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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第2章 異世界旅行編
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第2章34話 新天地ニースィア


 城壁に囲まれたニースィアの大きな城門は、流石(さすが)は王国第二の大都市ということもあってか、商人やら冒険者やらの大勢の人々の長蛇の列ができあがっていた。


 しかし、御者台に座っているクラリスはテディベアぬいぐるみのビーチェに指示して、その行列の横を通り抜けて門番の騎士に直接話しかけ始める。

 何事(なにごと)かと数人の騎士が奥から姿を現すが、ギョッとした顔をするとすぐに奥に走って行って帰って来たかと思うと、最敬礼をして馬車の中をチラッと見ただけで素通りさせてくれた。


「このまま、王族専用別荘まで向かいます」


 御者台ではなく、馬車の中に戻ってきた侍女のクラリスが(ひざまず)いてそうつぶやくと、ミラレイア第一王女が威厳(いげん)のある声で(ねぎら)いの言葉をかける。


「クラリス、ご苦労でした」


「はっ」


「「「おお~、お姫様だぁ~」」」


 ミラのお姫様っぽい所を見たことが無かったお子様達が、キラキラした羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しを向ける、が。


「…………ぷしゅう~」


 あ、魔法少女ミラの変身時間が切れたようだ。

 すると、途端(とたん)に両手で顔を(おお)ってソファーの上で背中を丸めてうずくまってしまう。

 だから小さなため息をつくと、できるだけ優しい声になるように注意しながら感謝の気持ちを伝えることにする。


「城門で()めずに簡単に入ることができたのはミラのおかげだ。ミラは今回も上手に良くやれていたよ。だからほら元気を出せ」


「……本当(ホント)ですか?」


 顔を(おお)って(うつむ)いたままで、ボソボソとつぶやくミラのストロベリーブロンドの頭をそっと()でる。なでりこ、なでりこ。


「ああ、本当だ。これで(しばら)くは、【勇者】と【聖女】がこの街の見知らぬ貴族連中に追っかけ回される心配は無くなったはずだ。ミラのおかげだよ、ありがとうな」


「……えへ……えへへ~」


 そうして顔を(おお)っていた指を少しだけ開いて、(うつむ)いたままだけど指の隙間から(のぞ)くようにして、嬉しそうに笑い始めるミラ。

 そんなお姫様のことを、ジィ~っと嬉しそうにメガネの奥の瞳を細めて見ているのは、第一王女侍女筆頭のクラリスなのだった。


「あの~ぉ、それでは私はこのまま教会に向かいますので、ここで失礼」


 門を抜けたところで、おずおずと手を上げたのはシスター・フラン――なんだが、それを最後まで言わせず。


「はい、さいなら」


「ぐはぁ、ハクローくんの反応が冷たい……。ああ女神様、これも試練なのですね」


 いったい俺に何を期待しているんだ。

 【ドライスーツ(防壁)】はかけてあるし、マーカーピンだって付けてあるんだから、何かあれば直ぐに分かるようにはなってるんだ。これ以上、何を心配しろと言っているのか。

 そんなに心配なら、神聖教会の()()()()(がた)そうに(おが)んでいる女神にでも助けてもらえばいいだろうに。


 とか考えていると、馬車の倉庫から手荷物を取り出した、ぽんこつフランはトボトボと遠くに高い尖塔が見える神聖教会に向かって去って行った。

 その寂し気な後ろ姿を見送りながら無意味に(イラ)ついていると、アリスが(あき)れたように大きなため息をつく。


「はあ~まったく、ハクローは分かり(にく)いのよ。それに、少しは大人になりなさい。まあ、ジュネヴァン連邦国では(ひど)い目に会ったんだから、あんたの気持ちは分からないでは無いけどね」


「別に、俺は……」


 普段から目付きの悪い視線をさらに極め付けに悪くして、ジロッとアリスを(にら)む。


「はいはい。次に会うまでには、ちゃんと気持ちの整理を付けておくのよ」


「……ふん」


 無言でソッポを向いてしまた俺を、ジロッと紅と蒼のオッドアイで(にら)み返すアリス。


野郎(ヤロー)()ねたって、ちっとも可愛(かわい)く無いわよ」


「はあ~、分かったよ」


 そう言って、万歳(バンザイ)して見せると、(たま)りかねたようにユウナが無表情のままでつぶやく。


「私でも信用できない神聖教会のニースィア支部が、あの素直に信仰心を表すフランチェスカにどのような対応を取るのか心配なのは分からないではない。

 でもそれは今、クロセくんがどうこうできるものでもないはず」


「ああ、分かってるさ。分かってるよ、そんなことは」


 そう言って意味も無く、やっぱり不貞腐(ふてくさ)れたように街を行き交う人々の姿に目をやるのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




(なん)無駄(ムダ)にデカいわね」


 王家別荘の入り口の鉄門の前で馬車が停まると、警備の騎士達がやって来てクラリスと一言二言(ひとことふたこと)話しをして、直ぐに別荘敷地内に中に入ることができていた。

 そこで馬車の窓から見える光景に(くち)をアングリと開けたまま(あき)れるアリスと、見えない白く長いウサ耳をピンと立ててキラキラした好奇心を(あふ)れさせているルリ。


「ハクローくん、(すご)いです。入り(ぐち)から家の玄関が見えませんよぉ~」


「ま、まあ、外から(のぞ)かれる心配は無いようだし、安全保障(セキュリティー)的にもこの緩衝地帯(バッファーエリア)は必要なんだろう……か?」


 そうしていると、林の向こうに無駄に大きなコの字型の御屋敷が見えてきた。まるで昔に映画で見た、色違いのヴェルサイユ宮殿のような規模だ。


「心配しないでくださいね。私達が泊まるのは、この奥にあるプチ離宮(トリアノン)という別宅にしてあります」


「はい、姫様のおっしゃる通りです。この本邸では皆様の心が休まらないだろうと、このような措置を取らせていただきました――というか、魔法学園に通っていた頃に帰国しても姫様は、駄々(だだ)をこねて本邸には一度も足を運びませんでしたね」


「クラリス、余計なことは言わなくてよろしい」


 ()まし(がお)をしてソッポを向いてしまったが、どうやらミラ自身があの豪華絢爛(ごうかけんらん)な御屋敷が(イヤ)だったらしい。

 まあ、引き()もりのミラらしいと言えばミラらしい。


「クスッ――ああ、笑ったりして悪い。いや、嫌な意味じゃないんだ。たぶん俺達は、そんなミラが好きなんだと思うよ」


「なあっ! く、クロセ様、そ、それは……ど、どうゆう……いや、それよりも……きゅう~~~」


 ガバッっとこっちを向いたかと思うと、ミラは顔を真っ赤にしてボソボソ言い出して、(しま)いには小さく(しぼ)んでしまった。

 それを見ていたアリスが、大きくため息をついてから肩を(すく)めて微笑む。


「はあ~。大丈夫よ、ミラ。()()も、質素倹約な生活を良しとするミラのことは大好きよ。まあ、あなたも苦労するとは思うけど、頑張(がんば)りなさい」


「は、はい。ありがとうございます、アリス様」


 てへへ~、と照れ笑いを浮かべながらようやく顔を上げたミラは、それでも少し嬉しそうに切れ長の翠瞳を細めるのだった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




「「「「姫様、お帰りなさいませ」」」


 そう言ってプチ離宮(トリアノン)――というのでどんな屋敷かと思ったら、見かけは(はな)れのちょっと大きめの一軒家(いっけんや)だ。

 その玄関(ホール)でズラッと左右に並んで出迎えてくれたのは、お(そろ)いのブリティッシュ(スタイル)のメイド服を着た少し小太りの中年女性と、見覚えのある若い九人の女性達だった。

 思わぬ再会に(きょ)()かれた様子のアリスが、目を丸くして――それでも優しい声でたずねる。


「あなた達は――そう、元気にしていた?」


「「「はい。皆様のご温情で(そろ)ってここで働かせて頂いています」」」


 そう深々と頭を下げているのは、かつて馬鹿(バカ)平河の専属奴隷で(ひど)(あつか)いを受けていた九人の女性達だった。

 そう言えば、ミラとクラリスが引き取って身の振り方の面倒を見ると言っていたはずだ。ああ、彼女達の居室もあるから、一軒家(いっけんや)にしては少し造りが大きいのか。


「そう、良かったわね」


「「「はい。この御恩は必ずや」」」


「私達にはいいから。それよりもいつの日か自分を買い戻して、そして必ず幸せになりなさい」


 (なに)を取り(つくろ)うでもなく自然体で、これまで苦労して来たであろう彼女達に、そう夢と希望を(たく)すアリスは――いつもと違って、とても慈愛(じあい)(あふ)れる【聖女】に見えた。

 そして、顔を上げた女性達九人はその瞳を見開くと、再びわずかに頭を下げて小さな、しかしハッキリとした声で(うなず)くように答える。


「「「はい。必ずや幸せに」」」


「よし」


 頭を下げたままの女性達に向かって、紅と蒼のオッドアイを細めて微笑むと、しっかりと(うなず)き返す【賢者】で【聖女】なアリスだった。

 その後ろからピョコンと顔を出して、ニッコリと微笑むルリはペコリと頭を下げる。


「ここで働いているのなら、これからずっと一緒ですね。これからよろしくお願いします」


「コロンもお願いしましゅ」


「フィもね~」


 肩に妖精を乗せて、黒卵を抱いてお(なか)を大きくした小さなコロンがペコリと頭を下げると、流石(さすが)に侍女となった女性達も驚いた顔をしたようだったが、俺もつられた訳では無いがペコリとそれに(なら)う。


「俺からもよろしく頼む。それから、何か困ったことがあったら俺達に言ってくれていいから」


「「「はい」」」


 【勇者】や妖精にまで頭を下げられて、戸惑(とまど)う彼女達に苦笑しながらも新しい仲間を紹介する。


「それから、新しく仲間になったユウナだ。ちょっと愛想は悪いかもしれないが、よろしく頼む」


「ユウナです、よろしく。クロセくんは余計なことは言わなくていい」


 ポコンッ、と『車椅子』に座ったまま、俺の腹筋めがけて小さな拳を丸めて猫パンチを繰り出す、恥ずかしそうに少しだけ(ほほ)(ふく)らませたユウナさん。


「「「こちらこそよろしくお願いします」」」


 そうして深々と頭を下げるメイド姿の女性達九人から一人(ひとり)が進み出て来て、手のひらを階段の上へと向ける。


「それではお部屋までご案内します」




◆◇◆◇◆◇◆◇




「わーい、おっきい~! ばふん」


「フィも~、ばふん」


「わきゃ~。コロンはゴロンでしゅ」


 縦よりも横の方が遥かに大きなベッドにダイブするルリとフィに、黒卵を抱いたコロンはポテッと嬉しそうに寝転がっている。

 部屋は無暗(むやみ)に広過ぎることは無いのだが、如何(いかん)せんベッドだけが取って付けたように超巨大で部屋のほとんどを占めてしまっている。


 いやそれよりも、何故(なぜ)こうなった?

 そう、俺は()()()()()()()ルリとコロンにフィと同じ部屋に案内されていた。


「おい、これじゃ何時(いつ)まで()っても――いや、いい」


 頭が痛くなって来たのでフルフルと振りながら小さなベランダに出て、外の新鮮な空気を吸って気を取り直すことにする。

 小さな花々が咲くプランターが置かれた白いベランダからは、林と見紛(みまが)う木々に視界も雑音さえもが(さえぎ)られて、とてもでは無いが街中にいるとは思えなかった。


「あら、逃げ出してきたの?」


 そう言って苦笑するようなアリスの声が、すぐ隣の同じような造りの白いベランダから聞こえてくる。


「逃げるのですか?」


 すると反対側のベランダからも、少し非難するような声色(こわいろ)のユウナの声が聞こえてきた。ユウナはこの屋敷に入ったところで、アリスにこれ以上は迷惑をかけられないと、一人(ひとり)部屋を希望して女性メイドさんに介護を頼んでいた。


「……別に逃げた訳じゃ」


 そう言い返しながらも、入道雲が浮かぶ青空を見上げると――もう夏の時間もあと残り少ないようだ。


「逃げ場が無いのであれば、いつでも来てくれて構いませんよ」


 そう言って、無表情の紫の瞳をわずかに細くして微笑むユウナに、そのしたり顔を少し(いじ)めてみたくなって、バッと隣のベランダに【身体強化】を使って飛び移る。

 そして『車椅子』に座って逃げられないユウナを捕まえると脇の下を、こしょこしょと思いっきりくすぐり始めてやる。


「わ……わわ、わきゃ、や、やめ、やめて、クロセくん、やめ、やぁ」


 息もできないらしく、手足をバタバタさせて逃げようとするが、ふふん、Lv4までレベルアップした【身体強化】は伊達(だて)ではない。

 そう簡単に、逃がす訳がな。


「あんたは何やってんのよ!」


 ドガァ!


「あいたぁ!」


 Lv10までカンストした【身体強化】を使って、アリスがベランダをひとつ飛び越して飛び蹴り(ドロップキック)をかまして来ていた。


「ううぅ……」


 あ、ユウナが紫の瞳を涙目にして自分の身体を抱くようにしながら、仁王立ちしたアリスの後ろに隠れてこっちを(にら)んでいる。


「ったく、何時(いつ)まで()っても子供のようなんだから」


 腕組みをして見えない(ツノ)()やしたアリスが、紅蓮(ぐれん)の魔力を背負(せお)って上から見下ろしてくる。


「あー! ズルい、ハク様。何して遊んでるの? コロンも仲間に入れて~」


 と、ピョ~ンと丸いお(なか)を抱いたままベランダを飛び移って来たコロンが、俺の腹筋に白銀の頭をグリグリと(こす)りつけて来る。


「わあっ! コロンはタマゴを抱いているんだから気をつけないと」


「えへへ~、分かりまちた。気をつけましゅ」


「あー、フィも~」


「わわっ!」


 妖精のフィまでが、顔に飛びついて来て――前が見えん。


「ああー、みんなでズルいです~。仲間外れは嫌ですぅ~。私も仲間に入れてくださいぃ~」


 隣りのベランダから、飛び移ることが出来ずに一人(ひとり)取り残されたルリの、ミィ~ミィ~という泣き声が聞こえてきて、(あた)りの木々に反響(こだま)していた。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 その日の夕食は、プチ離宮(トリアノン)の10人も座れないぐらいのそれほど大きいという訳でもない食堂でみんなで取ることになった。

 みんなと言っても、侍女のクラリスは一緒には食べなくなっていたのだが。


「王城でも立場を分けてそうゆうものでしたよ」


「はい姫様。私がキッチリバッチリ見ていて差し上げますので、ピーマンも残さず食べるのですよ」


「わーん、クラリスのいぢわる~」


 縦に長いテーブルに座るミラと後ろに控えて立つクラリスにとっては、相変わらずの光景なのかもしれなかった、が。


「コロンは少し寂しいのか?」


「ううん。ハク様、大丈夫でしゅ」


 えへへ~、と金色の瞳を細めて笑って見せるが、お(なか)の黒卵を(さす)る手もやっぱり元気が無い。はぁ~、と小さなため息をついて、小さな声でアリスに(ささや)く。


(あと)で誰かに何かを言われる前に食事の時だけでも、コロンのメイド服は着替えさせた方がいいかもしれないな」


「そうね。可愛い着替えは買ってあるんだから、その方が良いかもね」


 最初の頃に比べても、すっかり明るくなった小さなコロンが悲しい目に合わないように、少しでもその笑顔が絶えることの無いよう、紅と蒼のオッドアイを細めたアリスと二人で優しく見つめる。


「っていうかさ、俺はどっちかって言うと、クラリスに背後に黙って立たれている方が、よっぽど落ち着かないんだけど」


「それは言えてますねぇ。クラリス先生に食事マナーを見張られているようで、味もよく分かりません」


 (まゆ)を下げて悲しそうにスプーンを(くわ)えるルリは、見えない白く長いウサ耳がへにょんとしてしまっていた。

 わざわざ『車椅子』から降りて、背の高い椅子に座った無表情のユウナの様子を見るが。


「落ち着かなくって、(なん)か悪いな」


「クロセくん達は、昨日までの【砂の城】で自分達で作っていた食事が普通なんだから仕方がない」


 苦笑するように紫の瞳を細めて、なんでもないよとユウナがそっとつぶやいてくる。

 肝心の食事は王家御用達(ごようたし)のシェフ殿が王城同様に調理してくれるとあって、上品な美味しさと言ったところだったんだろう。

 が、ずっと女性メイド達に後ろに立たれてコース料理を配膳(サーブ)されているのは、正直すっごい気疲(きづか)れしてしまった。




◆◇◆◇◆◇◆◇




本当(ホント)、早いところ自分達の家を手に入れて、この屋敷を出て自立しないとなぁ」


 夕食後に大きな浴室でお湯に浸かってから、自然と俺達の部屋の大きなベッドの上に集まっていて、俺はと言うと日課のユウナの脚のマッサージをしていたりする。

 しかし俺の独り言を聞いて、真っ先にアリスが困ったように苦笑する。


「ハクロー、あんた来て初日からそんなこと言ってると、部屋を提供してくれてるミラが泣くわよ」


「うぉっ、いや……そういうつもりでは。言い方が悪かったよ」


「お風呂は大きくて良かったんですけどねぇ――あ~、そういえば最初にメイドさんが一緒に入って来たから何をするのかなぁと思ってたら、お身体を洗いますって言われたのはビックリしたなぁ」


 こっちもベッドにペタンと座って、日課となっているコロンの白銀しっぽにもふもふブラッシングをしながら、身振り手振りで説明するルリ。

 う~、俺も元気が無いから、後でもふもふ()わってもらおう。


「ははは、はあ~。彼女達もメイド長に言われたとおりに、やってくれているだけなんだろうけどなぁ」


「コロンはビックリして()ぐに上がっちゃいまちた。タマゴもあるでしゅから。あっ、そこは……ふにゃぁ~」


 いつも通り、コロンがお風呂に入っている間だけは、タマゴは俺が(あず)かって大事に抱いて持っていた。

 風呂上りのフィは既にコロンの横でお(ねむ)だったりするが、そんな無防備な妖精をアリスが指でつつきながらつぶやく。


「まあ、近いうちにミラが引き()もり設備(セット)を自分の部屋に完備するって言ってたから、王城の時のように部屋で食事も作れるようになるでしょうしね~」


「それは助かるな。悪いがこのままじゃ、何時(いつ)か息が詰まっちゃいそうだからな。まあそれは別にしても、先立つ金と経験値は稼がないと駄目(ダメ)なんだけどねぇ。

 そうだ! 明日からはユウナも冒険者登録をして、一緒に冒険者ランクをガンガン上げてサッサと地下迷宮(ダンジョン)踏破(クリア)して行くぞっ。

 ニースィア近郊の大小地下迷宮(ダンジョン)は難易度によって、冒険者ランクの制限を受けるらしいんだよ。

 俺達を含めて、今の見習い冒険者のFランクをさっさと中級冒険者のCランクまで上げないと、そのうち入れない地下迷宮(ダンジョン)が出てきてしまうみたいだからな」


「分かった」


 顔色も変えず淡々と(うなず)くユウナに、それでも基礎レベルが低いことでの不安が少しでも無くなるようにと、ついついプラチナブロンドの髪を()でてしまう。


「大丈夫、心配しなくても最初の方の初級レベルの地下迷宮(ダンジョン)では後衛でジッとしていて、時々援護射撃をしてくれればいいからさ」 


「うん」


 わずかに紫の瞳を細めて微笑むユウナに、ルリがその手を取って微笑みかける。


「大丈夫ですよ。私も最初の頃は『車椅子』で一緒に連れて行ってもらってたけど、危ないことはちっとも無かったですからね。

 それに結界魔法と高位六精霊さん達にもお願いして、タマゴを抱えて動けないコロンちゃんと一緒にちゃんと守ってあげるんだから。おねーちゃんに、まっかせなさい!」


「ルリおねーちゃん、がんばれー」


 ユウナの抑揚(よくよう)の無い声援に、ふんす、とわざわざ(つか)まらなくても立てることを見せつけるようにベッドから降りて腰に手を当てると、えへへ~と嬉しそうに笑うルリだった。

 離れていても経験値が稼げる【ルリの友達】スキルがあるんだから、本当は危ない地下迷宮(ダンジョン)なんかに連れて行きたくはないんだが。

 まあ、ここに一人で置いて行く方よりはよっぽど安全面で心配が無いのは事実だったりするのだろう。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 アリスとユウナがそれぞれの部屋に戻って、月明りだけの部屋で大きすぎるベッドに、これまで通りTシャツに鼻を(うず)めてタマゴを抱いたコロンとそのしっぽに(くる)まった妖精のフィを真ん中にして横になっていた。

 ここは海が近いからか、夜になってもそんなに急激に気温が下がらず、それでも(すず)やかな海風が窓から流れ込んでくる。


「ハクローくん、起きていますか?」


 遠くにわずかに聞こえてくる海の気配に少し考え事をしていると、スゥスゥと寝息を立てるコロンの向こうから、珍しくルリが声をかけてきていた。


「ああ、――どうした? 枕が変わって眠れないのか?」


「くすくす。こう見えても私、どこでも良く寝れちゃうんですよ」


「そうか」


「……ようやく、ここまで無事逃げて来ることができました。ハクローくん、これまでありがとうございます」


「……いや」


「ようやく、これから本当の意味で異世界生活のスタートです。地下迷宮(ダンジョン)に行って自分でお金を稼いで、いろんな所へ行って冒険をして、そして魔法学園に通学するのですよ、うふふ。向こうの世界にいた頃の私では、想像することもできなかったでしょうね」


「ああ、そうだな」


「えへへ、明日からがとっても楽しみです」


「そうか」


「だから、ありがとうなのです。私、この異世界でハクローくん――とみんなに出会えて、とっても幸せです。えへへ~」


「そうか――よかったな」


 明日からが文字通りの本格的な異世界攻略になる。それこそ終わりなきハッピーエンドに向かって、必ず――必ずやり()げて見せる。


ようやく2章を完結させることができました。これまで読んでいただき本当にありがとうございます。ここまででご指摘などありましたらご指導いただけると助かります。明日からは3章の冒険者ギルド編を投稿していきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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