24話 妹の思い
ジャンクフードをつまみながら、クラリス先生の料理教室でコロンとルリが作った昼食を取った後、ミラの私室にはどこからか持ち出してきたらしい黒板が立てられていた。
そして、なぜか嬉しそうに伊達メガネをかけたミラ先生による、よい子の魔法教室が開講されることとなった。
その格好はともかく、新任教師っぽいが分かりやすい授業は好評で、人一倍嬉しそうに初級魔法のなんたるかを熱心に聞いていたルリが、【付与】と【結界】のスキルを一気に習得するという驚きの結果となっていた。
どうも、ルリのファーストジョブ【幸運の■■】による条件付け解放だったみたいだ。
そう、今までがんがん多用していたせいか、いつの間にかLv3までレベルアップしていた【解析】で、実はこれまで読めなかった文字が少しだけ読めるようになっていたのだった。
「こ、幸運ですよ、クロセくん! 何か得した気分です!」
「ラッキー……でいいのよね?」
純粋によろこぶルリと半信半疑のアリスに、気持ちはどちらも分かる気がする。問題はやはり未だ文字化けして読めない後半の二文字か……早くもっとスキルレベルを上げるようにしないとな。
「まあ、少なくとも悪いことではなさそうだし、宝くじとか買うといいのかも?」
「「おおー! って、売ってないじゃん!」」
ミラ先生によると、一般的に魔術師は杖や指輪などの魔道具を媒介にすると、安定して魔法を行使できるようになるものらしい。
たしかに、アリスも神話級の【剣杖】を使っている……反則的にスキルレベルが高すぎて、持ってるだけのような気もするが。
逆にルリの場合はちょっとでもブーストできるなら助かるはずなので、病室に戻ったらどんな魔道具がいいか、ルリの意見も聞いてみることにするか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ルリは杖を持つほどの握力と腕力がまだ無いから、身に着けていられる――例えば腕輪とか首飾りの方がいいよな」
「そうですね、大きな杖はちょっと――あ、松葉杖なら便利かも」
「それは違うだろ? ちょっと待ってろ、試しに……」
俺は自分の指にはめていた翼を広げたデザインのシルバーリングを掌にのせて、【時空錬金】で錬成を始める。
ルリの指は細いから、男物では太いしサイズも大きすぎる。少し細くして二重巻にしてみてサイズを調整するか。
できあがった細身の翼を広げた二重巻になったシルバーの指輪を、ルリに見せて、
「手を出してみ」
黙って差し出されたルリの左手の薬指につけようとしたところで、
「……」
固まっていると、
ボカッ
「あいた!」
アリスに黙って殴り飛ばされた。
しかたがないので代わりに差し出された、ルリの右手の薬指につけてサイズを微調整する。
「きつくないか?」
「え? えへへ、うふふ、うふふふ~」
それでもルリは、右手の薬指の指輪を目の高さにかざして見ながら、残った左手で頬を押さえてくねくねと微笑む。
「それにしても、指がだいぶ前よりふっくらしてきたみたいだ。よかったな」
「はっ! む、胸がある?」
ばっ、と自分の胸に手を当てるルリ。
「なぜ、疑問?」
「くっ、負けた。いつのまに」
「アリスおねーちゃん、がんば」
ガックリと血の涙を流し床に手をつくアリスの背中をさすりながら、小さなコロンがよしよしと励ます。
確かにルリは薄手の白いロングカーディガンをいつも着て、一番上のボタンを留めている。これは胸の手術の抜糸痕を隠すためだが、言われてみればそこに隠されていた胸がだいぶ、ふっくらとしてきていた。
「クロセくん、明日朝一番で下着を買いに行きたいのですが!」
「りょ、了解しました」
「わーい」
そ、それでは気を取り直して、ルリの右手のシルバーリングに触れながら、これもLv3までレベルアップしている【時空錬金】でシルバーに魔力を大量に込めていく。
そうして魔力が通りやすいとミラ先生お勧めの、異世界ファンタジー金属の代表であるミスリルとやらに【解析】を使いながら【時空錬金】で『物質変換』させて錬成してみると。
おお、マジでできるじゃないか……って、あれ? スロットが三つ追加?
「アリス、指輪をミスリルに錬成したら、スロットが三つ追加されたみたいだ」
「ああ、それは【付与】する空スロットの数よ。三つもあるのね、【時空錬金】のレベルによるのかしら?」
「【付与】か、そういえばルリはこの指輪に【付与】はできるのか?」
「んんー、えい! わわっ、いっぱい付与一覧が出て来たよ」
「おおー、凄いな。アリス、何を【付与】したらいいんだ?」
「あれ? 普通はLv1の【付与】なら、そんなに選択肢は無いはずなんだけどなぁ。
そうね、三つなら、まずは【魔力制御】でしょ、つぎが【身体強化】、あとは【防御上昇】ってとこかしら」
「ルリできるか?」
「うん、ええい、とうっ! できたよ」
「おおー、ホントだ。【解析】で見ても、三つ【付与】されてる。
レベルはLv1か。ルリのスキルレベルに依存するのか? コロン、ちょっと」
「あい」
素直にちょこんとやってくるコロンのクロスチョーカーに触れて、同じように魔力を込めてシルバーからミスリルに錬成する。
「ルリ、コロンにも同じのもう一回だ」
「おねーちゃんにまかせて! えいやっ、ていっ、できた!」
「おおー、これは便利かも。そうだ、試しに使ってみるか。あっと、病室の外に出ないと、ここじゃ危ないか?」
ちょっと面白くなってきていると、横に座っていたアリスが唸り出す。
「うー、ううー、うーうー。私だけ……ない。私も、ほしいー!」
「え? あ」
答える間もなく、首にかけていたシルバーのドッグタグを取られた。アリスはそれを自分の首にかけると、
「えへへ~」
と、手にしたそれを見ながら、うれしそうに笑っている。はあ~、ほら見ろ。ルリとコロンまで、何だかうれしそうに微笑んでいるぞ。
「一緒です」
「いっしょ」
「しょうがないなぁ。ほら、こっち来てみ」
同じように胸のドッグタグに軽く触れて魔力を込めてミスリルに錬成すると、ルリに【付与】も追加してもらう。
「じゃ、外に出てちょっと試してみるか」
「あ、クロセくん、身体が軽いです!」
「ふわ、ハク様。ぴょんぴょんするでしゅ」
「自分の持ってるスキルに重ね掛けされるのね。足し算というよりは掛け算かしら。それだけでも凄いわよ、これ」
「ん? 何かヤバいか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぎゃ~、ストップ、ストップ!」
病室の外に出てアリスが【ファイヤーボール】を唱えると、いつもより勢いよく周囲に文字通り、ポンポンと飛び出してきた。
「これいいわね、魔力の通りが格段によくなってるわ」
「ほっ、やっ、とうっ、たやっ」
コロンは見よう見まねの【二刀流】の徒手空拳をさらに早いスピードで、ひゅんひゅんと振り回している。何か指先が早過ぎて見えないんだが。
「あー、ゆっくりなら歩けます!」
なんと、ルリもリハビリ用歩行訓練のための木製の手摺を掴んで、少しづつではあるが自力だけでゆっくりと前に進んでいる。
うーん、何だかプチチートがさらに加速した気がする。
「それじゃ、この勢いで明日はコロンも冒険者ギルドに登録よ!」
「おー」
まだ10才のコロンさんなんですが、拳を天に向けて突き上げ、やる気十分です。
なんでも【勇者】がいると、あとはお手伝いという扱いで、誰でも――例えば10才児でも冒険者登録がOKらしい。
まあ、【勇者】という存在がそれだけ、特例中の特例ということなんだろうけど。
「それでは、いよいよ最低基本構成人員の四人パーティーとなったので、パーティー名を考えることにします!」
アリスが当然とばかりに、薄い胸を張ってそう宣言する。そう言えば、冒険者ギルドにパーティー登録はしていなかったな。
「『アリスと愉快な仲間たち』でいいじゃん」
「バカちん。そんなの美しくないじゃない。この異世界にその伝説を残す、その名は実はすでに考えてある!
それは『ドラゴンハーツ』! どうよ?」
投げやりな俺の意見はほっといて、紅と蒼のオッドアイを輝かせたアリスさんがドヤ顔で言い放つ。
それって、『車椅子』じゃなかったですか? 複数形になってる? そうですか。
「でもさぁ、この異世界でもドラゴンなんて、まだ見たこともないじゃん」
「じ、じゃあ、みんなが身に付けている【ミスリル☆ハーツ】! ちょっと秘密の☆マーク付きです!」
「「おおー、ぱちぱちぱち」」
複数になった『心』は譲る気がないのね。で、突然追加された☆マークは何?
アリスって本当に中学三年生になったんだよな? あ、もしかして中二で登校拒否になって、そのまま引き篭もって進級できずに永遠の厨二病とか……う、怖い。
恐ろしくて、とてもじゃないが聞けない。
「ちょっと、あなた達! お兄様を返しなさい!」
なんて怖い想像をしていたら、後ろからドレスを着た金髪の少女に声をかけられた。
「誰だお前」
礼儀のなっていないガキには、相応の態度というものがある。いくら相手が貴族のご令嬢でも、こっちは平民のしかも異世界人ときたもんだ。
大人げないとは思うが、いい加減バカ貴族の相手も疲れて来たのが正直なところだった。
「わ、私はランベール副騎士団長の妹のステファニーよ。あなた達ね、お兄様に酷いことをした異世界人というのは」
「ん? あー、それをやった平河なら王城内の客室だと思うぞ」
素直に自己紹介した妹ちゃんは、人違いと知り、また悔しそうな顔をして拳を握り俯く。年はアリスより一つか二つ下だろうか。隣には老執事が付き添っている。
「う……くっ」
「平河くんに会ってどうするの?」
心配になったらしいルリが、少し優しい声で問いかける。
「やさしかったお兄様が怪我が治っても、お仕事にも行かず、ベッドに伏せったまま元気がないの。フィアンセのお姉様も、ちっともお見舞いに来てくれないし……」
「(あちゃー、スキルを失くして副騎士団長をクビになって、しかもフィアンセを賭けの賞品にして負けたんだから、むしろフィアンセの家から何か言われてないのか?)」
「(それがね、出世の道が無くなった元副騎士団長よりも、それに勝った【勇者】の方がたとえ平民でも、優良物件の嫁ぎ先と伯爵家は考えたみたいよ)」
「(えー、バカ平河はそんなこと考えてないと思うぞ)」
「(別に側室でもいいんでしょ。第三王女もいるみたいだから、正妻はそっちでいいんじゃない?)」
「(ふーん、そんなもんか。ホント、貴族って怖い、怖い……)」
アリスとひそひそ漫才をしていると、隣の騎士団訓練場が騒がしくなってきた。というか、その噂の平河衛士が大声で暴れているようだ。
丁度いい訳では無いが仕方がないので、妹ちゃんには教えてあげる。
「はぁ~、その平河が隣の騎士団訓練場にいるみたいだぞ」
「え?」
ばっ、と顔を上げた妹ちゃんは今にも駆け出して行きそうだ。って、この流れだと俺達もついて行くことになるんだろうなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おらおらおら~、そんなんで俺を倒せると思ってんのか?」
案の定、練習場では【勇者】平河衛士が騎士団員をボコボコにしていた。
さすがに騎士団員のスキルを【強奪】してはいないようだが、それ以前に平河は無数の下位スキルを雑多に持っている状態だった。
周囲を見回すと、生徒会長達三人組にいつものマリーアンヌ第二王女、フレデリック第一王子、女騎士のタチアナ副騎士団長に知らない貴族のお嬢様が二人見ている。
そして、平河衛士のそばには今回の原因だろう、【従属の首輪】を付けた奴隷にしか見えない女性が、十人もつっ立っていた。
しかも、その奴隷の女性達は全員があちこち傷だらけなのだった。
「あいつ、奴隷の女達を魔物狩りの囮や釣りに使ったな」
間違いない、平河のバカは買い集めた奴隷の女性達を連れて魔物狩りに行って、奴隷女達に魔物の釣り出しや囮をさせて、弱った魔物を相手に片っ端からスキル【強奪】を繰り返した結果が、今のこの惨状というわけだ。
「何か平河の周りって、ギスギスしてるわね」
「本当に、女の人達がみんな殺伐としていますね」
アリスとルリも、その異常な雰囲気を感じ取っているようだ。
「ひゃははは、どうだい俺のかわいい女達よ! 俺の強さがよく分かっただろ?
俺が最強の【勇者】、最強のチート持ちだ!」
いい気になった平河は騎士団員達を軒並みなぎ倒して、自分の奴隷女性達十人と二人の貴族令嬢達に向かって自慢気に叫ぶ。
あきれて見ていると、眉間に皺を寄せたアリスがそっと耳元で教えてくれる。
「(あそこにいるのが、ジョスリーヌ第三王女とランベール副騎士団長の元フィアンセの伯爵令嬢エルミールよ)」
奴隷女と貴族令嬢が同列に扱われているのか? 日本人らしく悪い意味で平等なのか、それとも少なくとも魔物狩りに連れて行かれないだけ、まだましなのか。
「ふんっ、ほら見なさい。この私のエイジ様こそが本物の【勇者】ですわ!」
「ジョスリーヌ、あなた……」
マリーアンヌ第二王女が、小柄なジョスリーヌ第三王女と思われる令嬢を厳しい表情で睨みつける。
「あはは、王国騎士団の貴族どもがいいザマよ! エイジ様こそが、全ての頂点に立つ唯一無二の【勇者】様なのよ!」
十人の傷だらけの奴隷女性の中で、一人だけが前に出て首の【従属の首輪】をガシャガシャ言わせながら、興奮して叫び回っている。テンションがやたらと高いんだが。
「あの奴隷女、一人だけ何であんなに攻撃的なんだ?」
「あれはサラと言って、借金で奴隷落ちした没落貴族の元令嬢です」
ふと横を見ると、いつの間にか近づいて来たマリーアンヌ第二王女が渋い顔をして、頼んでもいないのに説明を初めていた。
奴隷女性達は誰もが複雑な境遇なんだとは思うが、サラという元令嬢は特に騎士団――というか、その中の特に貴族に対して思うところがあるんだろうか。
同じく駆け寄って来たランベール副騎士団長の妹ちゃんが、お兄様の元フィアンセの伯爵令嬢エルミールに話しかける。
「お姉様!」
「ああ、かわいいステファニー。ごめんなさいね、こうなったのもランベール様のせいなのよ。私はもう……」
「そんな……」
おおぅ、あっちもこっちも救いが無いな。はああぁ~。仕方ない、妹ちゃんの方だけでもこっちでやるか……。
「模擬戦の結果は出ているんだ、逆恨みしてもしようがないぞ。
それより、お前のお兄様はスキルは失くしたが、基礎レベルは高いままあるんだし、身体は剣を覚えているんだから、もう一度スキルを覚え直せば」
「そんな! お兄様がそんなみっともない……真似を……するわけ……」
怒りにまかせて言葉を遮って来るが、だんだんとその声は悲しいぐらいに萎んでいってしまう。
「見栄だけで残りの人生投げ出すんなら、それだけの男ってことになるぞ。家族は何て言ってるんだ?」
「腹違いの次男のお兄様がいるので」
「ま、そんなもんか」
「ランベール副騎士団長って、見たままに人望ないわよね」
「廃嫡されないなら、ゆっくり余生を送れば?」
「そうですね」
「そんな、酷い!」
大好きなお兄様を俺達に寄って集ってバカにされていると分かったのか、妹ちゃんが拳を握りしめて叫ぶ。
「妹ちゃんが見ていたお兄様と、周りの人達が見ていたお兄様は違うということだ」
「周りで見ていた人達の中には、お兄様を助けてくれる人は一人もいないかもしれませんが、あなたが見ていたお兄様を助けられるのは、あなた自身以外にはいないのではないですか?」
一緒になって憎まれ役を手伝ってくれるルリが、妹ちゃんに諭すように問いただす。
「う……、でも私にできることなど」
悔しそうに俯きながら、口をへの字に曲げて妹ちゃんはつぶやく。
「部屋から出てこないお兄様を、気分転換にお庭やお外へお散歩に連れ出すのには『車椅子』が便利ですよ。
あなたが後ろでお兄様の座る『車椅子』を押してあげると、優しいお兄様なら喜ばれるのではないですか?
これは王都の城下街の鍛冶屋に行けば作ってくれますよ」
「そ、そんなことわかっているわよ!」
自分の座る『車椅子』を指差すルリの言葉に、妹ちゃんはセリフを言い捨てるように走って逃げてしまった。その後を付き従っていた老執事が、ぺこりとお辞儀をして足早に追って行く。
城下街の大通りでは、鍛冶屋の肝っ玉ドワーフ母さんが旦那さんの『車椅子』を押して、いつも二人で仲良く散歩して歩いているから、街で聞けばすぐに分かるだろう。
珍しいことに、おとなしく見てるだけだった生徒会長達も、現状では実力的にかなわないことを実感したのか、それとも諦めてしまったのか、今回は無謀な正義感を振りかざすことはせずに、あっさりと帰って行った。
最近はせっかくのイケメン生徒会長の、カッコいい見せ場がめっきり少なくなったなあ。自ら手を上げた異世界召喚劇場の主人公役は、キチンと演じてくれないと皺寄せがこっちに来そうで嫌なんだが。
と、気分が良さそうな平河がこっちに気がついたようだ。刃引きの剣を片手にプラプラさせながら、こっちに近づいて来る。
「なんだ、クロセ! お前はよりにもよってチッパイばっかり三人も集めて、ぎゃ――――っ!」
あ~、バカ平河の髪が派手に燃えてる。アリスさん、魔法発動の魔力制御スピードがほとんど即動になって来ていますね。
ああ、俺から取り上げたドッグタグの【付与】効果のせいですか、そうですか。
だだ、平河衛士の周辺の人間関係は、いよいよマズイかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
日もとっぷりと暮れた病室。
涼しくなった夜風の入ってくる窓のそばに座り、自分のウォレットチェーンも魔力を込めてシルバーからミスリルに錬成して、思い付きで前に鍛冶屋で買っておいてクナイを付けてみると、
「お、動く」
うまいこと魔力が通せるようで、ウォレットチェーンの先端に付けたクナイを遠隔操作できるようになっていた。
「これおもしろいな、色々できるかも……ん? お風呂が騒がしいな」
どうも黄色いアヒルたいちょを持ったコロンと一緒に、大きくなった湯船につかっていたルリが、
「明日のために、その一です。アリスちゃんに教えてもらったんですよ」
と、自分の胸をちゃぷちゃぷと揉み続けていたら、のぼせてしまったらしい。
「わわ、ルリおねーちゃんが大変でしゅ!」
「ほらしっかりしなさい、ルリ。ぐっ……あんた、もう私より十分大きいじゃん」
そうつぶやくアリスに、お風呂からバスタオル巻きで担ぎ出されて、「ふにゃ~」と目を回している、残念おねーちゃん。
ん? 獣人族のコロンにはどうも、ルリの周りに何か見えるようで、時々視線を空中に泳がせているみたいなんだが。
しかし何だか、今日は無駄に疲れた気がするので、お風呂上がりのコロンの癒しの、もふもふブラッシングタイムを始めるとするか。
いそいそと、白い丸テーブルの上に各種ブラシセットを並べ始める。
「ぴこーん! ハク様~、もふもふでしゅか? わーい」
「ああ、クロセくん。私も……もふもふがしたいです~」
白銀のしっぽを、ふりふりさせて白い椅子に、ぴょこんと座るコロンに、残念ルリさんが倒れ伏したベッドから何とか手を伸ばそうとする。
しかし、そのようやく上げられた手をブラシを持ったアリスが、ペチンと叩いて落とす。
「ルリ、あんたは少し休んでなさい。私がちゃんと、もふもふしとくから」
「ええ~、アリスちゃんずるいですぅ。ぱたり……ふにゃあ~」




