セレス=フォン=サンダーボルト①
この街、ウォーグレンの冒険者ギルドの一室。
幾つかある応接室の中でもとりわけ上質な部屋。
部屋の中央には大きな大理石のテーブルが存在感を放っている。
そのテーブルを挟んで向かい合うように置かれたソファーも庶民の俺でさえ上質なものであるとわかる。
座るとずむぅと沈みこんでいき、包み込むようにお尻にフィットするのだ。
座り心地の良いソファーに身を委ねながら左右の壁に飾られている絵画を眺めながら、この部屋の内装にはいくらかかったのだろうかとぼんやりと考える。
「呼び出して悪いな、リューセイ」
ふむふむ、この絵はなかなかのものですな、ふむ味がある、脳内でわかりもしない絵画の品評をしてみる。
現実逃避である。
俺の目の前に座る男に意識を向けたくないのだ。
大きな大理石のテーブルや、数々の美術品、そんなものよりも遥かに存在感を放っている男だ。
左目から首筋にかけて大きな爪で切り裂かれたような傷に、もう片方の瞳から覗く鋭い眼光。
獣のような笑みをたづさえたこの男こそが、《ギルドマスター》グルダック=アイゼーン氏である。
ドラゴンスレイヤーの称号を持つ元Aランク冒険者である。
話を聞くと引退してからは10年経っているというのに隆々と盛り上がった筋肉は衰えてなどいないだろう。
今でもトップランカーとして活躍できるだろう。
さて、そんなギルドマスターになんで呼び出されたのだろうか?あと顔怖い。
問題行動など起こしてないのに、こちらのセカイに召喚されてまだ数ヶ月、知らないうちにタブーをおかしていたのかな?やっぱり顔怖い。
戦々恐々とギルマスの次の言葉を待つ俺に対して
「そんなに、固くならんでいい、とって喰おうって訳じゃぁない」
そう言ってニカッと笑うが、やっぱり怖い。
「そ、それでどういったご用件でしょうか?」
「うむ、ちょっとな、頼みがあってな」
「なんでしょう?」
「パーティー組む気はないか?ほらランクが上がるにつれクエストも高難易度になってくる、1人では切りぬけられない場面もでてくるだろう、パーティーを組んだ方が生存確率があがる、どうだ?」
1人でCランクにまで上がった俺を心配してくれているのか?そういうことならと
「はい、わかりました、仲間を探してみます」
ご心配ありがとうございますと頭を下げると
ギルマスは首筋の傷を掻きながら歯切れ悪そうに言った。
「あ、いや、なんつーか、もう決めてるんだ、メンバー」
「はい?」
「この国、アリーズ王国の第1騎士団長は知っているか?」
「はい、ライゼン=フォン=サンダーボルト閣下ですよね」
《轟雷の騎士》の異名をもつこの国、最強の騎士である。
「それで、その騎士長閣下とどういった関係が?」
「娘だ、ライゼン=フォン=サンダーボルトの三女、セレス嬢とパーティーを組んでもらいたい」
サンダーボルト公爵家、アリーズ王国の大貴族にして、《アリーズ王国の剣》と称される、この国きっての武闘派である。
サンダーボルト家には変わった風習がある。
修行の一貫として子女を冒険者にするのである。
通常、公爵家ほどの大貴族が冒険者になることはまずない。
なるとしても下級貴族が食い扶持を稼ぐ為や、ごくたまに道楽として冒険者になる貴族がいるくらいである。
しかし、サンダーボルト家は現当主ライゼンは元Aランクであるし、セレスの兄はAランク、2人の姉もBランクである。
そんな中、セレスも冒険者となるのは当然のことであった。
そして彼女はその血筋の才能を遺憾無く発揮して、冒険者デビューから僅か半年でCランクにまで登り詰めたのだそうだ。
「さっきも言ったがランクが上がるにつれ、クエストは難しくなってくる、ギルドとしてもパーティーを組むことを推奨してるんだが、彼女の場合、なまじ家格と才能があるからな、なかなか同世代で合う相手がいなくてな……何度かパーティーを組ませてみたんだが一週間も持たずに抜けてしまうんだ、だからよ、彼女と歳も近く、その速さでCランクになったリューセイ、お前さんなら彼女についていけるんじゃないかと思ってな」
ギルマスは俺の瞳をじっと見据えて
「別にな、お前さんや彼女にしたって、1人でももっと上に行けるかもしれない、それこそAランクにまで届きうる才だと思っている、けどよ、どんなに強くたって万が一ってことがあり得るんだ、その万が一を減らすためにパーティーを組んで欲しいと思ってる、頼むセレス嬢と組んでやってくれ」
「わかりました」
「ありがとう、そういってくれると思ってよ、もう呼んでいるんだ、もう少しで来るから待っていてくれ」
そして暫くソファーに腰かけてまっていると、カチャリと扉が開いて、1人の女の子が入室してきた。
「お、よく来てくれた、座ってくれ」
セレスはギルマスに促されるままにリューセイの横に座る。
一目見た印象は綺麗。
肩までかかるゆるく巻かれた金髪に、透き通るような碧眼。
歩く姿もソファーに浅く腰かける姿も、所作の一つ一つが美しかった。
品があって、ああ、良いとこのお嬢様なんだなと。
「セレス嬢、こいつがリューセイだ、ランクはCで、なんと冒険者になってからまだ3ヶ月の期待のルーキーだ」
「リューセイ=ホシミヤです、宜しく」
彼女は俺を一瞥して、
「……セレス=フォン=サンダーボルトよ」
そっけなく自らの名前を呟いた。
お読みくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想等、宜しくお願い致します。
また、他にも作品を書いておりますので、興味のある方は作者ページからご確認下さい。
ノクターンノベルズでも一作投稿しています。
読んでいただけたら嬉しく思います。
ありがとうございました。
皆様、良いお年をお迎えください。




