7 歓迎と巡回と
俺たちは元祖秋葉原に出てきた。
歩行者天国となっているメインストリートで色々な服装のオタクたちがごった返している。
凛音はまだ秋葉原に慣れていないというので案内も兼ねての入部祝いだが。
「さてっ!! どっから回りましょうかねっ、ましゃごん!!」
「今日は特に何かイベント事をやっているわけでもなさそうです。姫様のお好きなように回るのがよろしいかと」
「よし、じゃあ行くのですよー!!」
コイツが遊びに来たかっただけだと思う。
「姉さんが楽しそう」
「ここはアイツのホームグラウンドも同然の場所だからな。何かのエネルギーでも湧き出してるのかもな」
俺と凛音は、秋葉原の街を張り切って歩き出す鈴音たちの後をついていく。
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いつも通りといえばいつも通り。
俺たちは鈴音が買いたいものがあるというので同人ショップへきていた。
「ここはどうじんしのみせです」
「そうだな」
「ここはどうじんしのみせです」
「…………」
まるでRPGの村人のように決められた台詞をカタコトで話す鈴音。
これはどうしてほしいというのか。
しばしRPGの作法を振り返り、その上で受け答えを考える。
これは……鈴音の代わりに同人誌を探せということなのだろうか。
「……この店に在るという貴重な同人誌を探しに来たのだが」
「それならばきっとあのさきのこーなーに、てがかりがあることデショウ」
鈴音が指した先は……女性向け同人誌のコーナーだった。
「それをさがし、てにいれ、こうにゅうしたときこそ、そなたはしんのゆうしゃになるのです」
「それは別の意味で勇者になれるな」
なりたくねぇ……。
「あそこは何? 女性向け……?」
「いえ、お嬢様が気になさるようなものはありません」
「そう? まぁいいけれど。この店は何を売っているところ? ぱっと見たところでは書店のようだけれど……」
「ん。凛ちゃん正解。その認識で大体あってるのですよ」
村人の反応をやめた鈴音が答える。
「ただ、ここはオタクな書籍の割合が普通の書店よりかなり高いという店ですけど」
「じゃあ、この街の人たちは本を購入するときはここに来てるのね」
「俺も時々利用させてもらってる」
「本以外にも色々あるのですけどね」
「というわけで葦人君。一般の書籍にない特殊な本を買ってきてほしいなー?」
「それは断る」
たとえ、普通の書籍だとしてもそんなパシリのようなことは断る。
「姫様が買いたいものなのですから。ここは姫様自身が行かれるのが正しいですよ」
「ちぇー。葦人君が勇者になるところ見たかったのに」
鈴音はそんなことを愚痴りながら、目的のものを購入しに行った。
「勇者……?」
「それは気にしなくていい」
「そう? なんだか色々とはぐらかされてる気がして余計気になるのだけど」
鈴音の妹の割りには来栖川凛音はオタク趣味にさほど精通していないようだ。
特にあのコーナーのことはそのまま何も知らない君でいてくれ。
「なんとなくだけれど、この会話……理解すれば、桜井君をいじれそうな気がする……」
なんという直感力。
この直感は刑事として優秀なのかもしれないが、俺にとっては不都合極まりなかった。
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目の前にメイド喫茶がある。
「ここはまだ早いのです」
「そうね。休憩するのはもうちょっと後にしましょう」
流行っているメイド喫茶だけあって結構客も入っているようだし、たしかに落ち着くならもう少し後でもいいか。
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「何故ここに戻ってきたのか」
「んー。何故でしょうか?」
何故か俺たちは再び学校の部室に戻ってきていた。
「さっきはこの部室のことはあんまり話さなかったですし、ちょうどいいのでこの部室にある備品のいくつかを説明しましょうかね」
そういって大型ディスプレイの下に保管されてある、ゲーム機器を取り出してくる鈴音。
「これはギガドライブ。人類の叡智の結晶です」
「…………?」
「…………?」
俺と凛音は不思議顔。
「ほむ、どうやら知らないようですねー」
「これは遥か昔にあったサガの作ったゲーム機器。当時このハードがあれば有名な格闘ゲームができるということで話題になったのです」
「これは当時の少年にとっては憧れのハードといっても過言ではありませんでした」
時々思うが鈴音は年齢がズレているんじゃないだろうか。
「それ……動くのか?」
「ふっふっふ。AAAを舐めてもらっては困りますのです。動くどころか現役で遊んでるのですよ!」
「ほう……。ならば格闘ゲーム好きとしては――」
やりたいなと思ったが、この場合、相手をするのは鈴音ということを思い出す。
……ボコボコにされる図が見えた。
「そうですね! いつか一緒にやりましょう!」
「そ、そうだな……いつかあると……いいな。
できればなくてもいいかもしれない。
「それはそれとして。この部室の自販機が異様な存在感を出してるが。使えるのか?」
「ええ、使えます。秋葉原といえば自販機のおでん缶です」
「お腹が減ったときとか重宝しますよ!」
「噂には聞いていたけれど……これが秋葉原のおでん缶なのね」
部室……割と住めそうだな。
金がないときとか……ここを使おうかな。
「あ、葦人君。お金がないときとかここに住めるとか思っちゃ駄目なのですよ?」
「おもってないよ」
「そうですか? なんかナチュラルにホームレス思考しそうなのですけど」
「そんなことないよ」
「ならいいのですけど。あとは……部室には机のかわりに雀卓がありますので。みんなで麻雀することもできるのですよ」
「……麻雀か」
ちらっとかじったことがあるくらいでよく把握はしていないが、いつかきちんとやってみたいとも思っている。
「私はやったことないわ。日本の警察の刑事は麻雀好きが多いのだけれど……。何故かしらね? そんなに面白いのかしら」
「刑事といえば、あんぱんと牛乳と煙草と麻雀ですからねー」
「様式美というものですね」
それはたぶん偏見だと思う。
他にもいくつか見せられたが、知っているものも少なかった。
問題はこれが氷山の一角であり、鈴音の集めてきたコレクションとでもいうべきものが他にも大量にあるということだ。
とりあえず、部室がカオスなのはこれ以上ないほど理解した。
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「カードがたくさん置いてあるところね。これは、何のカード?」
店内には所狭しと色々なカードが展示されていた。
知らないゲームのカードは見てもルールなどはわからないが、値札表示をみればある程度そのゲームの傾向というか人気カードがわかる。
だいたい女の子のカードが高いわけだが。
中には女の子しか出てこないカードゲームなどもあるわけで、その場合純粋に強かったりイラストレーターが人気だったりする。
「それはアポカリプス#0のカードですね。ここはA0のカードや他にも様々なカードゲームのカードを扱っている店ですね」
「とはいってもほとんどA0特化のカードショップですけど」
「ここにくればウルトラレアはなくともかなりの種類のカードがあるので、A0プレイヤーは重宝するのですよ」
「なるほど」
A0プレイヤーだけでなくA能力者もA能力に使えるカードを探しに来ていたりしそうだ。
「ちょっとカードを見ていきましょう」
ガラスケースに入れられてあるカードは俺の見たこともないようなカードたちだ。
「んー……やっぱりキラークイーンのカードはないですねー」
「あれは人気カードですからね。なかなか流通もしないのでしょう」
「ふうん……。価値のあるものや使えるものが他のものよりも高く設定されて、時期や流通によって価格の変動が起こる……まるで株みたいね」
「確かにアップデートなんかで使えるものが使えなく修正されたりして価格が低下するあたりは株の暴落みたいだな」
株式でいうならその会社の製品に欠陥があることがわかり株価が落ちるような。
「そうなるとブラックマンデーあたりはゲームのサービス終了かしら」
「ブラックマンデーというほど酷くはならないだろうけどな」
各々のゲームでカードの価値は独立しているため、他のカードゲームのカードにまで影響がでることはおそらくないだろう。
あるとしたら……カードゲームという媒体そのものが使えなくなる状況、ゲームに規制が入るような状況になればあるいは起こりえるかもしれない。
株とカードゲームのトレード市場は当たり前だが全く別物なのでたとえるのも限界がある。
しかしこういう会話がさらっと出てくるあたり凛音はオタクではないということなのだろう。って十代の女子高生がする会話としてそれもおかしい。
株の話をするあたりは大企業のお嬢様ということなのかね。
しばらくA0のカードをみたり掘り出し物がないか探したりし、一段落したところで店を後にする。
鈴音あたりは色々買っていた。
俺だって何か買いたかったが、レアリティが高いものは当たり前のように高く、ひと月の生活費よりも高い値段設定をみたときは素直に諦めた。
いつか手に入れたいものだ。
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秋葉原でゲームセンターといえばこのAKBステーションだ。
ここにはジャンルを問わず色々なゲームが置いてあり、特にアポカリプス#0には力を入れてありほとんど待つこともなくプレイすることができる。
「ここに来たからには何かゲームで遊ぶんだろ?」
「もちろんです。今日はガンシューティングで遊びましょう!」
「ふむ……ガンシューか。コレなら俺もやったことあるが」
最近のガンシューティングは仮想現実で実際に撃ちあいをするような仕様のものが多い。
アポカリプス#0ほどのリアルさはないが、それでも昔にあったというガンシューティングに比べて格段にリアルなものになった。
ここにおいてあるガンシューは複数対戦が可能なもので、俺も結構遊んだことがある。
反応速度と身体能力も必要になってくる仮想現実系のゲームは俺も得意とするところ。
コレならばゲーム全般が得意な鈴音ともある程度は張り合えるだろう。
「姉さん、このゲームは?」
「これはガンシューティングゲームなのです。この筐体に入って実際に銃を撃ち合ったりするゲームなのです」
「葦人君もやったことあるらしいですし、これなら最初から力の差もなくみんなで遊べるはずです」
「私は初めてなのだけれど……」
「このゲームはかなりリアルに設定されてますので凛ちゃんなら大丈夫ですよ」
「現役警察官か……」
凛音は射撃は得意なのだろうか。
「とは言っても凛ちゃんは一応初めてですし、タッグ戦でいきましょう」
「異論はない」
「問題はチーム分けですね」
「桜井様はそこそこ得意そうですので……、妥当なところですと私と桜井様、姫様とお嬢様あたりで組むのがパワーバランスがいいかもしれませんね」
初めてやるという凛音と組ませてパワーバランスが取れるということは……、鈴音はかなりやりこんでいるようだ。
「それでいきましょう! 葦人君もそれでいいです?」
「ああ、俺は構わない」
「よくわからないけれど……、とりあえずお手柔らかに、桜井君」
「ああ、任せろ」
全力で相手しよう。
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「詐欺だ」
「何かしら? 何か文句でもありそうだけれど」
「なんでそこまでうまいんだ……」
凛音は本当に初めてなのかと疑うくらいに的確だった。
鈴音などは最初から言わずもがなだったが、凛音がここまで動けるとは……。
「さすがは凛ちゃんです。リアルで射撃が得意なのは知っていましたけど、ゲームでもいけましたねー」
「お嬢様は昔から射的やダーツなどが得意でしたからね。とはいえここまで順応が早いとは思いませんでした」
知っていたのかお前ら……。
「このゲームは結構リアルね。銃の質感といい重量といい弾丸の射速といい、かなりそっくりで馴染むのに時間はかからなかったわ」
空気抵抗の計算もあるみたいだし、その辺こだわっていると聞いたことがある。
「普通のゲームのようにボタンを押したりする必要もなくて、ほとんど現実の身体を動かす感覚で遊べたしね。私がすぐに動けるようになったのはそのお陰もあるわね。でも桜井君が銃の射線を読んで銃撃を避けたときはびっくりしたわ」
「葦人君も結構やりこんでたのですねー」
「ああ、まぁな」
真砂は防衛能力に特化している。
地形や壁を使った防衛戦ならそつなく安定した戦いができる。
ただ相手を倒すことで決着がつくため、どちらかは前に出て相手チームを減らさなければならない。
ならば俺が攻撃を行うしかないと強行突破するためにああいった行動をしたのだが……。
凛音はゲームの経験が圧倒的に不足しているであろうということを予想し、リアルでは有り得ない行動で虚を突こうとしたのだが、そこはさすがというべきかそれも読んでいた鈴音に対応されてしまった。
凛音はその射撃能力の高さから超攻撃型で、鈴音は射撃も防衛も地形把握能力も高いバランスプレイヤーだ。
総合力で劣る俺たちに勝ち目はなかった。
「手加減してくれてありがとうね」
「……………………いや、何。気にしなくていい」
負けたのは悔しいが、それは相手の戦力を読み違えた俺の思慮の浅さのせいでもある。
今度はもう少しうまくできるだろう。
しかし、一口にガンシューティングとはいってもそれぞれの特徴がでるもんだな。
真砂は防衛能力に特化しているし、凛音は攻撃能力が高く、鈴音はほとんどの能力が高いバランスプレイヤーだ。
俺はどちらかというとバランスタイプか。
劣化鈴音というか……。
あえて言うなら瞬間的に防御型にも攻撃型にも転じることのできるスイッチプレイヤータイプといっておこう。
そのほかにも様々なゲームをやったが、結構、それぞれの特徴がやっぱり出てきて面白いもんだと思った。




