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60_魔獣ちゃんの実と瘴気だまり

 

「キュ~」

「ひょっとして、私がお腹をすかせているから、食べてもいいよって私にくれたの?」

「キュッ!」


 誇らしげに、目を細めて私を見つめる魔獣ちゃん。どうやらその通りだということらしい。

 なんて優しい魔獣ちゃんなの……!


 感激しつつ、もう一度実を見てみる。……すごく美味しそうな実だわ。

 見れば見るほどお腹が空いてくるような、不思議な魅力に惹きつけられる。


 私の安全を守ることにとてつもない意欲を見せるフワフワが止めないってことは、きっと食べちゃいけない実じゃないってことだよね?

 魔獣ちゃんからの贈り物、ありがたくもらっちゃおう!


「いただきます……んんっ!?こ、この実、すっごく美味しい!!」

「キュウ!」

「ありがとう、魔獣ちゃん!なんだか元気も出てきたよ」


 頭を撫でると魔獣ちゃんは気持ちよさそうにしている。

 こんな可愛い魔獣ちゃんを、やっぱりどうにか助けてあげたい。

 私にできることなら、なんだってする。だからどうか、魔獣ちゃんが少しでも元気になれますように。


 ◆◇◆◇


 その日、朝一番で顔を合わせたセルヒ様は難しい顔をしていて。挨拶もそこそこに、オーランド様やノース様も集まって来た。


「Bランクの魔物が出たらしい。これから討伐に向かうことになると思う」


 セルヒ様に告げられた内容に驚いてしまう。


 魔物はその強さや特性のあわせてランク付けされている。

 Fランクが一番下位で、E、D、C、B、Aランクと強さは増していく。


 たしか、ここ最近は魔物の出現が増えているって言っていた。だけど、そのどれもDランクやCランクの魔物だって言っていたはずなのに。


「聖女を迎えてやる気満々な神殿がすぐに出張るから、最近じゃ俺らの出番はあんまりなかったんだけどな~!さすがに神官騎士にBランク以上は荷が重いかー」

「そうなんですか?」

「神官騎士が弱いわけじゃないんだけどね。今は聖女がいるし、万が一がないように魔塔の協力を得ときたいってわけ」


 ノース様が説明してくれる。

 なるほど……。そういえば、リゼットの護衛をセルヒ様に依頼するくらいだもんね。

 あと、話しぶりを聞いていてなんとなく察した。きっと、魔塔の魔法使い様たちが強すぎるだけなんだろうなって。

 その証拠に、セルヒ様たちはいつもと同じようにすごくリラックスして見える。


 このままお見送りかな、と思っていると、オーランド様が私をちょいちょいっと手招きした。

 なんだろう?

 呼ばれるままに近づいていくと。


「ルーツィアも行くかい?」

「えっ!?いいんですか?」

「もちろん!Bランク程度なら危険はないだろうし、万が一何かあってもセルヒがいればルーツィアは守られるしね」

「むしろルーツィアちゃんがいた方がセルヒがやる気出して仕事もさくっと終わるんじゃないの~?」

「はは!違いないね!」


 オーランド様とノース様はそう言って笑っているけれど、本当にいいのかな?私、邪魔になっちゃわないかな?

 でも、許されるなら……行きたい!


 おそるおそるセルヒ様の方をうかがってみると、笑って頷いてくれた。


「一緒に行くかい?ひょっとしたらリゼット・リーステラも来るかもしれない。……小さな魔獣くらいならば連れて行っても危険はないだろうしね」


 !

 セルヒ様、私がなんとか魔獣ちゃんをリゼットに治してもらえないかって考えてることもお見通しなんだ!


「はい!私も行きます!」


 嬉しくて、すぐに返事をする。

 こうしちゃいられない!魔獣ちゃんが寒くないように、怖くないように、しっかり準備をしなくちゃ!


「それにルーツィアが側に居る方が安心できる……俺のいない間に変な虫が寄ってこないかいつも心配だからな……それに討伐でいいところを見せられるチャンスでもあるからな」

「あはは、ルーツィアちゃん、全然聞いてないけど~?」

「うるさいノース」

「やっぱり俺には冷たいよね!?ルーツィアちゃんに優しくする半分くらいは俺にも優しくしろよー」

「お前にやる優しさなどもったいないそんな余裕があるなら全部ルーツィアに捧げる」

「アッ、ソウ……」

「ノースも馬鹿だね、こりずにセルヒに絡むなんてさあ!結果は目に見えているじゃないか。だけど、リゼット・リーステラがこちらの頼みを聞いてくれるかねえ」

「だが、聖魔法を使えるのは近隣の他の国をあわせてもリゼット・リーステラだけだ。聖女になり、神官や神官騎士の護衛も近くにいる。断られる可能性はあるが、さすがにルーツィアを傷つけるような暴言は慎むだろう」

「……そうだといいけどねえ」


 魔獣ちゃんはとても小さいから、きっと私の懐に入れて連れて行けるよね。

 セルヒ様の言う通り、ひょっとしたらリゼットに会うことができるかもしれない。そうしたら、なんとかお願いして、魔獣ちゃんの瘴気を浄化してもらえるようにいっぱいお願いしよう!

 ふと、神殿で会った神官のソレイユ様と、神官騎士のギズリ様の顔が浮かぶ。

 ……また、神官様や神官騎士様に、怒られちゃうかもしれない。


 だけど、神殿に入れてもらえないなら、直談判しかないよね!

 魔塔の魔法使い様と一緒に討伐するんなら、協力関係ってことになるんだから、少しはお願いを聞いてもらえるかもしれないし……。




 ──今までも何度もそんな風に期待して、何度も裏切られてきたのに。愚かな私は、またそうやって期待してしまった。

 私の腕の中で、小さな小さな魔獣ちゃんはぶるぶると震えている。


「なによ、その弱そうな生き物?それに私の魔法を使ってほしい?冗談でしょ?」


 リゼットは、そんな魔獣ちゃんを見て、汚らわしいといわんばかりに顔を歪めて吐き捨てた。


 その姿に、昔の記憶が重なる。

 リゼットにフワフワを治癒してあげてほしいとお願いしたかったのに、全然話を聞いてもらえなかったあの時のこと。

 さっきまで小さな声で話していたのに、突然リゼットは大きな声で嘆き始めた。


「その子のこと、『魔獣ちゃん』なんて呼んでたよね?さっき聞いていたわ!聖女たる私に魔獣を差し向けて傷つけようって魂胆なんでしょう!?怖い!ルーツィアはいつもそう!私のことが嫌いだからっていつもいつも嫌がらせして来て……今までそれでも我慢して来たけど、まさか私の命まで狙おうとするなんて……!」

「ち、ちがっ、私、そんなつもりじゃっ」


 慌てて否定しようとするけれど、しくしく泣き始めてしまったリゼットの前に、神官のソレイユ様が立ちはだかる。


「恥を知れ、ルーツィア・リーステラ!いや、リゼット様と同じリーステラ家を名乗るのも許しがたい卑劣な存在め!この私ソレイユがいるかぎり、二度とリゼット様を害することはさせない!」


 あの……色々言いたいことはあるけれど……私、もう、リーステラじゃない、です……。



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