ジ・ルクスの翼②
第一層のボス部屋をでて二層へ向かい階段を下る。
「ここら辺で休みましょう」
その中程で休憩をとることにする、時計を確認すると迷宮に潜ってから半日が経過していた。
神工迷宮においては階層を繋ぐ階段では魔物は現れないのである。
しかし、人は別である。
当然の事だが他の冒険者に遭遇することもある。
ランク制限があり挑戦する際に厳しいチェックがある《ジ・ルクスの翼》ではあるが、迷宮内に監視の目などない。
冒険者ランクの査定には人格面も含まれるため、上位ランクにチンピラや盗賊まがいの冒険者がいないことを信じたいがそういうわけにもいかない。
「俺が先に見張りをするよ」
「お願いするわ、三時間で交代しましょう」
セレスはそう言うやいなや、壁に背を預け剣を抱いて眠りにつく。
いつでも抜ける様に柄に手をかけたままで寝ている、侍みたいだ。
訪れた静寂が流星に考えさせる。
クラスメイトのこと、他国の勇者のこと、自らのステータスのこと。
魔族との戦い、そしてその後のことまで。
周囲を警戒しながらも思考を巡らせたが何一つとして答えはでなかった。
きっかりと三時間でセレスが目を覚ました。
「交代よ」
流星にも疲労がたまっていたのだろう、考えるべきことはたくさんあったけれど今はただ静かに眠りへと誘われた。
☆☆☆
目が覚めた。迷宮攻略二日目が始まる。
干し肉を水で戻して柔らかくしてからパンと一緒に食べる。
「……いまいち」
「そう?栄養がとれさえすれば味なんてどうでもいいじゃない、はやく食べて進むわよ」
「はい」
一日目と同様、ボス部屋までの道中はなるべく戦闘を避ける。
第二層のボスは機械でできた大蛇だった、初手で火炎放射を放たれた。
かすり傷も負わなかったが、その炎は石畳も燃やすほどの熱量で灼熱の中、薄くなる酸素の中、短期決戦を余儀なくされた。
第三層は機械でできた三首の番犬、3つの首はそれぞれ別の属性、水・土・風を持っていた。
焔属性の流星からしたら不利な水属性の首を有利な雷属性のセレスが相手取ろうとしたが、3つの首の連携は見事なもので上手くことを運ばせてくれなかった。
第四層は機械の巨人、その巨体から繰り出される一撃は即死級のもので、その攻撃を交わしながら頭部にあるコアを斬るのに苦労した。
第五層は黒騎士、漆黒の鎧のしたからギュイーンと駆動音を響かせながら剣聖もかくやという剣技を繰り出してきた。流星が遠距離から弾幕をはり、黒騎士の足留めと目眩ましをして、その隙に黒騎士の頭上まで飛び上がったセレスが自身の持つスキルの中でも最高火力の一撃を放って何とか勝利した。
そして、ついに第六層に到達した。
ここに来るまで8日ほど経過していた。
二人が出会ってから10日以上過ぎていた、ほとんどが仕事に関係することばかりではあったが、それなりに言葉を交わしていた。
六層へと繋がる階段にて休息をとりながら二人は少しだけ会話をしていた。
「……貴方、なかなかやるわね、この私についてくるなんて」
「えへへ」
始めてセレスに誉められた流星はにやけていた。
「だらしない顔しないで」
流星は怒られた。
少しの間、漂う沈黙。
それはもう慣れたものだったけれど、この時ばかりは流星が口を開いた。
「あのさ、嫌なら別に答えなくていいんだけれど……聞いていい?」
セレスは視線だけで先を促す。
「なんでそんなに強さを求めるの?」
「そんなこと、義務いえ、誇りだからよ」
それからセレスはゆっくりと話し出した。
「私の家、サンダーボルト家は国を守ることを生業にしてきたの、王国の剣とまで称されるようになったわ、公爵家として豊かな暮らしをさせて貰っている代わりの義務ではあるけれど、それ以上に誇りであったの、人々の暮らしを守るってことが」
流星は静かに聞き入る。
「まあ、幼い頃は義務だとか誇りだとかなんて難しいことはわからなかったけど騎士団長として皆を守ってるお父様がかっこよかった、憧れたの、私が強くなりたい理由はただそれだけ」
「うん」
「だからガムシャラに努力をしてきたわ、脇目も振らずに、」
「セレスは充分に強いよ、少し肩の力を抜いてもいいんじゃない?」
「いいえ、私は弱いわ、貴方も見たでしょう、魔将の力を、あの時私は何もできなかった、ああいうときの為に鍛えてきたはずなのに何も……怖くて震えていただけだった、【流れ星】が守ってくれたけど、本来なら私がやらなくちゃいけなかったッ」
「……そっか、すごいな」
嗚呼、凄いな。純粋にそう思う。
自分が弱いことを認めてそれでも足掻いている姿勢、それは俺にはなかったものだ。
公爵家として国を守る。
【闇を纏いし星屑】として世界を人知れず守っている。
俺の妄想とは全然違う、俺は妄想の中でさえ努力なんてしなかった、もとから世界最強という設定だった。
彼女の覚悟が眩しく思う。
俺が彼女にかけるべき言葉はなんだろう?
1人で得られる強さには限界がある。
ゆっくりと強くなっていけばいい、生き急ぐ必要なんてない。死んでしまったら何も守れない。
正論だけれど間違っている。
そんな正論で彼女を否定なんてしちゃいけない。
きっと彼女は危険なんて承知の上だ。
それでも走らずにはいられないんだ。
「うん、素材集め頑張ろう!」
今は俺がパートナーだから、付いていくよ君の後ろを。
これは言葉に出すことはなかったけれど、俺はこの人の力になりたいと思ったんだ。
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