツィアとともに飛ぶことなど造作もない事なのに……」

「わはは!諦めろ愛弟子よ。ルーツィアが可愛いなら安全に二人体制の方が良いに決まっているだろう?それにそれを言うなら私一人でルーツィアを連れて行ってもいいんだけれど?」

「いくらオーランドといえど消し炭にしてやりたくなるから冗談でもそういうことを言うのはやめてくれ」

「相変わらず弟子が物騒!」


 頭上でセルヒ様とオーランド様が冗談を交わし合っているのを聞きながら、私はちょっぴり緊張していた。

 空を飛ぶこと自体久しぶりだし、何よりも実際に強い魔物を討伐する現場に赴くことにも私は慣れていないのだもの。絶対に足だけはひっぱらないようにしなくちゃ!


 そう思いながら、セルヒ様とオーランド様と繋いだ手にギュッと力を込める。



「ぐっ、う……ルーツィアの可愛い手が俺の手を必死に握っている……!」


 小さくうめき声をあげながらなにやら呟いているセルヒ様。


「俺はもう突っ込まないよ~!」


 そんなセルヒ様を呆れたように見ているノース様と、真剣な表情で待っている私を眺めて、オーランド様が笑いながらひとつ頷いた。


「さあ、弟子がうっかり使い物にならなくなってしまう前にさっさと向かおうか!出発!」


 ◆◇◆◇


 Bランクの魔物が現れたという、瘴気だまりが発生している現場は、王都から少し離れたところにある森のような場所だった。


「あれ、今回の瘴気だまりは思ったよりも小さいねえ」


 オーランド様が空の上から地上を眺め、意外そうに呟く。その言葉にこっそりうかがうと、セルヒ様とノース様も同じように思っている様子だった。


 ここからじゃ私にはよく分からないけれど、やっぱりすごい魔法使い様たちにかかるとちょっと見ただけで瘴気だまりの正確な位置と大きさが分かるらしい。

 うーん?と思いながらよくよく目を凝らすと……。


「わ!ひょっとしてあれが瘴気だまりなのかな?」


 森の中に、モヤモヤとしたものが渦巻いているように見える場所があった。

 魔力に似ているけれど……ちょっと様子が違う。あまりよく知らなくても禍々しさを感じるそれに、思わずひとりごとを呟くと、それをセルヒ様が拾ってくれた。


「ルーツィア、ひょっとして君は瘴気も目に見えているのか?」


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挿絵(By みてみん)

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