第3章5話 初級ダンジョン攻略2日目
今朝は夜明け前から起きて、心を入れ替えて心機一転いつもよりも特に入念に剣術の朝練をやってから、朝食後に気合を入れ過ぎて冒険者ギルドはそのままスルーしてしまって、いきなり初級地下迷宮まで来ていた。
それほど大きくない川沿いの洞窟に入り口があって、冒険者ギルドの出張所の小さな小屋で受付嬢さんにギルドカードを見せてから、地下一階に下りて行くとそこには。
「いやぁあああああ!」
「ひっ…………」
やっぱりルリが背中によじ登って来たのだが、今回は『車椅子』のユウナが無表情のまま青い顔をして固まってしまっていた。
この地下一階は広い草原というか、通路の無いだだっ広いフロア構造になっていて、そこら中に細長いミミズというか、ワームと言うらしい大小さまざまな触手っぽい魔物がウヨウヨとのたくっている。
「あ~、この初級地下迷宮は『触手地獄』と言うらしく――まあ、見た通りのまんまだな」
「で、ルリはともかく、あのユウナが鳥肌が立てて固まっているんだから多分嫌な事でも思い出してしまったんでしょうね」
犬歯を剥き出しにしてニヤリと笑うアリスが、眉間に皺を寄せたまま指をボキボキいわせているのが怖いんだが。
「えらい機嫌が悪いようだけど、どうしたんだ?」
「家の可愛いルリと特にユウナを怖がらせる、凌辱系エロ触手なんて一瞬で消し飛ばしてくれるわ! 超位氷魔法【ゼロ・ケルヴィン】!」
バキンッ、とフロア全体が瞬間的に絶対零度に凍り付いたかと思うと、アリスがパチンと指を鳴らす。すると、チリチリチリと小さく氷が砕けて行く音と共に光の粒子が舞って、全ての触手が掻き消えてしまっていた。
前に見た時よりも、魔法効果範囲の収束精度が格段に上がっていて、前回と違って取りこぼしがゼロだ。
しかも、地下数mまでまとめて絶対零度域にしているようで、地中に潜っていた魔物も水分を凍らされて、霜柱のように地上に押し出されて来てしまっている。
「あぁ~、本当に一瞬なんだ。ほら、ルリもユウナも、もう変なのいなくなったぞぉ~」
「うう~、あのウニョウニョもういませんか?」
「わ、わたシ、は、べつニ、なんトモ……」
ルリは相変わらず背中におんぶされたまま、目を瞑ってペシペシと俺の背中を叩いているが、無表情のユウナは『車椅子』に座って固まったままで壊れた人形のように機械語を喋っていた。
「二人共、気分が悪かったらそのままでいいから、少し休んでいろ。その間に地面に落ちてる【魔石】とあれもレアドロップみたいだな――まとめて【時空収納】にしまってくるからさ」
「わ、私も働きます~。でも、あと五分、もうちょっと五分だけこのままでぇ~」
朝に目覚ましで起きれなくてお寝坊した女子高校生のようなことを言って、おんぶされた背中をペンペン叩くしょんぼりルリさん。
「はいはい、それじゃ目が覚めたら起きて来て下さいね」
「く、くろ、せクン、わ、わたシ、は、モウ、へいキ、だ、カラ」
ギギギッ、と古くなって錆びた骨董品の機械のような音をさせながら、カクカクと動くユウナは見ていてちょっと面白かったが、そうも言ってられないので。
「はいはい。コロン、タマゴも抱えていて悪いんだけど、ちょっとの間だけユウナを押してついて来てくれるか? 波魔法で浮いているから、軽く片手で押すだけでいいからさ」
「ハク様、分っかりまちたぁ!」
「フィも手伝う~」
お子様二人は今回は大丈夫なようで、元気に『車椅子』を押してついて来てくれる。
「ところで、アリスはいきなり超位氷魔法なんか使って、魔力残量は大丈夫なのか?」
「ふふん、呼吸法でかなり精度上がったからねぇ。無駄な魔力消費がほとんど無くなってるから、術式解放後の残留魔素もゼロでしょ?
そうねぇ、この初級地下迷宮『触手地獄』は地下8階までだから、ラスボスを入れても余裕で持つわよ」
「そうか、ならいいけど。このパーティーではお前が頼りなんだから、無理はするなよ。でも撃つ前には、周りに他の冒険者がいないか気をつけろよな。
あと、MPポーションも数は少ないけど王都で買い溜めしておいた分があるから、もしもの時は言うんだぞ」
魔道具屋でも沢山売っている下級HPポーションと違って、MPポーションは下級でもほとんど市場に出回ることが無く、アリス公認ファンクラブの栄えある会員番号一番の宮廷魔術師マルタンの伝手で幾つか分けてもらったのがあるだけだ。
今はいいとしても、近い将来に魔力全開で魔法戦をすることになった時のためにも、何とかMPポーションの入手方法は確立しておきたいんだが――俺がミラに教えてもらって、【調合】のスキルを習得するしかないのかなぁ。
「さあ、とっとと地下二階に行くわよ!」
「「おおー」」
今回は平気そうなコロンとフィのお子様二人組の元気な掛け声とは対照的に、通常営業の残念ルリとフリーズしたままのユウナさん。
「ふえぇ~~ん」
「ひっ……」
はあ~、ルリさんはずっとこんなんだけど、本当にこれで冒険者としてやっていけるんだろうか? ヘタレでヒモな俺が、余計な心配だとは分かってはいるんだが。
「超位氷魔法【ゼロ・ケルヴィン】、どーん!」
バキンッ……パチン……キラキラキラ……何ということだ、ホントに超位氷魔法九発だけで、ボス部屋にいた飛行機ぐらいの上位種ヒュージワームを含めて瞬殺してしまったぞ。
まあ、いくら魔法防御を持っていても、デカいトンネルぐらいある大口を開けていれば、身体の内側から凍らされて終わりだわなぁ。
まあ、ラスボスとは言え所詮は初級地下迷宮だからなぁ――でも、一般の初級冒険者があのデカさの魔物を狩るのは、相当キツイんじゃないか?
たぶん、狩りゲーみたく寄って集ってフルボッコにでもするんだろうが、ゲームと違って飲み込まれたらリアルに即死だろうしなぁ。
流石にMPの残量が厳しくなってきたのか、アリスが額の汗を拭っている。
「ふう~、これで全部ね。ダンジョンコアは任せるわ」
「はいはい、お疲れ~。ちょっと待ってろ、今持って来るからさ」
少しだけ大きい【魔石】とレアドロップを拾って、ついでのようにダンジョンコアの『水晶石』を持って戻る。
「ほら、これだ」
「ふ~ん、やっぱりちょっとづつ大きくなってるのね。それにしても、今回もハクローは何にもしなかったわね」
「ギクッ!」
「ハクローくん、終わった? もう、終わった?」
おんぶしている背中から、ペシペシとルリが目を瞑ったまま背中を叩く音が聞こえてくるし、ユウナは未だにギシギシと軋む音を立てて固まったままだし。
「く、くろ、せクン、わ、わタシ、は、モウ、だ、だいジョウブ、でス、カラ」
「ハク様~、お腹すいたぁ~」
「フィもお腹ペコペコ~」
おなかにタマゴを抱いたまま軽々と片手で『車椅子』を押してくれているコロンと妖精のフィも、ヘタレでヒモな役立たずの俺を助けてくれそうにはないみたいだ。
「わ、分かりました。午後こそは誠心誠意、頑張らせていただきます」
「私もそうは言っても、もう魔力残量もそう多くは無いんだから頼むわよ」
ちょっとお疲れ気味に手のひらをヒラヒラと振りながら、アリスがクリア脱出用の転移魔法陣に向かってサッサと歩いて行く。
「へ~い」
「ねぇ、ハクローくんってばぁ。終わったの? ねぇってばぁ」
相変わらず残念なルリさんにペシペシと背中を叩かれながらも、トボトボと転移魔法陣に向かって歩き出すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おお~。海鮮天ぷら丼も、すっごく美味しいじゃないのよ」
昨日とほぼ同じ台詞を口にして、各種海鮮天ぷらの乗ったどんぶりを箸で掻っ込みながら、アリスが魔力の大量消費の疲れも吹き飛んだ様子でご機嫌な笑みを浮かべている。
そう、実は昨日と同じ海岸沿いの商店街にある海鮮定食屋に、二日連続でリピーターとしてお昼ご飯を食べに来ていた。
「いや、本気で天つゆだけじゃなくて、抹茶塩まであるなんてなぁ~。うっ、目から汗が……」
「ハクローくん、この海鮮かき揚げも美味しいです!」
ルリは海老とか貝とか魚とかを小さく切った海鮮たっぷりのかき揚げを天つゆにつけて、サクサクと言わせながら食べている。
「ハク様、これは奥が深いでしゅ」
「フィもお気に入りぃ~」
おなかにタマゴを抱いたコロンと、特にフィも全てのメニューを目の前に並べて何故か昨日と全く同じ台詞のような気がする。
「クロセくん、この椎茸の天ぷらも美味しい」
「だろ? 俺は天ぷらで椎茸が一番好きなんだよ。六人の姉貴達には安い男って、いつも言われてたけどね」
「うん、椎茸にはレモンがさっぱりして美味しい」
あれ? ユウナとの会話までが、何だかほとんど同じような気がしてきたぞ。まあ、美味しければ何でもいいか。
「ハクロー、椎茸の天ぷらってそんなに美味しいの? ひょい」
「あーっ! それ俺が取っておいたのにぃーっ」
あっという間に、アリスが俺の皿から椎茸の天ぷら箸で挟んでふんだくったかと思うと、パクッと口に入れてしまう。
「何、子供のようなこと言ってんのよ。あ、美味しぃ」
「あ、ほら、クロセくん、私の椎茸をあげるから、ね?」
泣きそうな顔でもしていたのか、隣りに座るユウナが自分のお皿から残っていた椎茸の天ぷらを箸で掴んでレモン汁を付けると、俺の口まで持って来てくれる。
「パクッ。ユウナ、あじがどう~」
「ほ、ほら、泣かないで――あ、ほら、ああ~」
鼻水でも出ていたのか、口の周りを拭くのと一緒に鼻までチーンとしてくれるユウナさん。
目の前で小悪魔のように俺の椎茸の天ぷらをもしゃもしゃ食っているアリスとは比べるまでもなく、ユウナさん本気天使。
「あ~、ハクローくん。私の海鮮かき揚げもあげますよ?」
「え? はぐっ」
「ハク様ぁ。コロンの海鮮だんご天ぷらも、あ~んでしゅ」
「う、あぐっ」
「フィはあげなぁ~い。自分で食べるぅ~、パクッ」
ユウナだけでなくルリとコロンからも、何故か天ぷらを口に放り込んでもらって、頬をパンパンにしながらもモグモグと咀嚼していると。
「何か私だけ、馬鹿みたいじゃないのよ」
そう言って空になったはずの頬をぷくっと膨らませて、拗ねるようにソッポを向いてしまうアリス――おい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほ、本当にクリアして来られたんですね?」
ニースィアの海岸沿いで既に行きつけとなった海鮮定食屋で昼食を取ってから冒険者ギルドに帰って来て、またまた同じ綺麗なシルバーがかったブルーのネコ耳の受付の女性に、初級地下迷宮『触手地獄』のクリア報告をしていた。
昨日と同様に受付カウンターの上にポンと『水晶石』を置いて、全く同じようにニッコリとアリスがお澄まし顔で上品に笑う。
「これがダンジョンコアよ。あと残りひとつね」
「そ、そうですね~。あ、あはは~。ただ今、初級地下迷宮『触手地獄』のクリアの手続きをいたしますので、少々お待ちくださいぃ~!」
そう言って、五枚のギルドカードを持って、やっぱりロシアンブルーのようなしっぽをピンと立てたまま、全力疾走で奥に引っ込んでしまう。
「今の凄い勢いだったわね。それじゃ、今日の【魔石】とドロップアイテムも換金しときましょ」
今日は今日で三百個ぐらいづつとラスボス一体分の少し大きめのもあったので、やっぱり少し時間がかかってしまうらしい。
空いてしまった時間をどうしたものかと考えていると、アリスが暇そうにギルド会館の一階フロアを見回しながら、ボソッとつぶやく。
「そういえば、ニースィアの冒険者ギルドではいつものテンプレが無かったわねぇ」
「いいことじゃないのかよ? 変な二つ名や渾名とか異名で呼ばれるよりは、よっぽどいいだろ?」
余りにフラグっぽいことを言い出すので、思わずギョッとして聞き返してしまうが、懲りずにまだブツブツと文句を垂れ始める。
「何かねぇ~。あんまり何にも無なさすぎると、ちょっとガッカリよね~」
「おい」
「えへへ、でもちょっと期待していたんですけどね~」
「ルリまで、何言ってんだよ」
「ハク様、てんぷら?」
「フィも天ぷらもう一回食べたい~」
「いや、天ぷらじゃ無いから。テンプレだから」
小さなコロンと妖精なフィのお子様二人組までつられて、天ぷらの話をし出してしまったじゃないか。
その時、猫人族の受付嬢が奥からまた全力疾走で帰って来て、ゼイゼイと息を切らしながらステンレスカラーのギルドカードを返してくれる。
「はぁはぁはぁ、み、皆様、大変お待たせして申し訳ありません。こちらが初級地下迷宮『触手地獄』をクリアしたデータを記入したギルドカードになります。
昨日もご説明しましたが、Cランク昇格試験を受けるためには、残りひとつの初級地下迷宮をクリアする必要があります。それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
それでもネコ耳をピンと立てた受付女性の営業スマイルと綺麗なお辞儀に見送られて、残りひとつとなった初級地下迷宮に行くために、ギルド開会の扉を開いて出かけるアリスと愉快な仲間達だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぎゃあああああ!」
「いやぁあああああ!」
「これは一体どうゆうことなんだ?」
残りひとつとなった初級地下迷宮は、林の傍の冒険者ギルド出張所の地下の出入り口の先にあった。
普段通りの足取りで地下一階に下りた先頭を行くアリスを、地下洞窟の入り口で待ち構えていたのは、巨大な虫の魔物の軍団だった。
蟻やらムカデやら蝿っぽいのやら、果ては人の大きさぐらいあるゴキブリまでが、カサカサカサと不気味な音をさせて洞窟の通路の床に天井に壁にと張り付いて取り囲むように迫って来ている。
「Gは嫌ああぁ~~!」
「虫は嫌ぁ~!」
どうも、これまで無敵を誇っていたアリスさんも、ゴキブリだけは駄目だったようで――さっきから【無詠唱】で魔法を発射しようとしているんだが、気が動転して集中できないらしく、全く魔法が発動していない。
ルリさんはいつもどおりだ。
「どうしよう。これってもしかして大ピンチだったりして……」
基本的に【ミスリル☆ハーツ】は最大火力を誇るアリスを中心としたパーティーであることは明白で、そのアリスが使い物にならない現在の状況は、ハッキリ言って詰んでいると言っていい。
おお、これが噂の詰みゲーというヤツか――って、違ったらしい。
「クロセくん!」
「ハク様!」
「ハクロー!」
アホなことを考えている間に、顔を強張らせてユウナとコロンにフィまでが、俺の名前を叫んでいる。絶叫マシンと化しているアリスとルリは――まあ、いいか。
「それじゃ。俺が前衛に出るから、みんなは後衛でレーザーサイト付きの魔法自動拳銃P226の準備をしておいてね。
あ、基本的に【ドライスーツ(防壁)】があるから危ないことは無いと思うし、もしもの時は【チューブ(転移)】でみんなを連れて逃げるから、全く心配しなくていいからさ」
そう言って、もはや定位置と化した俺の背中におんぶされているルリを背負ったまま、一人だけのアローヘッド陣形を取る。
「『マルチタスク』で並列処理を開始。まずは【ソナー(探査)】で全ての敵性対象を捕捉。続いて、【HANABI(爆裂)】の起動準備。【AMW(ノイズ)】の単パルス発射。バックアップに【波乗り(重力)】。ついでに『釣り糸(タングステン合金ワイヤー)』を張り巡らせて、あ、有刺鉄線っぽいのもいいかもな」
地下一階に下りたばかりの洞窟の直線の一本通路に、『釣り糸(タングステン合金ワイヤー)』を蜘蛛の巣のように壁にアンカー固定して、床には丸めて先端を斜めにカットした有刺鉄線らしきものを放り投げておくと、カサカサカサという音が突然、ガンッガンッガンッ、ガサガサガサ、と大きな虫の魔物達が網にかかった音が聞こえてくる。
「よおっし、各自任意に射撃開始!」
後衛でレーザーサイト付きの魔法自動拳銃P226を構えるユウナとコロンに指示を飛ばすと、既に紅いレーザーで照準していた網にかかった大きな虫に向かって、ドンッ、ドンッという爆発音を響かせながら魔力付与された9x19mmパラベラム弾丸を発射していく。
するとバンッ、バンッと硬い金属を抉るような破裂音がして、大きな虫の甲羅のような外骨格が吹き飛んで中から緑色をした昆虫っぽい体液が辺り一面に撒き散らされる。
「「ぎしゃああああ!」」
そんなに広くない通路に体内の液体を噴出させながら、絶叫を上げる不気味な虫の魔物達。
そんな奴らが団子状態でガサガサしている網の向こう側に、待機状態だった【HANABI(爆裂)】を連続で起爆させる。
連続で重低音の爆発音がすると共に巨大な虫達の沢山ある昆虫っぽい足とか、甲羅のような外骨格とか、複眼の頭とかが緑の体液と一緒に飛び散る。
「「「「「がじゃああああ!」」」」」
次々と弾丸と爆裂魔法を網の先に叩き込んでいると、大きな虫の死骸の重みに耐え切れなくなったのか、『釣り糸(タングステン合金ワイヤー)』を固定するために洞窟の壁に打ち込んでいたアンカーが何本か抜けてしまって、網が破れ始める。
「みんなは、そのまま射撃継続たのむ! 【波乗り(重力)】!」
後衛のみんなが不安になるといけないので声をかけてから、洞窟の通路一杯に5mほどの高さの大波を発生させて、網を乗り越えて前進しようとしていた全ての虫達を後ろに押し流す。
そして波が引いた後に通路に転がっている虫達に向かって、再び弾丸と爆裂魔法が追撃とばかりに轟音と共に降り注ぐ。
「「「「「「「ぐぎゃああああ!」」」」」」」
そうして水浸しになった洞窟の通路を、ビチャビチャと音をさせながら近づいて来る大きな虫の魔物の中で、魔法陣を起動した個体が突進して来る。
「虫の癖に防壁魔法を使うのかっ、【AMW(ノイズ)】! 【HANABI(爆裂)】連続発射!」
単パルスの反射波に合わせて、虫の魔物が構築していた魔法陣をジャミングで解体してから、爆裂魔法をブチかますと昆虫っぽい身体をバラバラに飛び散らせながら、数十m後方まですっ飛んで行ってしまう。
随分と死骸の数が多くなった頃に、やって来る大きな虫の魔物の数がだいぶ減ったようなので、【HANABI(爆裂)】の一発一発を小型に調整してドリル状に回転させながら、ガトリングガンのように連続発射させつつ、鳴り響く爆発音の中でペタペタとビーサンを鳴らしながら歩いて前進する。
バラバラになった虫の死骸の傍を通り過ぎるときに、【解析】でまだ生き残っている虫は全て右手に持った直刀【カタナ】で止めをさしていく。
そのままペタペタと歩き回っていると、洞窟の通路を埋め尽くしていた虫達の全てを、爆裂魔法と直刀【カタナ】で殺し尽くしていた。
「ふぅ~、これでやっと全部かな? おーい、もういいぞ~」
【ソナー(探査)】のマップに写る敵マーカーが、全て灰色の死亡判定に変化していることを確認すると、後衛で待機していたみんなに声をかける。
「ハクローくん、終わった? 終わったの? 虫、もういない?」
背中におんぶしたままの残念ルリさんがやはり、ペチペチと背中を叩いてくるので、苦笑しながらも明るい声で答えてやる。
「ああ、もう一匹もいなぞ」
「はあ~、よかった――って、死骸がいっぱいあるじゃないのよやぁああああ~」
あ~ぁ、バラバラになった動かない虫の死骸も駄目みたいだ。そのうち光の粒子になって消えると思うんだけどなぁ。
これは、このままおんぶして行くしかないか。と、考えてながら背中で目を瞑って手足をバタバタさせて暴れている残念ルリさんを、おんぶしたままで地下二階に下りる階段まで進む。
「えーと、確かこの初級地下迷宮は『虫の巣穴』と言って、地下十階までだな」
「えぇー! Gがまだ九階層も居座ってんのぉ?」
虫共の死骸も視界から消えて、ようやく現実に戻って来たアリスがこれから続く、虫地獄に鳥肌を立てて震えあがる。
「もう、虫は嫌ぁ~」
おんぶしている背中でペシペシと叩いてくる残念ルリさんに、苦笑しながらもできるだけ優しく声をかける。
「ほら、さっきみたいな大群はもういないと思うから、地下二階に下りよう。んで、ちょこちょこ出てくるのは俺達が片付けるからさ」
「わがったぁ……」
「わがったわよ……」
あ~ぁ、残念ルリさんはともかくアリスまでもが同じようなしょんぼりした反応しか帰って来ないけど、まあゆっくりと地下二階に下りるとするか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
地下二階に下りると、そこは体育館ぐらいの広さのある結構大きな部屋になっていて、通路に続く出口の前には先客がいた。
「ほお、あの魔物の群れを抜けて来たのか?」
「そんな訳あるわけないじゃん」
「そうよ。それにこいつら、確か昨日の朝に冒険者ギルドに登録したばかりの、初心者のFランクのはずよ」
「何でFランクが初級地下迷宮にいるんだよ?」
「知らないわよ。でも、昨日見た奴等に違いないしぃ」
「単に間違ったんだろぉ?」
「そんなことよりも、よお~。待ち切れねぇんだけど」
「そうだぜ。さっそく、犯ろうぜぇ~」
「ああ、お前らおとなしくしてりゃぁ、命までは取らねぇ」
「男は殺すがな! ぎゃはははは」
「俺達は全員がBランク冒険者だ。無駄な抵抗は止めておけ」
「そうだそうだ、いらん怪我すっだけだぜ」
「余計な傷が付いたら、性奴隷にして売るときに値段がさがるからよぉ」
そう言って、目の前に立ち塞がったのは竜人族、虎人族、インプ女、ダークエルフ女に人族などで、それぞれが片手剣やら、槍やら、大剣、杖、アックス、ハンマーなどの武器を取り揃えた、どうやら自己申告によるとBクラス冒険者達のようだった。
しかも、その後ろには上着は前が引き裂かれて下半身は何も身に付けておらず何故かブーツを履いた二人の女性冒険者が地面に転がされていた。




