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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第2話 『アドベントソウル』
15/27

5 猫と髑髏と


「で、なんでついてきてるんだ?」


学院の廊下を歩きながら、後ろにいる凛音に問いかける。


「貴方、姉さんの所に行くんじゃないの?」


「違う。そもそも俺は鈴音の居場所は知らない」


「使えないわ」


「使われたくないな」


「帰巣本能を発揮しなさいな」


「そんなものはない」


 未だに彼女の中では俺は鈴音の犬なのか……。


「じゃあ、どこへ行こうというの?」


「少々生徒会に用がある」


「なるほど。私も行くわ。姉さんの所在を知りたいし」


 所属している部活でも調べるつもりなのだろう。

 俺たちは生徒会室にやってきた。


「失礼します」


 ガラガラと扉を開けて生徒会室へ入る。





「不真面目、不真面目、超不真面目よっ!! そんなの認められるわけがないでしょッ!!」


「いや、しかし彼らのいうロマンは私としてもわからない訳でも……」


「一般常識で考えなさいよッ!! 大体、こんなのを認めたら風紀は乱れる一方よっ!?」


「まぁ、確かにねぇ」


「この学院はただでさえ欲望に忠実なバカ犬で溢れかえってるんだから、盛りのついた犬どもの中にわざわざ餌をやるようなものなのっ!!」


 物凄い剣幕で議論を交わしている役員の姿が。


「おお……」


「凄いわね」


 確かに、これは凄い。

 生徒会の仕事は初めて見るが、ここまで激しいものだとは。


「桜井先輩」


 激しい議論を交わしている役員の隣で所在なげにしていた人物がこちらにやってくる。

長いツインテールが特徴的な中等部生の小さい女の子だ。かわいい。


「ああ、愛姫か。そういや愛姫は風紀委員だったか」


 彼女は愛姫みかん(えひめみかん)と言い、俺が転校してきたときに学校案内をしてくれた風紀委員を務める中等部生だ。

 中等部生がなぜ高等部の転校生を案内するのかというと、うちの学院の生徒会は中等部と高等部が合同でやっていてそのうちの風紀委員が案内を務めるようになっているからという。


「桜井君、この子は? 刀持ってる危ない子?」


「失礼なことを言うな」


 幸いにも危ない子?という部分は愛姫には聞こえなかったようだ。


 現在の秋葉原区では銃刀法というものに対して制限が緩くなっている。

 認可がある上で、護身の範囲であれば銃も刀も所持して構わない。


 もちろんそれを使用して犯罪を起こした場合、区外より厳重な処罰がある。


 それゆえか、そういったものを持ち歩く者はさほどいない。周りの目というものもあるし、認可の手続きがかなり面倒でやっていられないという話だ。


 それを律儀に認可の手続きをして持ち歩いているあたり、愛姫の几帳面な性格が出ているのかもしれない。

実家が剣術道場をしているという話をどこかでチラッと聞いた覚えもあるのでそのへんの関係か。

危険人物かどうかは置いておいて。


「はじめまして、私はこの学院の風紀委員を務めている愛姫みかんと言います。私の名前に関してですが、愛姫と愛媛をくれぐれもお間違えなきようお願いします」


 やはり愛媛と間違えられることが多いのだろうか。


「ええ、わかったわ。私は来栖川鈴音の妹で来栖川凛音よ。よろしく」


「はい、よろしくおねがいします、来栖川先輩」


 礼儀正しくお辞儀をする愛姫。


「先輩方はどうしてこちらに?」


 こちらの用向きを伺ってくる。


「AAA部という部活があるはずなんだが、それがどこにあるのか知りたい」


「私は姉さんが所属している部活動を知りたいわ」


「そうでしたか。AAA部の部室は旧校舎の部活棟にあったとは思うのですが……。確実とはいえませんので、会長室で会長に聞いていただけると助かります。それに鈴音先輩もAAAに所属していたはずです」


 さらりと答えてくる愛姫。

 俺のときも学院の施設をかなり把握してて凄いなと思ったものだ。


「そうか、ありがとう」


 AAA部に鈴音が所属しているとは。

 ……よくわからん存在という意味では、ある意味イメージどおり。


「だからっ!! そんな甘さがヤツらをつけあがらせるのよっ!!」


 議論が白熱しているのか役員の1人が声を張り上げている。


「しかし、凄いな。何を議論してるんだ?」


「えーと……、スク水とブルマの遺産的価値とそれに付随する現代での役割……といったところでしょうか」


「要はスク水とブルマを復活してくれって嘆願書についてか?」


「ええ、はい」


 それはあの女生徒が声を大にして議論するわけだ。


「スク水とブルマ……?」


そもそもその存在を知らないのだろう来栖川凛音が疑問を投げてきた。


「ああ、それは簡単に言えば、はるか昔にあったとても機能的な運動着のことだ」


「機能的なら採用してもいいんじゃないかしら?」


「問題があるとすればそれが多分に性的な意味を持つ衣服だということでして……その……」


若干恥ずかしそうに話す愛姫。


「それを着ることで男に変な目で見られるわけだ。今でも変態的な嗜好として有名な属性ではある」


「却下ね。姉さんにそんな服を着させるなんて私が許すわけないわ」


 その姉は復活希望者だったりする。


「それは生徒会の人たちが決めることではないか? あの中等部の子が凄い声で議論してるし、却下だろうけど」


「ウチの委員長がうるさくてすみません」


「風紀委員長か……」


 なるほどそれらしい。

 と……その風紀委員長がこちらに気がつきギッと見てくる。


「桜井葦人ッ!! アンタみたいな欲望に忠実な不真面目なのがいるから超問題なのよッ!!」


「なぜ俺の名前を知っている?」


「この私、華京院上下覇かきょういんあげはは風紀を乱しそうな不真面目な人物と真面目な生徒は全て記憶しているのよッ!!」


「……真面目に生きててよかった。まさかここまで真面目さで有名になれるとはな」


「貴方わかってて言ってるでしょう?」


 当然、第一声がアレな時点で気がついている。


「アンタがスク水とブルマ好きなのは解ってるのよ!!」


 それは冤罪だ。


「……………………(すすっ)」


「なぜ離れていくっ!?」


 来栖川凛音さんが足音も立てずに綺麗に動いておられた。


「いや、まさか桜井君がそこまでのアレでソレとは思ってなかったわ。貴女もこっちに来なさい」


「え……、あれ……?」


 来栖川凛音さんが愛姫を連れて離れていく。

 気がついたら俺の周りには誰もいなくなっているわけで。


「ふふんっ。所詮アナタの如き欲望まっしぐらな人種には人望も付いてこないのよ」


 風紀委員長が小馬鹿にするように言う。


「なんで俺はこんなに責められているんだ。そもそも何故俺は初対面なのにそんな印象なんだ」


「わかってるのよ!! アナタがウチのみかんを狙って誑かしていることぐらい!! そんなことをさせるわけにはいかないわ!!」


「別に狙ってないし、誑かしてもいない。愛姫からもなにかいってやってくれ」


「委員長、落ち着いてください。別に私は誑かされていませんよ」


「こう言っているが?」


「うるさい、うるさい、超うるさいっ!! それはアンタが騙してるからよ!!」


 ダメだ。このタイプとはお話にならない。

 エクスクラメーションマークつけないと話せないのだろう。


「見なさい!! アナタのクラスからの嘆願書よ!! どうせこれもアナタが主導で行ったことでしょう?」


「違うな」


「また、そんな嘘を……!! 来栖川先輩からも何か言ってやってください!」


 凛音にはそういう対応するのか。

 華京院上下覇とやらは人を差別しすぎではないですか?


「桜井君……今ならそんなに重たい罪にはならないはずよ。……わかるわね?」


「冤罪だ」


「しかたないわね。日本式にならってカツ丼もつけるわ」


「いつの日本だ」


「おかしいわ……これで大体の犯人は自分の罪を認めると聞いたのに……」


 誰だ、そんな偏った知識を教えたのは。


「ちなみにそれ、後でカツ丼代の請求が来るらしいぞ」


「えげつないわね、日本の警察……。私ちょっと驚愕してるわ」


 どうでもいい方向に話をズラしてみると凛音も乗ってきてくれた。

 多分凛音も真面目に話すつもりがないのだろう。


「現職警察官の説得にも応じないなんて……、どれだけ罪を重ねれば気が済むの!?」


 それを見ていた華京院がやはり声を荒げる。


「完全に犯罪者扱いか」


「これだから…………、オタクって呼ばれる人たちは……。アンタたちはいつも否定から入るのよ。ほとんど病気ね」


「否定から入らざるを得ない状況を用意しておいて何を言うか。いや、もういい加減めんどくさいのでそろそろ退室していいか?」


「そうね。私もそろそろ姉さんのところに行かなきゃならないし」


「めんどくさい!? めんどくさいって何よ!!」


 そういうところが面倒なんだけど……。


「その申請は否決して構わないってことだよ。じゃあな、愛姫。面倒かけて悪かった」


「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」


 愛姫に気にするなと手を振り、生徒会室から退室する。


「ちょ……、待ちなさい、桜井葦人っ!! まだ話は終わってないわよッ!!」


 風紀委員長が何か言ってる気がしたが、聞こえないことにした。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 生徒会長室の前でドアをたたく。


「入りたまえにゃん」


 にゃん?


「ようこそ我が城へ」


 生徒会長室は秋葉原学院というはっちゃけた学院らしからぬシックにまとまった綺麗な部屋だった。

 マホガニーかなんかの高級そうなデスクがででんと鎮座する以外はあまりモノが置かれていない。


 問題は俺たちを出迎えた人物だ。


 でかい猫のぬいぐるみがそこにいる。

 見た目のインパクトがすごいな。

 しかし、なんでこんなところにぬいぐるみが。


 うちの学院は確か許可を貰えば私服で登校も可能だったか、などと学院手帳に書かれていたことを思い出す。


 さらっと流し読みした程度なので詳しいことは知らないが、そういった許可でも貰ったのかもしれない。許可を貰ったとしてもぬいぐるみである理由は思いつかないが。


「生徒会長はいますかね?」


 生徒会長室にはぬいぐるみが1人…………1匹?しかいない。


 この学院の性質と秋葉原という街の特殊性を考え、このぬいぐるみが生徒会長なのだろうとは思ったが、できれば生徒会長であって欲しくなかったのでぬいぐるみに問いかけた。


「にゃん、にゃーご」


 ぬいぐるみが胸を張り、意外に長い手……いや前足か、を前に突き出す。


 あ、肉球。


「悪いが猫語は理解できないので、できれば人語で会話を頼みたい」


 肉球をぷにぷにとつつきながら言う。


「桜井君は人にものを頼む態度じゃないと思うわ」


「まさか初対面でこんなに我輩の肉球を気安く触ってくるとは思わなかったよ」


 『我輩』…………思わぬところで思わぬ一人称を聞いた。

 まさかそんな一人称を他にも使っているヤツがいるとは。


 まるで咎識と話しているようで、少し、動揺した。


「すまなかった。 素晴らしい肉球だったので思わず触ってしまった」


「嫌……というわけではないのだがね。ふつうのにゃんこに対してそんなに気安く肉球を触っては嫌われてしまうよ?」


「それは気をつけよう」


 猫は構いすぎると嫌うというし。


「肉球に触られることに抵抗がないなら、私も触っていいかしら?」


 お……おお? 凛音は猫派なのか?


「君が興味を持つとは思わなかったよ。でもだめにゃん。我輩の肉球をそうそう気安く触れるものと思ってもらっては困るのでね」


「そう……残念だけど仕方ないわね。誰だって気安く肌に触れて欲しくはないものね」


「いや……肌とはいえないだろう。ぬいぐるみに触ることなんて遊園地の子供がウザいくらいやってるだろう」


ほんとうに大変だと思う。きぐるみバイト。


「わかってないわね。桜井君ならわかるはずよ。この人がぬいぐるみとして振舞っているのではなく、このぬいぐるみのキャラとして成りきっていることが」


 …………? いや、まぁそうかもしれないけどな。


「我輩はネコドクロにゃん。成りきるとか成りきらないとかじゃないにゃん。我輩は我輩でネコドクロ以外の何猫でもないにゃん」


「そうね。ごめんなさい。この人……いいえ猫さんは猫さんなのよ」


「そうだな。俺が間違っていたようだ」


 なんか凛音の発言がまるで鈴音の発言のような感じだ。

 イメージにそぐわない発言のような気がするが、ここで反論したり、気にしていては話が前に進まないのでとりあえず素直に頷く。


「というわけで桜井君は痴漢行為に等しいことをしたのよ。桜井君は最低だわ」


「何故だ……っ」


 意味が……わからない……っ!

 あ、いや…………そうかっ。


「気がついたみたいね。桜井君は彼女の身体の中でも特に柔らかな部分を無遠慮につつき回して、撫で回した挙句、悪びれもしていないのよ」


「辱められたにゃん」


「いや、あんたもそこで乗ってこないでくれ」


 そもそも実際は肌に触れているわけでもないのに。

 声は中性的なものであり、性別的に女性かどうかも確定していない。


 いや、男でも男に肌を触られたくはないけど。


「いや、もうほんとすいませんでした。次からは許可をとるようにしますのでここは容赦願いたい」


「しかたないね。我輩は鬼ではなく猫だからね。そこまでいうなら許すにゃん」


「被害者がそういうのなら私としてもこれ以上追求はできないわね」


「…………」


 俺は迂闊に猫の肉球も触れないのか。


「それにしても、来栖川凛音は意外と猫のキモチがわかるのだね」


「貴方からそういわれるのは光栄だわ。警察のほうから話は来ていると思うけれど、私は来栖川凛音。初めまして生徒会長さん」


「そうだね。初めまして……ということになるのだろうね。こちらこそよろしくにゃん」


 脱力している俺の前で、お互いを認め合ったかのように握手を交わす生徒会長と凛音。


 警察からの話……っていうと護衛のやつか。やはりこのぬいぐるみが生徒会長なんだな。


 厄介な人物が生徒会長になったもんだ。話を聞くだけでも一苦労。


「とても良い肉球をお持ちで」


 握手が終わった凛音が手を見ながらそう言った。

 ……俺を出汁にしたか。


「……なるほど、これは1本とられたにゃん」


 凛音も回りくどいことを。


 普通に頼んでは触らせてもらえないと思った凛音がとった行動は、


 俺を悪者に仕立て上げることで猫のキモチがわかるということをアピールし、肉球の話から意識をそらせた上で、初対面だということを逆手に取り、握手という形で肉球いじりをしたわけだ。


「そんなに触りたかったのか」


「桜井君が触らせてもらったのに、私が触れないとか納得できないでしょう?」


 他人のものが羨ましく見えるという心理のようだが、凛音は勝ち誇ったようにそういった。

 そんなことで勝ち誇られても……。





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