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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第2章 異世界旅行編
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第2章26話 魔法自動拳銃P226


 ガタゴトと言うはずの車輪の音が全くしない【波乗り(重力)】状態の馬車の中で、コの字のソファの真ん中の机の上に昨晩の戦利品、光の【魔石】を利用しているらしいレーザーサイト付きのガンメタに光る魔法自動拳銃P226と予備弾倉を並べている。


「えへへ、ほら(すご)いだろ、七丁もぶんどった――げふんげふん、落ちてたのを(ひろ)ったんだ~。使用者の魔力認証(ライセンス)も解除してあるから、好きなの選んでいいぞ。

 選んだら再認証して他の人には使えなくするからさ、遠慮しなくていいんだぞ、ほれ、ほれ~」


「ハクロー、あんた一人(ひとり)にすると、本当(ホント)(ろく)でも無いことしかしないわね」


 物凄(ものすご)いアホの子を見る目で、(にら)みつけて来るアリス。


「え~?」


 あれ? 斬り落とした手は、ちゃんと女神の十二使徒である筋肉マッチョおやじのヴァルデマールに返したよ? とっても喜んでいたけどなぁ。


「ハクローくん、一応聞きますけど、道端(みちばた)に落ちていた訳では無いですよね?」


 今度は仕方(しかた)のない子をあやすように、幼稚園の先生のような優しい目で()うてくるルリさん。

 

「え?」


「クロセ様はご存知無(ぞんじな)いかもしれませんが、これはジュネヴァン連邦国の国家機密に属する兵器です。子供の玩具(おもちゃ)ではありませんよ」


「はい、その通りです姫様。高い技術力を必要とする魔法銃器関係は、このジュネヴァン連邦国でも所持(しょじ)できるのは極限(ごくかぎ)られた高位(こうい)の方達だけと聞き(およ)んでいますので、それなりの人物――いえ、確実に上位組織から奪取したものかと」


 ミラ先生とクラリス先生には、学校の職員室か教育指導室に連行されてしまった、喝上(カツア)げ常習犯の出来(デキ)の悪い不良(ガキ)()めるように(さと)されてしまう。


「ええ~?」


「はあ~、クロセくん。普通は使用者を限定する魔力認証(ライセンス)は、専用の術式無しで書き換えることはできない」


 とうとうユウナにまで、初めて見る(あき)れたような無表情で特大のため息をつかれてしまう。

 おお、レアだ。それだけでも、怒られた甲斐(かい)が――あるのか?


「あれ? だって、普通にスキルで【解析】したらできちゃった――よ? あれあれ?」

 

「わーい、コロンはこれ~」


「うわーん、フィには大き過ぎて持てない~」


「わわ、ごめんよ。今度フィには何かおいしいもの作ってやるから、な?」


「もう、ハクローはしょうがないな~。それで手を打ってあげるよ~。えへへ~」


 ふふん、と小柄な割にはスタイルの良い胸を張って、お腹まで出して()り返りながら許してくれる妖精フィさん。

 その横で、不思議そうにひい、ふう、みい……と銃を数えていた、ぽんこつフランがペールブロンドの髪を()らして首を(かし)げる。


「あれ? でもそれでも七丁だと、一人分(ひとりぶん)足りませんよ」


「あれあれぇ~? 【女神の使徒】で、神聖教会の修道女のシスター・フランには、殺傷兵器なんていらないだろぉ?」


「うわぁーん、ハクローさんがいぢわるしますぅ~」


 ちょっと何時(いつ)ものように(いじ)めてやると、大声を上げて泣き出してしまう、ぽんこつフラン。

 というか、女神の慈悲の心に(あふ)れた信仰深き修道女が(あた)(かま)わずハンドガンをぶっ放すって、どうなのよ。


「まあ、確かに攻撃魔法が使えない、特にミラとルリにコロン、おまけにぽんこつフランには必要かもね」


「わーん。アリスさんまで、おまけって言ったぁ~。それに、ぽんこつじゃ無いです~」


「あ、あの、私は魔法アサルトライフルSG550があるので」


 また、ユウナが自分は辞退しようと遠慮がちに片手を上げてしまう。しまった、アホなことをしてぽんこつで遊んだせいで、彼女に要らない気を使わせてしまった。


「いや、ユウナはこのひとつだけサプレッサーも付いている、シルバーモデル特殊仕様の魔法自動拳銃P226を使ってもらう」


「え、でも」


「スキル構成から言っても、サプレッサー付きを使いこなせるのは、ユウナだけなんだよ。

 他のみんなは、光の【魔石】のレーザーサイトが指す場所に向かって引き金を引くだけで恐らくは十分だと思うが、レーザーサイトを切って発射音抑制器(サプレッサー)を付けての隠蔽狙撃になると、間違いなくユウナの【射撃】と【命中】スキルでないと不可能となるはずなんだ」


「でも、私は」


 それでも、固辞(こじ)しようするユウナのプラチナブロンドのさらさらの長髪を()でるようにして、できるだけ優しい声になるように注意しながら言い訳を始める。


「それに、今のユウナはまだ魔法アサルトライフルSG550を持てるほど、体力が回復していないからな。しばらくは魔法自動拳銃P226を両手で持つのも、やっとのはずだ。

 だから、頼むからこれを使ってくれないか」


「う、……わ、分かった。クロセくんが、そう言うなら」


「悪いな、()がまま言って」


「ううん。いい」


 じぃーっと、さっきから周囲の視線が刺さって来るので、その視線を避けるようにして、ごほんと(せき)をひとつしてから。


「俺は要らないからさ、みんなの()()()()()()()()()()を軽い魔獣の皮で錬成して作っておくよ。あ、ユウナのは取り外したサプレッサーが別に付けられるようにしておくから」


「うん、ありがと」


 素直なユウナがわずかに微笑みながら(うなず)いてくれる。しかし、アリスは白銀プレートの下のその薄い胸を張って、何を思ったのか真っ紅な膝丈スカートを細い指先で()まんでヒラヒラさせ始めると。


馬鹿(バカ)ねェ、ハクロー。美少女が銃を抜き撃ち(クイックドロー)するのは太腿(ふともも)のホルスターからと相場が決まっているでしょ?

 ミニスカから(のぞ)く、ニーソのムッチリ太腿(ふともも)に拳銃ホルスターが……うへへ」


 遥か遠くの青い空を見上げたまま、どっか()ってしまわれました。


「はいはい、ホルスターは太腿(ふともも)ね……でも、こんなゴツい自動拳銃(ハンドガン)がスカートの下に隠せるのか?」


 至極(しごく)もっともなことに首を(ひね)っていると、メガネの縁をクイッと上げたクラリスを(ともな)ってミラが(あや)しく微笑む。


「クロセ様、乙女のスカートの中はこの世の神秘(しんぴ)一杯(いっぱい)なのですよ。うふふ」


「はい、その通りです姫様。クロセ様、女性のスカートの中は未知の異次元に(つな)がっているのです」


 おお~、大人なミラの魅惑(みわく)の微笑がかえって怖いぞ。あの妖艶(ようえん)な魔性の微笑を向けられたまま、スカートの下から自動拳銃を抜き撃ちされると、簡単に一発(いっぱつ)心臓(ハート)を撃ち抜かれてしまいそうだな。

 逆にメガネをキランと光らせている、クラリスのメイド服のエプロンドレスのスカートの下の亜空間は想像するだに恐ろしいのだが。


「じ、じゃあ、早めにお昼にして、ついでに(ため)し撃ちでもするか?」


「「「「わーい」」」」




◆◇◆◇◆◇◆◇




 コロンとクラリスが作ってくれた昼食を取ってから、御者のビーチェが馬車を()めた(ひら)けた荒野で、アリスが土魔法で作った標的(ターゲット)に向かって射撃の練習だ。


 流石(さすが)は【知識】と【教導】が【付与】された【賢者の石】を持つだけあって、ユウナの初心者に対する自動拳銃の取り(あつか)いの指導は大したものだった。

 ピストルなんか初めて見るコロンやミラ、クラリスにあのぽんこつフランでさえ、光の【魔石】を使用したレーザーサイトの紅い光の指す先をめがけて、タンッ、タンッ、タンッと小気味よい破裂音をさせながら、両手で握った魔法自動拳銃P226のトリガーを引き(しぼ)っている。


 むしろ、ハンドガンという人殺しの道具の殺傷力だけは理解できてしまう日本人のアリスとルリよりも、純粋に上達は早いようだ。

 だからと言って、決して二人が下手という訳では無く、結局、予備に渡した15発マガジンを撃ち終わる頃には、その短時間で全員が【射撃Lv1】スキルを習得しているという驚くべき結果となっていた。


 さらには元々【射撃Lv0】【命中Lv0】という謎レベルのスキルを持っていたユウナに至っては、『車椅子』に座ったまま肘掛けで支えるようにしながらやっと射撃していたのだが、その30発+1発の全てが標的(ターゲット)の真ん中に百発百中という(すさ)まじいまでの凄腕スナイパーぶりを発揮している。

 そして、レベルもなぜか意味不明なLv0から一気(いっき)にLv2にジャンプアップして、挙句(あげく)は【身体強化】スキルを習得するというおまけ付きだ。


 もちろん、その根底にあるのはLv4となった【ルリの友達】による経験値取得1.4倍化とスキル取得に必要な経験値1/1.4倍化があることは間違いがない。

 なんせ、この二つの相乗効果で通常の約2倍以上の速度でスキル上達するんだから、プチチート以外の何物(なにもの)でもない。


 俺はと言えば、一人(ひとり)だけ銃を持たないので(ヒマ)を持て余していた訳では無いが、空薬莢(からやっきょう)を使って銃弾の錬成にうんうん(うな)ってトライしている。

 そう、なぜか俺の錬成は武器関連になると、とことん使い物にならなかったりする。あんなに日用品はポコポコ出せるのに何故(なぜ)だ、()せん。


 すると、ユウナが自分の分を撃ち終わって、地面に散らばった空薬莢(からやっきょう)を握り締めていたかと思うと。


「クロセくん、できた」


 あっさりと銃弾の錬成に成功したのには、涙がちょちょ()れそうになった――のは、秘密だ。


 当然のように【錬金Lv1】スキルもキッチリと習得しているのは、流石(さすが)は【純潔の女神】アルティミスのお墨付(すみつ)きといったところか。

 しかし、ユウナの【錬金】スキルを使った銃弾の錬成も、俺の生活用品と同じく素材を必要としないタイプの物のようだ。


 そんな訳で、通常の装填弾数は薬室にあらかじめ装填してあった1発を含めて、常に15発+1発を維持できることになった。

 このたった1発が生死を分けることもあるので、全員が承知の上で暴発したりしないよう十分注意が必要ではあるが、最大装填数での運用でいくつもりだ。


 ちっとも役に立たない俺はしょうがないので、みんなの選んだ魔法自動拳銃P226の使用者登録の魔力認証の作業をチマチマとしてました――地味だ。

 まあこれで、他人が使用できないようにできたし、拳銃に内蔵している【魔石】にみんなの魔力パターンをコピーしておいたので、盗まれたりして手元から遠く離れると、魔力波パルスを一定間隔で自動発信して所在(しょざい)を知らせるようにも魔改造してある。


 しかし、魔法アサルトライフルSG550スナイパーにしろ、この魔法自動拳銃P226レーザーサイト付きも、どう考えても異世界人が製作に関与しているとしか考えられない。


「ゲーセンのシューティングよりも難しいわね」


「小さい頃に家族で行った、お祭りの的屋(てきや)さんよりも良く当たります」


 アリスとルリで思い起こされる日本の思い出が(ひど)く対照的なのはいいとしても、本当はこんなものは持たせたくないのが本音なんだがな。

 すると、ポロポロと銃弾を錬成していた――いつのまにか【物理強化】まで追加して錬成している――ユウナがポツリとつぶやく。


「魔力を込めて撃つとそれに合わせて、貫通力と破壊力を上昇させることができる」


「へぇ~、どれどれ」


 物は試しにとアリスが自分で土魔法で作った(まと)めがけて、紅い魔力を込めて引き金を絞ると――ドンッ、と腹に響くこれまで以上に低い破裂音がして(まと)の上半分が吹き飛んでしまっていた。


「あ……、これじゃ人に向けては撃てないわね」


「でも、オーガとか皮膚の硬度が異常に高い魔物なんかには、かなり有効だと思いますよ」


「はい、姫様。これならドラゴンは無理でも、上級種の魔物でも相手にすることができるのではないでしょうか」


 随分と物騒なことを言い出すミラとクラリスには、よく言い含めておく必要があるか。


「二人共、()()()()、だということを忘れるなよ。後、一発で仕留められなければ、次の瞬間に()られるのはこっちだぞ」


「はい、クロセ様。肝に銘じておきます。無理はいたしません」


「その通りです、姫様。決して無理だけはしてはなりませんよ」


「分かってくれれば、それでいいよ。基本は敵を倒すことじゃなくて、生き残る――身を守ることを優先してくれよ。

 それじゃ、せっかくだから、みんなでマイ(ガン)を構えて写真でも撮るか」


 そう言って、穴だらけになった(まと)を前に、サングラスをかけてレーザーサイト付きの魔法自動拳銃P226を顔の横に両手で構えた――どう見ても異世界っぽくない、ギャング映画かガンゲームに出て来るヒロイン達のような写真をパチリコ。


 おお、意外とカッコいいじゃん。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 その夜、いつものように街道沿いの開けた場所に馬車を停めて【砂の城】を出していた。

 夕食も取ってから、ユウナが魔法自動拳銃P226の解体清掃を始めたのでみんなも教えてもらって、順番にお風呂にも入り――今はそれぞれの部屋でゆっくりとしているはずだ。


 そんな訳で一番最後に風呂を使った俺は、(すず)みに屋上に出て来ていて――白い木製ベンチに座り綺麗な星空を一人(ひとり)見上げているユウナを黙って見つめていた。

 (あま)(がわ)から星が(こぼ)れてきそうな夜空からふと目を()らしたユウナが俺に気づいて、少し照れたように紫の瞳を細めてわずかに微笑む。


「クロセくん、どうしたの?」


「……いや。ちょうど良かった、足首を貸してみ」


 そう言ってから、ベンチの隣りに腰掛けると(ひざ)の上に、ユウナの生足(なまあし)をそっと持ち上げてのせると、傷跡もすっかり無くなっている足首をゆっくりとマッサージし始める。


「痛くないか?」


「うん」


「よかったな」


「え?」


「傷が残らなくて」


「……うん」


 そうして、しばらく黙ってマッサージを続けていると、プラチナブロンドの長い髪を夜風にさらさらとさせ、(うつむ)いたままのユウナが躊躇(ためら)いがちにつぶやく。


「ありがと」


「……いや」


 俺は――結局、間に合わなかった、のだと思う。

 実はあの日、ユウナを助けてからずっと、「何故(なぜ)もっと早く助けに来てくれなかったのか」と責められるのが(すご)く怖かった。

 はあ~、分かってはいるんだが、相変わらずヘタレでキモい。


 だから、いつもの「(けが)れている」という拒絶(きょぜつ)の言葉を(くち)にすることなく、こうして今のように黙って触れさせてくれているだけでも、悲しくなるほどに嬉しかった。

 そうしてそのまま二人で黙ったままの優しい沈黙の中で、ゆっくりと時間をかけてほんのり魔力も込めながらマッサージを続けるのだった。


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