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AKIBAALIVE -overture-  作者: 一々葉(PSYCHOFRAME)
第2話 『アドベントソウル』
12/27

2 少年と魔王と

【view:unknown】



【???】

貴様に世界の半分をやろう。


 そう『魔王』は言った。それは魔王というには小柄で、しかし確かに強大な力を持っていた。


【桜井 葦人】

なぜ……ここに。


 魔王は主人公である『彼』が『世壊』で倒したはずの存在だった。

にもかかわらず、魔王はこの『世界』に存在している。


 少年はまだ魔王を倒せていなかったことに、

この世界にいることに驚きを覚えていたが、それを表に出すことはない。


【???】

貴様が倒した魔王は我輩の分身に過ぎない。


【桜井 葦人】

まだ……ゲームは終わってないってことか。

お前を倒せばエンディングってことなんだな?


【???】

その通りだが、その前にひとつ聞いておきたいことがある。


【???】

貴様に世界の半分をやろう……その代わり――


 魔王はここにきて彼に交渉を持ちかけた。


【桜井 葦人】

…………?


 何を言うつもりか知らないが、そういった交渉でろくなものがあった試しはない。少年は続く魔王の言葉に何があっても対応するべく身構える。


【???】

我輩の友達になってくれ。



 …………。



 そして2人は友達になり、世界は2人のものになった――




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




【view:桜井葦人】




 自室にて。

 朝も早く、学校に行くまでにはまだ余裕があるという時間帯。


「…………夢か」


 ちょっと意識を失っていたようだ。


 俺は机に向かい顔を俯け、思索に耽っていた。

 先日、秋葉原で起きた爆弾事件。

 それについての事情聴取ではこのカードが起こしたことを真面目に語るわけにも行かず、当たり障りのないことを話したのだが…………。


(夢だったんじゃないだろうか…………)


 事件のときのように切羽詰っていない状態では夢としか思えず、信じられなかった。


 だが。


 認めるしか…………ないよな。

 いつまでも現実逃避はできない。


 この秋葉原であんなことが起きるとは思ってなかった。


 秋葉原といっても普通に生活していれば、そうそう何が起こるわけでもなく平々凡々とした日常が過ぎていくだけだ。


 そのはずだった。でも、そうじゃなかった。

 まさか、あれほど身近に非日常への扉が開いているとは思わなかった。


 俺は自分自身の無力を痛感した。


 なんとか凌げたのはカードの少女の力と真砂の力によるところが大きく、俺がやったことと言えば鈴音を周りの野次馬と一緒に眺めていただけだ。

 実際、あんな状況で一個人のできることなど、たかが知れているのだろう。


 でも、俺は何とかしたかったし、抗いたかった。


 あの事件はまだ解決しておらず、犯人が俺や俺の周りの人間を狙うのならあの少女の力は有効なのも事実で。あの少女の存在を認めないのは不実で、卑怯なことだ。


 あの事件では人が死んでいる。


 それは俺の目の前の出来事で…………。

 後悔がなかったといえば嘘になるし、少女の力を知っていればあるいはとも思ってしまう。



 だからだろうか。



 咎識は助からなかったが、俺たちは助かった。



 その事実が妙に引っかかっていた。



 自分でも薄情だなと思う。

 咎識のことについて後悔はあったが、悲しみはさほど感じていないことを。


 咎識とは疎遠になって久しいし、小さな頃の知り合いが亡くなったといっても実感がわかない。


 というよりも咎識が死んだということを信じられないのか。

 そもそも咎識は自分が爆弾事件に巻き込まれていることを自覚しているようだった。


 慌てふためくわけでもなく、俺に助けを乞うわけでもなく、すべてをわかっている風に落ち着いたまま咎識は死んでいった。


 でもだからこそ、事件が終わって落ち着いてから残ったのは、安堵でも恐怖でも困惑でもなく自分でもよくわからないモヤモヤとした感情だった。


ひとつだけ言えることがあるとしたら。


 あの事件を仕方なかったと納得してはならないのだろう。

 目の前であっさり死んだ人間に向かって仕方ないと言えるわけがなく、しかし、今の俺は言葉を持たない。


 だから、俺はこの能力を使いこなせるようになろうと思う。


 似たようなことがあったとき少しでも対抗できるように。

 『絶対』にあんなことを起こさせない為に。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




学生寮の俺の部屋を出ようとしたところでちょうど来客があり、部屋に招く。


「そろそろ登校時間だろうに。こんな時間にどうした?」


「いや、どうせ君のことだから今日も朝食を取っていないんだろう?」


「…………まぁ、そうだが」


「ここにパンがあるんだ」


「…………!?」


「僕の今日の昼食にしようと思っていくつか買ったんだけど、間違えて粒あんのあんぱんを買ってしまってね」


 彼は雛守正義ひなかみまさよし。あんぱんはこしあん派である。

 俺が昔、秋葉原にいた頃の友人だ。


 さらりと流れるようなはちみつ色の髪をし、身長も高く、甘いマスクをしたいわゆる好青年である。


 同い年であり秋葉原学院に通っている。

 クラスは違うため昔ほど一緒にいることも少なくなっていたが、こんな風に時々様子を見に来てくれたりする。


 生活費を切り詰めて、色々とオタクなものを買っている俺は食事を抜くことが多く、その心配もあるのかもしれない。


「僕はつぶあん苦手だし、よかったら食べてくれ」


「おお……ありがとう、母さん!」


 彼の行動は完全に子供を心配する母親のそれっぽい。


「葦人はほっとくと何も食べようとしなくなるからな。親としては心配だろうね」


 俺の母さん発言を完全にスルーされた。

 そもそも違う意味で受け取ったのか。


「代わりにってわけではないが、コーヒーをどうぞ」


「お、ありがとう」


 昨日、作っておいた水出しコーヒーがある。

 それを来客用のカップに注ぎ、差し出す。

 ミルクなし、砂糖なし、の完全ブラックである。


「苦いな……」


「まぁブラックだしな。ガムシロップ使うか?」


「うん、もらうよ」


 当たり前だが、俺はガムシロップなんて高級品は使わない。


 それでもガムシロップなんてあるのは緊急非常食用だ。

 一度、あまりにも何も食べず、朝起きたら身体が動かなくなっていたことがありそのときにあったガムシロップを舐めてなんとかエネルギーに変えたという経験がある。


 そのため、使わなくてもガムシロップやスティックシュガーなどはいくつか残して置くようにしている。


「相変わらず、甘党なんだな」


「君だって甘いものは好きだったろうに。いつの間にこんなブラックコーヒーなんて嗜むようになったんだ」


 正義はガムシロップを2つ注ぎ、かき混ぜていた。


「僕は葦人をそんな苦い子に育てた覚えはないぞ」


 そのとき桜井葦人に電流走る……!

 ここで俺の母さん発言の振りを拾うのか……っ!?


 ボケをツッコミで返さないばかりかボケで返すこともせず、勘違いとしてスルーしたと思ったら時間差でボケを返してきた……!


 しかも苦い子ってなんだ……。


「なんてな」


 真面目腐った顔で「冗談だぜ?」みたいに言いやがって……。


「俺は正義をそんな(ギャグセンスが)甘い子に育てた覚えはないな」


「……? 僕は君に育てられた覚えはないよ」


 なんということだ。


 そうだった。

 正義は……真面目なのだ。


 だから俺の母さん発言にしても、何かの意図を考えたりしてボケだと気がつくのに遅くなったのだろう。


 向こうは日常会話をしてるつもりなのに、こっちが漫才会話を求めるのは明らかに俺が空気よめてないことになる。


「うん、まぁいいや。ありがたくパンを頂くことにするよ」


「ああ、どうぞ」


 パンを食べつつコーヒーを嗜む。


 あんぱんの濃度の高い甘さにブラックコーヒーは意外に合っていた。


「あれは……?」


 甘くなったコーヒーを満足そうに飲んでいた正義が何かを見つけたのか声を上げていた。

 正義の視線を辿るとそこにあったのは机の上に置いておいた『運命交換』のカードだった。


「……ああ、それはこの前やったゲームの景品だ」


 変な能力を秘めているが。


「葦人もアポカリプス#0をやってたのか。いや……『彼女』が作ったのだからやっててもおかしくはないか」


 正義の言う『彼女』とは咎識のことだろう。

 今はもういない俺たちの友人だった。


 正義と咎識の話をしたことはなかった。

 今となってはどう話したらいいのか迷っているようにも感じている。


「この前、初めてプレイしたんだけどな」


「初プレイで……ウルトラレア……」


 みんなそこに食いつくね。


「でも、こんなカードがあるなんて……僕は知らなかったな。ウルトラレアなら知らなくてもおかしくないけど」


 ウルトラレアは複数種あれども複数枚はないのだから全コンプ勢はかなり歯がゆいだろうな。


「というよりも無造作に置きすぎだ。大切に保管したほうがいい」


 確かにその価値を考えれば、無造作すぎたかもしれない。


「ああ、気をつけるよ。というかその言い方だと正義もプレイヤーだったか」


「……うん、ちょっとしたギルドも作ってるし、いつか一緒に遊んでもいいかもしれない」


「…………。ああ、いつか遊ぼう」


 それは、咎識がいないのに以前のようにゲームで一緒に遊ぶことへの罪悪感か。

 それとも、一緒に遊ぶことで決定的に変わってしまった関係を直視したくなかったのか。


 俺と正義は、お互いにいつ遊ぶとも確約せずに、ただ漠然と……いつかあのゲームで遊ぶという約束をとるだけだった。




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