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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第2話 『アドベントソウル』
13/27

3 姉と妹と

「…………」



 教室に入る。

 朝のこの時間はざわめきが絶えず、そこかしこで雑談が交わされている。


「おはよぉ、桜井君」

「あ、おはよ、葦人君」


 俺の席の近くで話をしていた女子生徒が挨拶をくれる。

 間延びしたしゃべり方の子はゆらゆらと体を揺らしている。非常にマイペースな子だ。

 もう1人は小柄で小動物のようなイメージもあるやや引っ込み思案な性格だった。


「おはよう」


「桜井君はもう学校慣れた?」


「ああ、まぁ、ぼちぼちと」


 俺がこの秋葉原に引っ越してきてから数ヶ月。

 それだけあれば慣れるには慣れた。


 秋葉原にしろこの秋葉原学院にしろかなり広いためまだ知らない場所も多いのだが、自分に関係がある場所などは大体把握できたので、おおよそ慣れたといっていいだろう。


「それはよかったよ~」


「じゃあ、もしかして部活とかも決めたりした……?」


「いや、それはまだだけど」


「そうなんだ。じゃあ、AAAエースリー部っていうのに入ってみてよ~」


「えっ……!? それって……?」


 AAAという単語への反応を見るに、普通の部活動ではなさそうな雰囲気がする。


「そのAAA?部ってなんだ? 何するとこかわからないんだが……」


 名前からでは予測することすら出来ない。


「うん、私もよくわからないんだ」


「そうか」


 この子の発言は非常にセンシティヴなものが多く、深い意味を問うてはならないことが多い。


「その部活の噂ぐらいなら聞いたこと、あるよ……?」


「どんな噂だった?」


 その噂はいいものなのか悪いものなのか。


「なんでも昔は有名な部活で、秋葉原の事件や問題を悉く解決していったっていう伝説的な部活って。不思議な事件や出来事も解決してくれるらしくて、ちょっとオカルティックな噂の付きまとう部活で実態もあんまり知られてないらしい、よ?」


 ビルの屋上から屋上へ飛び回る技能はデフォだとか、部員の中にはビルから落ちても平気な顔で歩いただの。

 ほぼ都市伝説みたいな話である。


「ホントにあるのか…………そんな部活というか人間」


「うーん……でも実際この学校に登録はされてるよ~」


「へぇ……」


 もしもオカルトな事件を扱う部活ならば、前回の爆弾事件について聞いてみてもいいかもしれない。


 爆弾事件以降数週間は経っているが、もう犯人からのアプローチはなくなっている。

犯人については姿かたちどころか痕跡も見つからないし、警察も足取りを追えていない様だった。


 ならば出来る範囲で出来ることはしておくべきだろう。


「グッドスク水!!」


「……………………」


「ナイススク水!!」


「で、その部活なんだけどさ。どこ行けばいいんだ?」


「興味あり?」


「まぁね」


「ナイスブルマ!!」


「でも、ごめんなさい、私たちは知らなくて……。たぶん生徒会に行けば教えてくれると思うんだけど……」


「なるほど、ありがとう」


「グッドブルマ!!」


うっざ……!


「うるっせえええええ!! なんなんだお前は!!」


 先ほどから変態言語を乱発しているのは、俺がこの秋葉原学院に転校してきてから付き合いのある黒星渚くろぼしなぎさだった。

 付き合いがあること自体が恥ずかしくなる。


「おはよう、ブルマ」


「だれがブルマだ」


ここは摩訶不思議アドベンチャー世界ではない。


「黒星くん、おはようー」


「お、おはようございます」


「……珍しいなお前がこんなに早く登校してくるとは」


「おう、葦人。まぁオレもたまには早く来たくもなるぜ」


「で、その奇怪な言動の数々は一体何なんだ?」


「おいおい葦人~、おっくれってるうううううう!!」


えーい、ウザい。


「お前よりは登校早いよ」


「ちっげーよ!! そんなんじゃねーよ!!」


「じゃあ何だ」


「いやー、この前このクラスのやつらで有志を募ってだな。スク水とブルマの復活嘆願書を生徒会に提出したんだぜ」


 おお……、なんとアホなことを……。

 そんなことに無駄な行動力を発揮しなくても。


「本当なのか?」


隣の女生徒に聞いてみる。


「残念ながら……」


「私は別にスク水でもブルマでもいいよ~」


「は、恥ずかしいよ」


「おはよー。って何々、スク水とブルマのことですか?」


そこに制服を纏った来栖川鈴音がやってきて、会話に加わってきた。


「ああ、おはよう、鈴音。まぁ聞いたとおり黒星がやってしまったみたいだ」


「じゃあ、葦人はスク水もブルマも嫌いだってのか?」


「嫌いじゃない」


 嫌いか嫌いじゃないかといわれたら別に嫌う必要はない。


「ですよね。何を隠そう、私もスク水、ブルマ復活希望者なのです」


「早く復活しねーかなー」


「いやいや……世論が許さないだろ」


ハーフパンツ派もいるわけで。


「生徒の間でも意見が割れてるみたい」


「そりゃ、女子生徒がな……」


「にこ~」


「にぱー」


「って思ったけど、それでもいいというやつがここに2人もいたな」


鈴音とマイペース子の2人だ。


「もし俺の転校時期がズレてて転校してきたらスク水とブルマだったりしたら、とんでもないとこに来たと思ってただろうな」


今でも思ってる。



「あ、そだ、転校っていえば。スク水、ブルマはいいとして転校生」


「転校生……? その反応だと、転校生でも来るのか?」


「そうなのですよー」


「そうだぜ。その転校生のためにもぜひともスク水とブルマを採用してもらわねば」


「黒星君はもう知ってるんですねー」


「ハハハ、オレはこの学院の女生徒の名前は全て記憶してるのさ。そんなオレが新しい転校生のチェックを怠るはずはない」


「うーわー……」


「妙な特技を持ってるな」


 この学院は初等部、中等部、高等部、大学部から成り立っており、女生徒の数だけでもかなりの人数になるはずだった。

 それを記憶してるだけでもある意味凄い。


 恋愛シミュレーションゲーム辺りだったら非常に重要な情報ソースとして活躍できたのかもしれないが、あいにくここは現実だ。

 ゲームとかでもそうだけど、奴らはその情報をどこから得ているのだろうか。


「どんなこなんだろー」


「仲良くなれるといいな……」


「しかも! その女の子はとっても綺麗で可愛いのです。葦人君惚れちゃダメなのですよ?」


「マジで!? 女の子の転校生が来るって事は知ってたけど、それは初耳だぜ!! これからオレという物語が始まる!!」


「黒星は惚れてもいいのか?」


「大丈夫なのです。そこらの男の子には手におえない子なのです」


鈴音は確信を持った口調で断定する。やけにその女生徒のことを詳しいが……知り合いだろうか?


「あ、チャイムですねー。葦人君は楽しみにしておくと良いです」


「期待しないで楽しみにしておく」


 女の子の言う可愛い女の子というのは期待できないと何処かで聞き及んだことがある。

 この場合も話半分くらいに聞いておいて損はないだろう。


 予鈴が鳴り、自分の席に帰るもの、自分のクラスに帰るものが慌しく動く。


 俺たちも解散するが、俺の前の席が黒星、俺の隣の席が鈴音という配置になっているため、俺を含む3人は特に動く必要はない。


 黒星がそわそわ体を小刻みに動かしているのが目に障る。


「おはようございますぅ。はーい。みなさん席についてくださいねぇ」


 担任の美波先生がいつものようにややテンポの遅い挨拶をする。


「今日はみなさんにビッグなニュースがありますっ! なんとこのクラスに転入生がきますっ!」


 途端にざわつく教室。

 教室のあちらこちらで転入生についての憶測が飛び交う。


「美波ちゃん、質問!! 女の子っ!?」


 男子生徒が質問する。


「美波ちゃん言わないでー。はい、男性諸君は喜んでいいですよ。子猫ちゃんたちは残念かもですが。とっても可愛い女の子ですー!」


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」


オタクな学院の割に肉食系男子がうちのクラスには多い。


「自分のクラスに美少女転校生がくる……!! 十数年来の夢が今ここに叶うなんて……!! こんなに嬉しいことはない……!!」

「へ、へへへ!! オレ、この戦いが終わったらアイツに告るんだ……!!」

「結婚式場の予約をしなけりゃならねぇぜ……。あと、区役所に提出だな。学校終わったあとって区役所開いてっかな?」

「桜井んときみたいなガッカリじゃねぇんだよな!?」


「男子ッ!! うるさいわよ!! 美波ちゃんが困ってるでしょっ!!」


「美波ちゃん言わないで~!」


 俺のときはガッカリですいませんでした。

 女子生徒が注意するも、興奮した男子生徒たちはしばらく収まりそうにない。


 男どもはまるでマンガの主人公のような展開を妄想しているのだろう。

 さすが秋葉原学院とも言えるほど妄想たくましい。


 俺はこいつらの欲望に素直なところ結構好きだ。


「み、みんなー、静かにしてくださーい! 静かにしてくれないと、転入生が入ってこられないですよー!」


 ピタ


 一瞬にして静かになるのが笑えた。


「じゃ、じゃあ、入ってきてくださ~い」


 がらり、と。

 教室のドアが開くと、当たり前だが、1人の女性がそこにいた。


 体の軸をぶらさず、だけど女性特有の柔らかさを残し、しっかりとした綺麗な歩き方で赤髪のポニーテイルをなびかせ、彼女は教室に入ってくる。


 見知らぬ人たちの注視の中を歩いてくるのだ。

 普通なら多少は気後れするものだろうに、そんな躊躇いなど微塵も感じさせず、彼女の意思の強さが見て取れるかのように淀みない歩きだった。


 ただ歩く、という行為がこれほどまでに人の目を惹きつけるものだと初めて知る。


 そいつは歩いただけでこの教室の空気を支配したことに気がついているのかいないのか。

 教卓の前までやってきて、こう言った。


「Good morning, everyone.How are you?」


 Oh...so cool! Yes, I'm fine!


 って、なんなんだ、英語?

 思わず脳内で英語の授業のように反応を返してしまう。


 中学英語レベルの会話だが、驚いたのは英語の発音のネイティブっぷりだった。


「本日付で桜井葦人護衛のため、万世署から来ました。警部補の来栖川凛音です」


 彼女は自分の名前を告げると教室を見渡し、ある一点で視線を固定する。

 鈴音……ではなく、その隣の俺を睨むように見ている。


 自己紹介で色々と突っ込みたいところはあったが、彼女の視線から目を離せないどころか思考も縛られ、余計なことを考えられない。


 今、考えていることはたった1つだけだ。


 俺は彼女に何か恨まれるようなことでもしたのだろうか?


「あまり貴方と宜しくするつもりはないのだけれど、礼儀として一応、宜しくお願いしますと言っておくわ」


俺と視線を交差させたまま、不遜な態度で言い放つ。

 それが、俺と来栖川凛音との第一次接触だった。





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