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ミスリルハーツ ~サーファー、異世界へ~  作者: 珠乃 響(ゆら)
第1章 異世界召喚編
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49話 魔王降臨(上)

今回は上下話になっているため、2話連続投稿していますのでよろしくお願いします。



 25日目の朝、いつも通りの剣術と歩行の朝練とはいかず、ルリは大事をとって病室のベットの上から見学となった。


 朝起きたときに薄暗い中で見た感じでは、昨日よりもずいぶんと顔色もいいようだったが、ルリの場合は歩行中に転送するだけでも大事になる可能性があるので、今日は安全を見て激しいリハビリの運動はやめてもらうことにした。


 しかし昨日といえば、我を忘れてルリに抱きついてしまったのは……今になってよく考えなくても、かなり相当に確実な確率で間違いなく不味(マズ)い気がする。


 はあ~、と大きなため息をついて……かつて姉貴達に散々言われてきたように、客観的に見てもやっぱり、あれはキモいんだろうと思いつく。


 あの綺麗な紅い瞳で白い眼を向けられたらと考えると、明るいところでルリと顔を合わせる勇気が無くなっていくのが分かる。ああ、ヘタレもここに極まれり。


 ふと窓の方に目をやると、朝の涼風(すずかぜ)に吹かれて揺れる、開けられた白いレースのカーテンの向こうに、ヒラヒラとミスリルの指輪(リング)をつけた方の手を振る、白く長い髪も(すず)()にそよがせてベッドの上に座るルリの姿が見える。


「がんばれー」


 ルリの鈴をコロがすような小さな声が聞こえた、気がした――――そうだ、がんばらねば。


 コロンとテディベアぬいぐるみのビーチェも窓の方に視線を向けて、何やら張り切っている、気がする。その(そば)を妖精のフィが、応援するように飛んでいるのも見える。


 よし、もう少し、もう少しだけがんばろう。


 もう少ししたら、この瑠璃色(るりいろ)の夜空も朝焼けに染まり(しら)み始める。さあ、(さわ)やかなる一日(いちにち)の始まり始まり。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 王城の木戸とカーテンの閉まった薄暗い空き部屋のひとつで隠れるように、黒フードを首の後ろに下した男と派手なピンクのドレスを着た貴族令嬢が、小声で話をしている。

 貴族令嬢は黒フードの男の腕に両手で抱きつき、自分のふくよかな胸を押し当てて、太腿を(から)めて身体を密着させている。

 目の前には上級貴族用の天蓋付きベッドがあり、甘い匂いのする幻惑(げんわく)効果のある(こう)まで()いていた。


「王族である私の後ろ盾を得ることができれば、【勇者】キョウイチ様の戦力をもって、この王国における本当の自由と権力を得ることもできるのですよ」


 貴族令嬢は腕を抱いたまま爪先(つまさき)立ちになると、黒フードを着た男――高堂享一の耳元に唇を近づけると、生温かい吐息(といき)を吹きかけながら(ささや)く。


 この世のあらゆる男で、この()(ぜん)を食わないなどあり得ない、そんな(おろ)かな者はいないだろうことをこの貴族令嬢は確信していた。


 しかし黒フードの高堂享一は、さも反吐(へど)が出るとでも言うように、(まゆ)を寄せて貴族令嬢を見下ろすと、まるで娼婦以下の売女でも見るような(さげす)む目を向けて()き捨てる。


「んー……、平河くんの使い(ふる)しのお()がりなんか、いらないな」


「んなっ! 私は第三王女ですよ」


 そう、この貴族令嬢は捕縛されたあげく脱獄してしまった、平河衛士と情を交わしていたジョスリーヌ第三王女だった。のだが、王位継承権を持っていようがそんなことは高堂享一にとってはどうでもいいことで、むしろどうやっておもしろくしてくれようか考えるのだが……。


「だって、あんた自身はちっとも、おもしろくないし」


「え?」


「お前、ちっともお・も・し・ろ・く・な・い」



 

 そう言う通り、高堂 享一の基本的な判断基準は、18年生きて来た今も昔も「おもしろいか、おもしろくないか」だけだった。


 湘南海岸沿いの大病院の跡取りとして生まれて、その英才教育もあってか、早い段階から他人を認識して意識下に置くことを可能としていた。

 可能か不可能かで言えば、他人の人生を俯瞰(ふかん)して、その分岐した迷路の先に誘導することすらできていた。


 最初は小学校に通う途中の家で買っている猫の逃げ場を奪い、閉じ込めて餓死させてみた。でも、ただ干からびただけだったので、あまりおもしろくなかった。


 その後は犬や鳥や色々な生き物を逃げ場のない行き止まりに追い詰めて、工作で使う小さなカッターナイフを使って、その特徴のある個所を切り取って別の物に変えてみた。


 中学になると、学校で話しかけて来た女子の生きる先を袋小路にしてみた。逃げ場を失った女子中学生は()()にしたら、年上の高校生に乱暴されてあっさり死んでしまった。

 自分で手が出せなかったので、あんまりこれもおもしろくなかった。


 次に話しかけて来た女子は、自分の目の届く場所を周回するようにしてみた。結局は卒業するまで犯そうが売りをさせようが周回軌道から外れることができずにいたので、そこそこおもしろかった。

 でも卒業するときに、開放すると言って卒業生で回したら(ちから)の加減を間違えたのか、死んでしまった。


 さすがにこの時は親に知られて()み消してもらうことになったが、親の誘導先も用意して逃げ場を封じてあったので、簡単に事後処理できてしまった。


 高校では同時にいくつもの女子が言い寄って来たので、決して(かぶ)らないように迷路に誘導して、そのまま迷宮に捕らわれたまま(けが)してみた。

 三年生になりそろそろ卒業に向かって、どうやってこれらを(こわ)そうかバッドエンドを考えていたら――――突然、異世界とやらに転移させられてしまった。


 残してきたルートのエンディングが見れなかったのは残念だったが、これまでにない魔法のある世界でどんな迷路が待ち構えているのか心が(おど)った。


 それなのに迷路に挑戦する側の【勇者】だなんて天使が言い出すもんだから、迷路を作って俯瞰(ふかん)できる側の【魔王】に職業を変えさせた。


 そのままのステータスだとすぐに露見(ろけん)して困るだろうと言われたので、天使お勧めの【偽装】スキルでステータスだけではなく、【魔王】の特徴である(ツノ)や羽と赤い目なども隠蔽(いんぺい)することにした。


 でも、そこまでしたのに最初はおもしろくなかった。あまり元の世界と違いがなかったからだ。


 しかし、この世界にしかいない獣人や【魔石】を使うとおもしろいことがわかってきた。


 驚いたことにそれ以上におもしろかったのは、意外にも一緒に異世界に転生された、元の世界の一人(ひとり)の少年だった。


 彼は用意した迷路を素直に道なりに進むことはせずに、壁をよじ登ったり、壊したりして進んだ。

 そう、基本的に彼の選択するその進路は寄り道はするものの、ほぼ真っ直ぐだったからだ。

 好んでわざわざ重い荷物を抱えたりしているのに、気にせず闇雲(やみくも)に直進を繰り返す。

 その迷路を無視した軌道は俯瞰(ふかん)すると言語に()くしがたく、とてもおもしろかった。


 でもそろそろ、ここにある迷路は飽きたので、自分自身で専用の迷路を作りに行こうと思うんだ。

 その迷路にも遊びに来てくれるといいのだが。そうだ、いつか招待しよう。そうしよう。


 その前に、目の前のおみあげを迷路への招待状代わりに残して行くことにするか。




◆◇◆◇◆◇◆◇




 何の前触れもなく、アリスが少し前から多発している王城内の猟奇殺人の犯人を捕まえると言い出した。


 ナゼ? と聞いても、「そこに真実があるからだ」と言って、「助手くん」と呼ばれて結局は連れて来られているのは意思が弱いからか。

 ちなみに体調が回復しきっていないルリがいるので、『車椅子』で散歩できる王城内限定だ。つまり、外部犯の可能性は最初から却下されてしまっていた。


「なあ、本当になんでこんなことやってんだ?」


「それは『そこに真実が」


「あるからだ』はもういいから」


 名探偵よろしくどこから持って来たのか、たばこの葉の入っていないパイプをくわえる、アリスの無駄(ムダ)台詞(セリフ)容赦(ようしゃ)なく遮断(しゃだん)すると。


「ぶー、侍女の噂話(うわさばなし)とか、騎士の世間話(せけんばなし)とか、魔術師からの挑戦とか、色々よ」


「なんか、とりとめもないけど。良いように、誰かに誘導されてないか? 国王とか」


「な、何よ。犯人を事件解決に向けて誘導するのは、名探偵の私の仕事よ」


 思い当たることがあるのか、「図星です」とでも言うように途端に挙動が怪しくなる()探偵なアリスさん。


「すごいです【名探偵アリス】ですね、格好(カッコ)いいです。

 それでは、私も『車椅子』に座って、この灰色の脳細胞を働かせることにしますね」


「こんなの()っといて、ルリは体調が悪くなったらすぐに言うんだぞ」


「はい、ハクローくん。わかりました、えへへ」


 学園祭でやるクラス演劇の演目がたまたま名探偵モノだったノリで喜ぶ、ルリの『車椅子』を押しながら、そんなことよりも安静にしていなくていいのかと体調を気遣(きづか)う。


「なぜかハクローのノリが悪いわ、どうしたことかしら」


「ノリだけで殺人事件に首を突っ込むのか、お前は」


 不本意だと言わんばかりのアリスを、体調が本調子ではないルリまで巻き込むなよなと(にら)む。


「ま、まさか。【賢者】で【聖女】な私がそんな……人助けよ、人助け」


「二回言ったな」


「う……だって、(なん)だか嫌な予感がするんだもん」


 (いじ)め過ぎた訳では無いのだろうが、とうとうしょんぼりしてしまうアリス。紅い(まゆ)を下げて、さくらんぼ色の唇を(とが)らせると(ほほ)(ふく)らませてしまった彼女に、大きなため息をつく。


「……しょうがないな。【ソナー(探査)】で判別できるか、トライしてみるか」


「えへへ、ありがとう。

 それじゃ、コロンは何か違和感とか異臭、特に血の臭いがあれば教えて。

 フィは魔力の異変がないか、周辺警戒。

 ルリは精霊にお願いして、王城内の結界での特異点などの探索ね」


「「「はーい」」」


「はぁ~。ため息しか出ないが、サッサと片付けるか。

 んん~~、悪いが『敵意』や『殺意』とかの波形パターンを周波数別にフィルタリングして【解析】で『分別』してもマーカーが変色しないぞ。これは、意外と難しいかもしれんな」


「精霊さんも何も感じないようですね」


「コロンも変な匂い分かんないよぉ」


「リリスも魔力の異常はないわ」


「んー、なんでよ!」


 思うように捜査が進まず、素人探偵のアリスが怒り出す。


「そうは言ってもなぁ。ああ、加害者である犯人が無理なら、被害者の痕跡(こんせき)を探すか? 被害者達の共通点とか、血の跡とか」


「そうですね、推理小説でもよくありますよ。そうして、真犯人を追い詰めるのです!」


 すっかり探偵気分を満喫している、ルリの体調も心配なさそうで安心していると。


「ん? HP減少でマーカー絞ったら、ヒットしたぞ。しかもかなり減少していて、……これ、死ぬんじゃないか?」


「それって、今ってこと?」


「ああ、過去に(さかのぼ)ることもできるようだが、これはたった今だな」


「えー、これから私の名探偵ぶりを見せようと思ったのに~。それで、どこよ?」


「こっちだ。ああ、ルリは危険があるかもしれないから、精霊達を戻して防御態勢を取っておいてくれ」


「はい、わかりました。ハクローくん」


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