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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第2話 『アドベントソウル』
14/27

4 毒舌とシスコンと

 来栖川凛音は帰国子女である。


 幼少時にアメリカへ移住し、そこで飛び級に飛び級を重ね世界的に有名な某大学を若干15歳で卒業。

 その後、帰国し国家公務員一種試験に合格、警察庁に採用。


 本人の希望もあり、世界でも特殊犯罪のケースが飛びぬけて多い秋葉原区の万世署刑事13課課長代理を拝任している。

 漫画かアニメに登場してもおかしくない、絵に描いたような才色兼備なお嬢さんである。


 しかし、そのような経歴、見てくれなどは漫画コミックスの帯に書かれているが如き情報で、彼女の本質を知るのに一役も二役も買っている……わけがなく、一役も二役も役者が不足している。


 彼女の一端が知りたければ、1行で済む。



 来栖川鈴音の妹。



 彼女の本質を一端とはいえ、接続詞を除いた2単語で済ませてしまうのもどうかとは思うが、彼女自身そのことに存在の比重を偏らせているように感じるのだ。


 要するにシスコンなのではないだろうか?


 というのが、俺が来栖川凛音に対して抱いた印象だ。

 言っておくと、俺はコイツに対してあまりいい印象を抱いていない。


 最初のコンタクトが俺にとって非常に侵害な結果に終わったからだ。

 侵害は誤字ではない。


「では、私の席は姉さんの隣と言うことでいいですか?」


「え、そこは桜井君が座ってますので、別の席を――」


 教師を差し置いて自分の席をさっさと決めようとする凛音。

 教師の言葉を無視する形でカッカッカッと俺の前まで来ると、一言。


「席を譲ってもらえるかしら、姉さんの犬?」


 とても毒舌です。


「誰が誰の犬だ。いきなり人の人権全力で踏みにじるな」


「私は姉さんに近づく男は全員、産業廃棄物の如きものだと思っているわ。その中で、犬という称号が得られたことは誇りに思うべきことよ?」


「普通に考えて思えるわけないよな?」


「強欲ね……、まさかこんな犬だとは思っても見なかったわ」


 なにか信じられないことを聞いたような表情をする凛音。


「完全に喧嘩を売っている……」


「まぁまぁ、葦人君。葦人君は私の従僕みたいなものなのですから、あながち間違ってないのです」


「全力で否定させてもらうっ!!」


 姉妹そろって、おかしい。


「あ、姉さん。これからよろしくお願いします」


「うん。凛ちゃん、よろしくです」


 俺を無視して姉妹で挨拶を交わす。


「ほら、その席をさっさと明け渡しなさい」


「俺の意思は無視なのかっ!?」


「良く吠える犬ね……。気がついていないのかもしれないけれど、自分の格を自分で下げているのよ、貴方。弱い犬ほど良く吠えるというでしょう?」


 ぐっ。なんだこれ。反論したら俺がまるで弱い犬みたいではないか……。


「…………」


「ちなみに沈黙は無条件降伏と見做すわよ」


「どうしろというのか」


 黙すれば相手の言い分を飲んだことにされ、反すれば人格が貶められる……理不尽すぎる。


「俺の格はこれくらいで下がるものではないと信じてる」


 ホントに下がりませんように。


「というか、さっき俺の護衛に来たって言ってただろう。なんで、俺の隣じゃなくて鈴音の隣に座ろうとしてるんだ」


「犬と人では保護するべき優先順序が全然違うでしょう? というか、反論することを許した覚えはないし、貴方はおとなしくその席を明け渡せばいいの」


 徹頭徹尾、初志貫徹、未来永劫、

 この子は俺に人権というものを与えるつもりはないのかもしれない。


 この時、俺が彼女に抱いたファーストインプレッションなど微塵も残ってはいなかった。


「ちょ……、美波センセー! これはありなのかっ?」


 クラス内の秩序を乱しかねない傍若無人な暴虐美人。


「えっとー…………、そのぅ。理事長の方から警察には出来る限り……出来なくてもなんとか協力するようにって言われちゃってて。ごめんねっ! ごめんねっ、ごめんねっ、桜井君!」


 申し訳なさそうに、泣きそうになりながら美波先生は謝ってきた。


「け、警察の横暴か……!!」


「事件捜査のご協力感謝致します」


 本当に形だけ。

 ニヤリと擬音がついてそうな顔をして、口だけの感謝を表し、その女は俺の席を占拠した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 警察権力を笠に着られては、善良な一般市民である俺なんかは従わざるを得ないわけで、空き教室から使っていない机を持ち込み、明日からもそうなるのだろうが、今日は教室の最後尾から授業を受けた。


 朝のホームルームでは最初のインパクトで出遅れていた男子たちがここぞとばかりに凛音に、甘いものに集る蟻のようにわらわらと寄せてきたが、あいにくその女は砂糖菓子なんかでできてはいない。

 凛音は容赦ない毒の弾丸をもって多くの男子生徒を再起不能に陥らせていた。

 最も暴言を受けたのは黒星だろう。


 黒星の『オレ、姉妹丼も好きよ!?』という発言が逆鱗に触れたのかもしれない。

 彼は俺の隣の席で1日中真っ白な灰になっていた。


 何故、俺の隣なのかと言うと凛音が黒星を嫌ったため席順の入れ替えがやはり行われたのである。


 俺と黒星が同じような扱いを受けていることに納得がいかないが、俺の場合は凛音が鈴音の隣に座りたかっただけで、黒星のようにウザいから弾かれたのではない……はず。


「凛ちゃん、鈴ちゃん、じゃあまた明日ね~」

「ばいばい、鈴ちゃん、凛ちゃん」

「では、また明日ね、来栖川さん」


「はい。また明日なのです」


「ええ、貴女たちが明日も生きていたら会えるでしょうね。貴女たちも長生きするための努力をすると良いわ」


「あはは~。うん、がんばるよ~」

「凛ちゃんも、長生きする努力するんだよ?」


「愚問ね。私はもうすでに150まで生きる予定で人生設計を立ててるのよ」


 長いっ!!

 絶対、途中で破綻するぞ、その設計!!


 不思議なことに、なぜか凛音はあれだけの毒を吐いても女子には受けがいい。

 男子に向かって吐くそれとは違って、女子には割と普通の応対をしているからだろうか。


 最初はシスコンだと思っていたが、それだけでなく男嫌いなのではないかとも思えてくる。


「ではでは、私も行かねばならないところがあるのでこの辺でお暇なのです」


「あ、ばいばーい」


「ばいばいー。凛ちゃんもまた家でねー」


「あ、姉さん、ちょっと待って――……」


 鈴音は挨拶もそこそこに凛音の呼び止めも聞こえなかったのか、さっさと1人で何処かへと行ってしまった。


 前から思っていたが、鈴音の行動パターンには不明な点が多く、知り合って結構経つが未だに良くわからないことが多い。基本的には気まぐれだからかもしれない。


「桜井君だったかしら?」


1人になった凛音は何を思ったのか、俺の方へやってきた。


 俺の護衛という建前を思い出したのかもしれない。

 ていうか俺の名前忘れかけてる……?


「なんですか? 何か用ですか?」


「姉さんの所までエスコートするという栄誉を貴方に与えてあげるわ」


 どこまでも倣岸不遜なお嬢様だった。


「いや……遠慮しておきます」


「そんなっ! 貴方にとって名誉返上する機会を与えてあげようと言うのよっ!?」


 まるで断ることがありえないと言わんばかりの驚愕っぷりだ。


「あー……言いたいことは2つ。当然の如く俺がさも不名誉な立場であるかのように振舞っていることに対する不満が1つ。名誉返上だとどちらにせよ俺が不名誉な存在になることに変わりがないということが1つだ」


 使い古された日本語のミステイクである。

 断っても、承諾しても、どちらにしても俺の立場を悪くしようとするとは、無意識の失敗だとしても性質が悪い。


「ごめんなさい、桜井君。私、日本にまだ慣れていなくて慣用句の間違いがよくあるのよ」


「まあ、日本語はややこしいからな。そういうことなら、気にしなくていい」


幼少期に海外にいったというのなら、日本語を扱えても慣用句とかややこしい部分は曖昧だろう。


「そう。貴方、意外と優しいのね。重ね重ねごめんなさい、貴方のこと誤解してたわ。私的評価で貴方の汚名挽回しなくちゃね」


「わかればいい――ってお前、絶対わざと間違えてるなッ!?」


「ちっ」


「今っ!! 舌打ちした、舌打ちしただろ!?」


「何を言っているの、そんな品のないことを私がするわけないでしょう? 舌打ちのように聞こえたとしてもそれは舌打ちではないわ。それはきっとスィタ・ウゥチという名の天上の調べが如き口笛に他ならないわ」


 この人、舌打ちだということを認めたと思う。


「どちらにせよ、細かいことを気にしては駄目よ」


「私は、細かいことを気にする男はろくな男ではないとお母様から聞かされているのよ。貴方はそのような手合いかしら?」


 だとしたら失望だと言わざるを得ないわ。と凛音。


「…………」


 主導権、握られっぱなし。

 基本的に男は女に弱くできているんだなぁと実感せざるを得ない。

 コイツに限っては特別だと思いたい。


 というかコイツの目的は一体何なんなのだろうか。

 俺の護衛だと言ってはいるが、まるで守るつもりがないこの態度。


 むしろ俺に最も精神的ダメージを与えているのはダントツでこの女で……。

 ハッキリ言って何がしたいのかわからない。

 俺を鬱病にでもさせるつもりなのだろうか。


 ……まさか姉と学生生活をしたいだけとかではないだろうし。


 そもそも事の発端は前回の事件で万世署に事情説明をしにいったことから始まるのだろう。


 あれから俺たちに出来ることは何もないと思ったため、後は警察に任せることがベストだと判断し帰ってきたのだが。何を思ったのか警察は俺のクラスに捜査員を派遣してきた。


 名目は犯人がターゲットにしているであろう俺の護衛…………だが、時期が遅い。


 最初から俺に対して犯人が行動していたことはわかりきっていたはずなのに時間を空けての護衛派遣。


(…………ふむ)


「お前の目的はなんだ? 俺の護衛ってことだが、それだけではないだろう?」


「当たり前よ。上に言われたのは貴方の護衛だけど、もちろんそれだけじゃないわ」


「では、なんだ?」


「姉さんと学生生活を送るためよ」


「……………………………………」


「99%姉さんのためよ。貴方の護衛なんて本当は目的の1%にも満たないのよ?」


 この子……本当は凄くアホなのではなかろうか。


「貴方、今、私にとって不愉快なことを考えているわね」


 鋭っ!!


「そんなことはない」


「そう? ならいいわ。貴方の護衛が目的なんて不愉快な勘違いをされたら困るから教えてあげたのよ? 凄く感謝していいわよ」


 コイツは今日一日でこういうやつだとわかってはいたが、俺、この子になんか恨まれるようなことしただろうか?

 というか。


「潜入捜査か?」


「……どうしてそう思うの?」


 99%が鈴音との学生生活だとして、俺の護衛が1%未満ならば100%を満たしていない。

では残った%が意味するものは何なのか。


「明確な根拠があるわけではないが。俺の護衛をするにしろ、鈴音との学生生活にしろ時期が中途半端だ。あの事件から時間が空いたこの時期に警察がウチの学校に介入してくる理由が、俺程度の頭ではそれぐらいしか思いつかない。それにさっきお前が自分で言った目的の合計値が100%に到達していないのも不審に思う要因といえば要因だな」


 ちなみに秋葉原区では法的拘束力の強さという意味で法律に近い独自の条例と言うものが存在している。

 それに伴って警察でも潜入捜査が認められ、潜入捜査に関する制限はほぼなくなっている。

 特殊なケースの犯罪が多いこの街ならではだと思う。


「ただ、腑に落ちないのは俺の護衛だということをクラスで伝えたことだが……」


 そんなことをすれば犯人に気がつかれずに捜査するという潜入捜査のメリットがなくなってしまう。


「それはそれでいいのよ」


 認めた……?

 容疑者が同じ学院の中にいることに多少の驚きは覚えるが……、それだけだ。

 まだ確定というわけでもない。


「私がここにいるということは、今日の生徒たちの反応でかなりの範囲のクラスに知れ渡っているはずよ」


 休み時間には他のクラスからだけでなく、学年が違っているものも、アメリカからの帰国子女である才女を一目見ようとウチのクラスにやってきていた。

 おそらくこの1日で教師は元より、他学年の生徒すら来栖川凛音という少女を知っただろう。


「しばらくすれば、警察官がこの学校にいるということは犯人の耳にも入るでしょうね。そうすれば、少なくとも私が学院にいる間はおいそれと犯罪を犯すような愚行をするとは思えないわ。今はそれでいいの。姉さんの安全がこの程度で保証できるならいくらでも情報を流すつもりよ」


 淡々と髪をいじりながら来栖川凛音は語る。


「それは副次的に貴方の安全を保証すると言うことでもあるのだけど」


「まずは、起こった犯罪よりこれから起こるかもしれない犯罪を防ぐ……か? そういう考え方は嫌いじゃない」


 たとえ、それが根本的な解決を遠ざけているのだとしても。


「驚いたわ……。貴方に褒められると……なぜか体調がおかしくなるの。風邪をひいたのかしら……?」


 凛音は少し驚いたような表情をした後、自分の体を抱くような仕草をする。

 顔も本当に少しだけだが赤みがかったように見えるし、おそらく照れ隠しなのだろう。


 だとするなら……、意外と可愛いところもあるんだなと思わざるを得ない。


「……照れてるのか?」


「貴方のセリフに寒気を感じるの」


「やっぱ風邪だな」


 照れてるなんて勘違いだった。


「それだけじゃないの。おぞましさも感じているのよ……?」


「原因不明な症状だな。病院へいくことを薦める」


 精神科あたり。


「まぁ、貴方が其処まで考えていたことに驚いたのは事実よ。姉さんの番犬としてはギリギリ落第点といったところかしら」


「そうか、落第か」


「嘘よ。本当は及第点だから安心して良いわよ?」


 散々な扱いをしてきた俺に対して綿飴の切れ端のような、あるかなしかの少しばかりの飴を放ってくる凛音。

 その程度で喜ぶような俺ではないはずなのだが、コイツに少しでも認めさせたということに満足を覚えている自分がいるのが恐ろしい。


 ……調教されかけているのかもしれない、気をつけよう。




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