↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第1章 異世界召喚編
56/240

56話 まだ見ぬ異世界へ



 日本から異世界に召喚されて28日目にして、今日、ようやく王都を出ることになった。


 こんな、あらゆる意味で(ロク)でもない所によくも一ヵ月近くもの(あいだ)いたものだと、本当に感心してしまう。

 この長期間に渡ってルリとコロンとフィとで暮らしてきた病室にはお世話になったが、記念に魔改造して大勢で入れるように大きくサイズアップしたバスタブは置いて行くので勘弁してほしい。


 病室の窓の外で、これで最後になる剣術と歩行の朝練を終えると、さっさと朝食を取って出発の準備を始める。


 内部拡張の魔改造をして馬車にみんなの荷物を積み込む、とは言っても個人の物はほとんど着替えぐらいしかなく、それも異世界召喚者は【収納】に入れてしまってそれすらないという、本当に手ぶらの状態だった。

 後は移動中の食糧などをビーチェが馬車に積み込んでいるが、それも大半は時間が限りなく停止している【時空収納】に入れてしまったので、実はほとんど無いのだ。


 そんな出発準備の空いた間に、アリスと二人で王城の秘密の隠し金庫室に【チューブ(転移)】で転移侵入していたりする。


「この王城の魔術防壁結界って、本当にザルだよなぁ」


 こんなことでセキュリティーというか、国家としての安全保障は大丈夫なんだろうか、などと()らん心配をしてしまう。


「ハクローの他に転移している人なんてここじゃ見たことないしねぇ、公爵の騎士団戦でもハクローの転移を理解できた人はほとんどいなかったんじゃないのかな。

 たぶん宮廷魔術師でも、単なる見えないほど速い【加速】と思った人も多かったんじゃないの?

 誰とは言わないけど、アホ第二王子の寝室に侵入した時も、転移魔法を使ったとは思わなかったみたいだし。

 【勇者】でもないハクローが転移魔法を使える、しかも本当に王城の魔術結界を貫通すると分かれば、大騒ぎになっているはずだもんね。

 この前の謁見(えっけん)()でのことは、どうしてか目の錯覚ということになってしまっているようだしねぇ。どうしてこう、ここの人達って現実から目を()らすのかしら。

 ああ、生徒会長達の分は置いておいて、王国の隠し財産から分捕るのは半分でいいわ」


 とか言われるまま、隠し金庫に貯め込んであった金貨銀貨が入った宝箱を【解析】で確認しながら、ざっと半分を【時空収納】にしまっていってるのだが、そのついでに聞いてみることにする。


「俺達には必要ない物なのに、なんでわざわざ(カネ)なんかもらって行くんだ?」


 そうなんだ、こんな泥棒のような真似をしなくても、生活していくだけのお金を稼ぐぐらいならレベルアップも兼ねて魔物を狩っていけば、多少の危険はあるものの、クエスト報酬と部位売却でそれなりに貯蓄できることがこの約1ヶ月で確認できていた。


 【時空収納】に格納した金貨銀貨の合計金額を【解析】で表示させて、それをアリスが羊皮紙でできた領収書に王国の文字で書いて壁に短剣で刺して貼り付けると、金庫室に響く声でつぶやく。


「そのお金が必要になる時が来るからよ」


 ウィンクするように右目を(つむ)ったアリスは、左目の蒼い【未来視の魔眼】の奥を(にぶ)く光らせていた。




 出発準備をしている馬車まで戻るとその横で、『車椅子』に座るルリがチョイチョイと手招(てまね)きをしてくるので(そば)まで行くと。


「やっとできたの」


 そう言って、(かが)んだ首にシルバーでできたペンダントトップをかけてくれる。


「えっ?」


 と、いきなりのことでビックリしていると。


「これは蓋が開いてね、小瓶のように思い出を詰め込めることができるの、えへへ。」


「何か、追加効果は【付与】したの?」


 横からアリスが(のぞ)きこみながら、(かた)まってしまっている俺の代わりにルリに聞いてくれる。 


「これから王都を出ると危険がいっぱいなので。これには長い時間、私の魔力を込めて、ようやくレア付与効果の【身代り】が【付与】できた、たったひとつだけの一品物(スペシャル)なのです。えへん」


「おぉー、ユニークアイテムってことね?」


 嬉しそうに笑うドヤ顔のルリに、パチパチと手を叩いて一緒になって喜ぶアリス。


「ま、間違いなく、それは国宝級アイテムですよ」


「はい、姫様。クロセ様、迂闊(うかつ)に人に言わない方が良い品ということです」


 ミラレイア第一王女が驚愕(きょうがく)の事実を告げると、クラリスはその取扱いに注意するよう(うなが)す。


 すると固まったままの俺に、ルリがはじらうように微笑みながら付与効果を説明してくれる。


「えへへ、ハクローくん。もし万が一にも、命の危険があったとしても、これが一度だけ【身代り】にハクローくんの命を守ってくれるんですよ」


「それって、マジで超レア物じゃないのよ」


 【鑑定】しているらしく感嘆(かんたん)の声を上げるアリスに、少しだけしょんぼりしながらルリが説明を続ける。


「みんなの分もと思ったのですが、付与リストがグレーアウトして選べなくなってしまって」


「あー、それって【限界突破】した超位付与魔法だからじゃないの?」


「レベルはそこまで高くは無いのですが……」


 なんでだろう、と思案顔をするルリに、そんなことよりも大事なことがあるでしょうと言わんばかりに、ミラがルリのやわらかいほっぺをつつく。


「ルリ様の思い出と一緒に、クロセ様がいつも肌身離(はだみはな)さず持っているというわけですね~。うりうり~」


「そ、それは……照れますねぇ。てへへ~」


 クラリスにつつかれた(ほほ)を桃色に染めて、いやんいやんと身体をクネクネさせるルリさん。


「ん? 何か入ってるぞ」


「実は中には私の髪が数本入っていて、長いことたーくさんの魔力を込めてあるの。えへへ」


 にこぉ~と微笑みながら、がんばったんだよとルリが両の手のひらを広げて見せると、ミラ先生がうんうんと頷く。


「そのとおりです、髪には魔力が宿ると言いますからね」


「姫様、特に女性の髪は女の命ですからねぇ~。ああ、若いって良いですねぇ」


 そう言われて、ペンダントトップの魔力周波数と同期させてみると。


「ホントだ、これなら【ソナー(探査)】で同じ魔力波形のルリがどこにいても見つけやすいな」


「フィも魔力の気配なら見えるわよ」


「コロンは匂いで、ルリおねーちゃんをいつでも追跡できます、ふんすっ」


 おおー、可愛い鼻をピクピクさせて、コロンが少し膨らんできた胸を張りながら対抗している。流石(さすが)は獣人ということか。


「ん?」


 ふと、蓋を開けたペンダントトップの中身をクンクンしてみると。


「きゃあー! ハクローくん、かぐの禁止!

 あれ? 私、あの時髪洗った後……よね? いやぁー、それでもやっぱり返してーっ!」


「やだ」


 とルリから届かないよう高く上にあげると、へっぽこフランがニヤ~と笑って、分かります分かりますと(うなず)きながら。


「えぇ。はいはい、よく分かりますよぉ。今度、部屋で一人(ひとり)で隠れてくんかくんかするんですねぇ!」


「ぎゃあ――――っ!」


 と、とうとう『車椅子』から立ち上がり両手を精一杯あげて、俺に(つか)まりながら見えない白いウサ耳と白い丸しっぽと一緒に、ぴょんぴょん飛びつき始めたルリを、少しホッとしてふわっと抱きしめる。


「ルリ、ありがとうな」


「あ……はい、ハクローくん」


 バンザイしたままあげた両手を俺の首の後ろに回して、背伸びをしてつま先立ちになり優しく抱きついてくるルリを、すっぽりと包み込むように抱きしめる。


「わあ、ハク様ぁ~。コロンも抱っこ~」


「わーい、フィーも~」


「きゃー、クラリス。青春ですよ、これは過ぎ去った青春です!」


「コホン、姫様も私もまだ過ぎ去ってはいません――ズバリ、現役の青春が真っ盛りです。でも(なん)だかとっても甘酸(あまず)っぱい気分です、うへへ」


「ルリ様が幸せそうなので、今回だけは見逃してあげます。ああ、女神様、(なん)て慈悲深いのでしょうか」


 トンッ


「ほら、何いい雰囲気になってんのよ。

 ハクロー、あんたこれで一撃死(いちげきし)しなくなったんだから、それ持って私達の盾になりなさいよね」


 (ほほ)(ふく)らませてソッポを向いたアリスに後頭部を軽く手刀で小突かれて、トンデモないフォーメーションを突きつけられる。


「おい」


 わいわいと馬車の横で(かしま)しく騒ぐ俺達を静かに御者の席に座って待つビーチェが、ぐっと親指を立てた――気がした。


「はぁ~。それじゃ、そろそろ行くか」


「「「「「わーい」」」」」


 歓声と共に我先にと馬車に乗り込みむ、ルリ、アリス、コロン、フィ、ミラ、クラリス、フランに俺。


「じゃあ、ビーチェ出発だ」


「…………」


 無口なテディベアぬいぐるみのビーチェは、静かに二頭の馬を(あやつ)って馬車を走らせる。勿論、【波乗り(重力)】で車内は揺れないし、普通よりも随分と速く走ることができている。


 ふと視線を感じて馬車の後ろを振り向くと、王城の二階のベランダから風に揺れるストロベリーブロンドを抑えながらこちらをじっと見ているマリーアンヌ第二王女を見つける。

 やっぱり、その青い瞳は寂しそうにしか見えなくて、室内のみんなにも分かるように親指で指差してやる。


「マリーちゃん……」


「姫様、よかったですね。最後にお見送りに来ていただけて」


 だからと言ってマリーアンヌ第二王女に、何をどうしてやることもできないのは分かっているが、馬車内の全員が窓から身を乗り出して見えなくなるまで手を振る。


 王城の壁に隠れて見えなくなってしまう寸前に、ベランダに半身を乗り出すようにしていたマリーアンヌ第二王女が、涙を()くような仕草(しぐさ)をしていたような気がしたのは見間違いだったのか。




 王城と王都の城壁も抜けるてしばらくすると、周囲にはぺんぺん草しか生えていない荒野の中、南部にある海沿いの大都市ニースィアに向かう街道を馬車で突き進む俺達は、もう後ろを振り返ることは無かった。


 馬車が向かう街道の先には、灼熱(しゃくねつ)の太陽に(あぶ)られた(あた)りに(さえぎ)る物も何も無い荒野だ。

 地面から立ち(のぼ)蜃気楼(しんきろう)の向こうに、雲ひとつ無いどこまでも透明な青空の下、大小の丘とその先には、天に届くほどの高い山脈が真夏だというのに雪化粧をして、まるで行く手に立ち(ふさ)がるようにそびえていた。


 こうして異世界召喚から約一ヵ月を経て、俺達はこの世界でできた仲間達と共に王都を出て、まだ見ぬ何かを求めて旅立つのだった。


 ようやく第1章のエンディングを迎えることができました。ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。これまでの、感想などを含めたご指摘などいただけると助かります。これからも頑張って第2章を投稿していきますので、引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。