第3章1話 ニースィアの冒険者ギルド
気持ちの良い海風の吹く王国第二の大都市ニースィアの綺麗な街並みに、まだ朝も早いというのに結構な人々が忙しそうに行き来していた。
片道二車線に整備された馬車が走るメインストリートの幅広な石畳の歩道では、道端の出店で沢山の冒険者が朝食を立ったままで掻っ込んでいて――これからおそらくは地下迷宮にでも向かうのだろうか。
「何だか見るからに冒険者が多いですねぇ」
「それだけ地下迷宮があって、稼げるってことなんでしょうね」
王都から来たのにお上りさんのようにキョロキョロしているルリに、期待を隠せない様子のアリスがニヤッと笑う。
まずは来年から通う予定の魔法学園の学費を、この数ヶ月でまとめて稼がないといけないからな。
「おおー、でも屋台のご飯もおいしそうでしゅ」
「今度、フィも食べたい~」
しかし、お腹に聖獣のタマゴを抱えたコロンと妖精フィのお子様二人は、むしろ露天の屋台に並べられた美味しそうなメニューの方が気になるようだ。
「まだ体調が戻り切れていないユウナが食べれそうなものがあれば、今度みんなでここで朝食を取ってから出かけるとするか?」
「ううん。クロセくん、私は大丈夫」
俺が押す『車椅子』に座るユウナが後ろを振り返って見上げながら、いつもの無表情のまま返事をするが――意外なことに、ちょっとソワソワとした様子で紫の瞳をくりくりとさせていて、もしかして周りが気になったりしているのだろうか。
その人混みを縫ってようやく辿り着いた、建物だけなら王都よりも大きな石造りでできた冒険者ギルドの見慣れた看板がぶら下った扉を開ける。
これまでのように絡まれることも想定して最大戦力のアリスを先頭に、ユウナの『車椅子』を押す俺が殿として最後について入っていく。
しかし、歴史のある老舗ホテルのロビーのような一階の受付フロアは、これからクエストや地下迷宮に向かうのだろう大勢の冒険者達でごった返していて、というよりはむしろ殺気立ってしまっていて誰からも見向きもされないという、意外と言えば意外な結果にちょっと拍子抜けしてしまう。
「ま、まあ絡まれないことに、越したことは無いわね。これは、これで何かムカつくけど」
「おい、アリス。変なフラグ立てるなよ?」
このニースィアの街ではまだ二つ名が広まっていないようで、少しホッとしたような、それでいてちょっとだけガッカリした表情のアリスが新規登録の受付カウンターに向かうと、待ち構えていたように受付の女性――綺麗な青い被毛をした、まるでロシアンブルーのような猫人族だ――が出て来て対応してくれる。
「ようこそ、ニースィア冒険者ギルドへ。今日はどのような御用ですか?」
「う……残念。にゃ、とは言ってくれないのね?」
「え?」
可愛い緑の瞳を見開いて、ビックリした様子でネコ耳をピンとさせる受付嬢さんに、誤魔化すようにヒラヒラと手を振るアリス。
「いえ、何でも無いわ。この娘の冒険者登録をお願い。名前はユウナ、武器は――そうね、自動拳銃よ」
「はい、承知いたしました。少々お待ちくださいね」
アリスが指さした先の『車椅子』に座ったままのユウナを見ても、顔色ひとつ変えずに――いや、自動拳銃と聞いたときにはわずかにネコ耳がピクッとしたが、登録用紙に記入もしていないのに気持ち良く手続きを始めてくれるネコ耳の受付嬢さん。
ところで、家のパーティー【ミスリル☆ハーツ】の現在のレベルはこんな状態だったりする。
名前;アリス・アカサカ(赤坂アリス)
人種;人族
性別;女
年齢;15才
レベル;Lv19
職業;【賢者】【聖女】
スキル;【遠見の魔眼】【未来視の魔眼】【火属性魔法Lv10】【水属性魔法Lv10】【風属性魔法Lv11】【土属性魔法Lv10】【氷属性魔法Lv11】(UP!)【雷属性魔法Lv10】【聖属性魔法Lv10】【光属性魔法Lv2】(New!)【剣術Lv10】【身体強化Lv10】【加速Lv10】【神速Lv2】(UP!)【魔力制御Lv10】【鑑定Lv4】(UP!)【収納Lv3】(UP!)【無詠唱】【教導Lv3】【限界突破】【射撃Lv1】(New!)
オリジナルスペル;【ガストバズーカ】【タイフーン】【ギロチン】【テンペスト】【ゼロ・ケルヴィン】(New!)【サイレント】(New!)
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】(New!)
名前;ハクロー・クロセ(黒瀬白狼)
人種;人族
性別;男
年齢;15才
レベル;Lv19
職業;【サーファー】
スキル;【解析Lv4】(UP!)【時空収納Lv4】(UP!)【時空錬金Lv4】(UP!)【剣術Lv4】(UP!)【身体強化Lv4】(UP!)【二刀流Lv4】(UP!)【魔力制御Lv4】(UP!)【物理強化Lv4】(UP!)【限界突破】【抜刀術Lv3】(UP!)【格闘術Lv2】(UP!)【隠蔽Lv2】(New!)【偽装Lv2】(New!)【威圧Lv1】(New!)
エクストラスキル;【時空魔法Lv0.6】
ユニークスキル;【波魔法Lv4】(UP!)
オリジナルスペル;【ソナー(探査)】【ビーチフラッグ(加速)】【波乗り(重力)】【ドライスーツ(防壁)】【HANABI(爆裂)】【ライフセーバー(救命)】【AMW(ノイズ)】
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】(New!)
名前;ルリ・アイカワ(藍川瑠璃)
人種;人族
性別;女
年齢;16才
レベル;Lv18
職業;【幸運の■■】【勇者】【精霊使い】
スキル;【鑑定Lv10】【収納Lv2】【身体強化Lv3】(UP!)【料理Lv1】【付与Lv4】(UP!)【結界Lv3】(UP!)【裁縫Lv1】【射撃Lv1】(New!)
ユニークスキル;【健康Lv4】(UP!)【親孝行Lv1】【友達Lv4】(UP!)
守護;【祝福の聖精霊】【祝福の光精霊】【祝福の木精霊】【祝福の水精霊】【祝福の土精霊】【祝福の火精霊】【女神アルティミスの加護】(New!)
名前;コロン
人種;獣人族
性別;女
年齢;10才
レベル;Lv17
職業;【料理人】【妖精使い】
スキル;【調教Lv1】【召喚Lv3】(UP!)【料理Lv5】(UP!)【格闘術Lv2】【身体強化Lv4】(UP!)【二刀流Lv3】(UP!)【加速Lv2】(UP!)【教導Lv1】【裁縫Lv2】【射撃Lv1】(New!)
守護;【女神フォルトゥーナの加護】【ルリの友達】【女神アルティミスの加護】(New!)
名前;リリス=フィ
人種;妖精族
性別;女
年齢;115才
レベル;Lv14
職業;【暴食】
スキル;【魅了Lv3】(UP!)【睡眠Lv3】(UP!)【淫夢Lv3】(UP!)
守護;【ルリの友達】【女神フォルトゥーナの加護】(New!)【女神アルティミスの加護】(New!)
名前;ユウナ
人種;人造ハイエルフ族
性別;女
年齢;3才
レベル;Lv1
職業;【予言者】
スキル;【射撃Lv2】(UP!)【命中Lv2】(UP!)【銃剣術Lv0】【身体強化Lv1】(New!)【錬金Lv1】(New!)【物理強化Lv1】(New!)【鑑定Lv1】(New!)
守護;【ルリの友達】(New!)【女神フォルトゥーナの加護】(New!)【女神アルティミスの加護】(New!)
やはり、アリスが抜きんでて別格だが、他のメンバーも王都を出てからも少しづつだがスキルレベルが上がってきている。
特にルリと俺は異世界召喚されてからこのわずか二ヵ月弱の間に、攻撃スキルも無い状態からのゼロスタートだったのに、既に初級レベルの後半に突入しようとしているのはひとえに【ルリの友達】のおかげで、これは間違いなく異常と言えるだろう。
それに加えて二柱もの女神の加護により、ステータス表示されていないHP、MP、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、速度、運などの隠しパラメータは、実際の基礎レベルよりもトンデモない数値になってしまっているはずだ。
ああ、フィは冒険者カードを持っていないけど、メンバーに入れておかないとすぐに拗ねるので――でも、そのレベルアップぶりは目を見張るものがあるのも事実だ。
「それでは、これがユウナさんのギルドカードになります。【ミスリル☆ハーツ】としてパーティーメンバー登録も完了していますよ。
皆さんは見習い冒険者であるFランクなので、本日は初心者向け地下迷宮からの挑戦になります。それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「よおっしぃ! それじゃ、みんな。行くわよぉ!」
「「「おー!」」」
珍しく何事も無くすんなりといったことで、ご機嫌なアリスが雄叫びを上げると、ルリとコロンにフィが拳を高々と突き上げてそれに続く。
「え? ……お、お~?」
「ははは、ユウナは無理してあれに付き合わなくていいからな。むしろ、あれに染まったら終わりだと思っていた方がいいかも」
「う、うん。でもガンバル」
ちょっとノリ遅れながらも、意外と前向きにギュッと拳を握りしめて見せるユウナだった。そんな健気なユウナの前にしゃがみ込んでから、視線の高さをゆっくりと合わせる。
「コホン、ようこそ【ミスリル☆ハーツ】へ。ほら、これはみんなからの歓迎のお祝いだ」
「え?」
そう言って、小さな木箱を開けて『車椅子』に座るユウナの手のひらに乗せると、中には白銀に輝くミスリルのイヤーカフスが左右一組み入っていた。
「これって、みんなが身に付けていて、私……だけが」
「ユウナの綺麗で可愛いエルフ耳に似合うかとみんなで相談して――でもピアスのように身体に穴を開けるのも嫌だし、それでイヤーカフスにしたんだが良かったか?」
いつもの翼をモチーフにしたデザインをじっと見つめたままのユウナに、気に入らなかったかと心配になって訊ねると、大きく開いた紫の瞳の奥をくゆらせながらも、メンバー加入のお祝いを持ったまま黙ってしまって――静かに優しく微笑みかけるみんなを見つめる。
「みんなとお揃いなんだが、魔法を補助してくれる魔道具になっていて、Lv4まで上がったルリの付与魔法で【魔力制御】、【身体強化】、【防御上昇】に最新の【自動回復】スキルまで付いた一品物のレアアイテムなんだ、ぞ?」
しかも、各スキルレベルはルリの【付与】スキルに連動して全てがLv4なので、特に新たに追加された上位スキルの【自動回復】は怪我をゆっくりとだが自動で治癒回復再生するだけでなく、わずかづつだがHPとMPが時間と共に自動回復する優れモノだったりする。
「ほら、ユウナ。おねだりしちゃいなよー」
「え? あ、じゃあ。じぃ~~~~」
アリスが何故か脈絡の無いことを言い出すと、ユウナは思い付いたようにその無表情のまま、ジッとアメジストのような紫の瞳で俺を睨み始めてしまう。
苦笑しながら俺が困っていると、ルリが、小さな声でこしょこしょと囁いてきて。
「ハクローくん、付けてほしいみたいですよ」
「いや、でもそれは――男になんか触られるのは嫌なんじゃ」
「はあ~。ハクローは、まぁ~だ女心がわかってないのよねェー」
ため息をつきながら呆れたようにアリスが肩を竦めて見せるので、ようやく腹をくくると怖がらせないように気をつけながら、ミスリルのイヤーカフスをユウナのピンと長い左右のエルフ耳にそっと付けてやる。
「はい、これでいいか?」
「わー、可愛い~。よく似合うよぉ」
「カッコイイでしゅ」
「フィもいいと思うよ」
「ユウナ、よかったじゃないのよ」
みんなに祝福されるユウナは――おお、まだ無表情なんだけど、そこはかとなく照れてるのが分かるぞ。
でも、また変に自分を卑下して嫌がったりしないで、喜んでくれたようで本当によかった。
「はっ! ぷいっ」
「あ、逃げた」
「照れたわ」
「照れましたね」
「テレテレでしゅ」
「フィも、テレテレ~」
可愛くソッポを向いてしまったユウナを乗せた『車椅子』を押して、みんなで穏やかに笑いながら平和にギルド会館を出て行く【ミスリル☆ハーツ】のメンバー達だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あれが、例の【紅の魔女】のパーティーですか……」
アリス達が冒険者ギルドから立ち去った後の新規登録の受付カウンターの奥で、受付を担当していた猫人族の女性職員がネコ耳をピクピクさせながら、横にやって来た真っ赤なチャイナドレスを着て腕組みをしたダークエルフの女性につぶやく。
両腕で持ち上げられた豊満な双丘と、くびれたウエストからむっちりとしたヒップのサイドの切れ目から覗く太腿が眩しい、妖艶という言葉がピッタリの美女だ。
「ああ、間違いない。しかし、それよりも事前情報に無かった、他のメンバーの奴等はいったい何だってんだ?」
「まだ若い子ばっかりでしたが、他の子達がどうかしましたか?」
「膨大な精霊の気配をまとった白髪の少女に、どう見ても肩に乗せた妖精を使役しているお腹の大きな銀狐の少女、そして何故か女神様に生き写しの動く椅子に座ったエルフ。
何より極めつけは、普通の一般人の気配しかしないTシャツ短パンの少年ときた」
頬をつたう冷や汗を垂れるままに任せる厳しい表情のダークエルフの女性に、ビックリして受付を担当した女性職員がシルバーがかったブルーのネコ耳をさらにピクピクさせて訊ねる。
「確かに妖精を含めて五人の少女は、全員が一般の冒険者とはちょっと違う――随分と濃い魔力を持っている印象を受けましたが、変な椅子を押していた少年は別に普通でしたので、唯の付き人かもしくは従者だったのでは?」
「そんな訳があるか! あれがそんなタマなもんかっ」
思わず奥歯をギリッと言わせて低い声を絞りだしてしまうと、驚いた周囲の職員達が一斉に声をかける。
「「「あの少年がどうしたのですか、ギルマス?」」」
「少年の――奴の気配が余りに透明なほど澄み切っていて、逆に普通に過ぎるんだ。この私が、帰り際に奴が声を出すまで、その違和感にまったく気がつかなかったんだぞ? あり得んことだ……」
「それって、元Sランク冒険者であるギルドマスターの上位スキル【探知】を回避、いや無効化したってことですか?」
「あんなのは初めてだ――いや、ちょっと違うが似た感じの女が――くそっ、【剣聖】のあいつか! 何故、あの世捨て人のような女が今頃?」
アッシュブロンドの長髪を逆立てながら両拳を、ギシッと音が鳴るほど握りしめて【ミスリル☆ハーツ】のメンバー達が出て行った扉を睨みつける、ダークエルフの女性――元Sランクで冒険者ギルドのニースィア支部ギルドマスターだった。




