↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/27

第二十六話 任務のあと

 支部へ戻った頃には、西の空が夕暮れに染まり始めていた。


 三人は正面口を抜け、管理室へ向かった。開いた扉の向こうでは職員たちが書類を整理し、机の前に立つ聖灯士から報告を受けている。


 先の一人が受付を離れるのを待ち、レオンが進み出た。


「三等灯士レオン・フォード、アウル・ストラウド。遺跡調査の護衛任務から戻りました」


 職員は手元の記録へ目を落とし、二人の後ろにいるクラリッサを見た。


「同行者はクラリッサ・ヴェルナーさんですね」


「ああ。調査は予定通り終了した。内容は私の方でまとめて提出するよ」


「承知しました。負傷者や、道中の異常はありますか?」


「負傷者はいません。森へ入ってからグルームボア一体と遭遇し、討伐しました」


 エインが答えると、職員は筆を取り、遭遇した場所を尋ねた。レオンが地図を広げ、街道から遺跡へ向かう途中の位置を示す。


 ほかに魔物の姿はなく、調査中も襲撃はなかったことを伝えると、職員は記録を確かめて顔を上げた。


「分かりました。お疲れ様でした」


 レオンが地図を畳み、受付を離れたところで小さく息を吐いた。


「もっと色々聞かれるのかと思ってた」


「壁画や刻文については私の仕事だよ。君たちは無事に連れ帰ってくれた。それで十分さ」


 クラリッサは肩に掛けた鞄を直し、二人へ向き直った。


「今日は助かったよ。ありがとう」


「こちらこそ。調査を見せてもらえて、勉強になりました」


「俺も面白かったです。文字はほとんど分かりませんでしたけど」


「最初から読めたら、私の出番がなくなってしまうね」


 レオンが笑うと、クラリッサも僅かに口元を緩めた。管理室の奥で職員が顔を上げ、彼女へ会釈する。


「では、私はもう少しここで話をしていく。また会うこともあるだろう。その時はよろしく頼むよ」


「はい」


 軽く手を上げたクラリッサと別れ、二人は管理室を出た。


    ◇


「腹減ったな」


 廊下へ出るなり、レオンが言った。窓から差す夕日が外套の肩を照らし、乾いた泥の跡が白く浮いている。


「食堂へ行くか」


「珍しく話が早いな。アウルも腹減ってたんだろ」


「一日歩いていたからな」


「さっきまで平気そうな顔してたくせに」


「顔に出す必要はないだろう」


 レオンが何か言い返そうとしたところへ、廊下の向こうから声が飛んだ。


「レオン!」


 こちらへ歩いてくる三人の少女のうち、明るい栗色の髪をした一人が手を上げていた。レオンも足を止め、片手を上げ返す。


「おう、ナディア。今からどこか行くのか?」


「管理室。そっちは今戻ったところ?」


「ああ。遺跡調査の護衛だった」


「へえ、面白そうじゃん」


 ナディアが近づいてくる。その後ろに灰色の髪を見つけ、エインも顔を向けた。


「アウル」


「ああ、イネスか」


 二人のやり取りを聞き、ナディアが交互に顔を見た。


「あれ、知り合い?」


「前に任務で一緒だった」


「そうだったんだ。じゃあ、ちゃんと話したことないのは、あたしたちだけか」


 隣の少女へ目を向けると、彼女も頷いた。レオンはエインの方へ半歩身体を引き、三人へ紹介する。


「こいつがアウル・ストラウド。同じ三等灯士。候補生の時、顔くらいは見たことあるだろ?」


「あるよ。あっという間に正規になったから、話す暇もなかったけど」


 ナディアはそう答え、レオンへ目を戻した。


「それより、いきなり『こいつ』はないんじゃない?」


「名前も言っただろ」


「そういう話じゃないの。まったく」


 呆れたように言いながらも、口元には笑みがある。そのままエインへ向き直ると、目尻の少し上がった飴色の瞳をこちらへ向け、軽く手を差し出した。


「あたしはナディア・ローク。よろしく、アウル」


「ああ、よろしく」


 差し出された手を握ると、隣にいた少女が軽く頭を下げた。亜麻色の髪が、ほっそりした頬の横で揺れる。青灰色の目元は穏やかで、こちらと目が合うと柔らかく微笑んだ。


「クララ・エヴァルト。私も同じ班だったの。よろしくね」


「こちらこそ」


「クララとナディアとイネス。候補生の時は、ほとんどこの四人だったんだ」


 レオンが三人を見回すと、ナディアはエインから手を離した。


「レオンには、あたしたちの紹介も任せない方がよさそうね」


「まだ何も言ってないだろ」


「さっきの紹介を聞いて決めたの」


 クララが小さく笑い、エインへ目を向けた。


「遺跡では、何か見つかった?」


「古い文字と、壁画があった。研究者の人が、残っている部分を読んでくれたんだ」


「壁画には巨像が描かれてたぞ」


 レオンが付け加えると、ナディアが首を傾げた。


「巨像って、あのでっかい像?」


「お前、知らないのか?」


「名前くらいは聞いたことあるけど。見たことはないよ」


「俺もない」


「じゃあ偉そうに言わないでよ」


「説明聞いたばっかりだからな」


「何それ」


 ナディアが呆れた顔をし、クララも笑みを浮かべた。


「研究者の人って、どんな人だったの?」


「あー、変わってた」


 即答したレオンへ、エインは横目を向けた。


「失礼だろ」


「だって、倒した魔物を楽しそうに観察してたぞ。遺跡を調べに来たのに、牙とか脚までじっと見てたんだ」


「それはそうだが。普段は近くで見られないと言っていた」


「ほら、否定はしないんだな」


 ナディアが声を立てて笑った。


「面白そうな人じゃん。その人、何ていうの?」


「クラリッサ・ヴェルナーさん。まだ管理室にいる」


「じゃあ、会うかもしれないね」


 クララが管理室の方へ目を向け、そのままナディアの腕へ軽く触れた。


「ナディアちゃん、そろそろ行かないと。待たせちゃうよ」


「あ、そうだった」


「任務か?」


 レオンが尋ねると、ナディアは管理室を指した。


「そう。今度は三人で行くことになったの」


「そうか。気をつけろよ」


「うん、ありがと」


 ナディアはエインにも手を振った。


「じゃあ、またね。アウル」


「今度はもう少しゆっくり話そうね」


 クララに続き、イネスも小さく手を上げる。


「また」


「ああ」


 三人は二人の横を通り、管理室へ向かった。ナディアが何か話し始め、クララの返事が廊下に響く。その声が扉の向こうへ消えるまで見送ってから、エインはレオンへ目を向けた。


「仲がいいんだな」


「まあな。四人とも同じような時期に候補生になったから、一緒に訓練することが多かったんだ」


 レオンは笑って、三人の入っていった扉を見た。


「正規になったら、毎回同じ組み合わせってわけにもいかないけどな。今日みたいに、お前と組むこともあるし」


「ああ。また一緒になったら頼む」


「こっちこそ。……それより飯行こうぜ」


「結局それか」


「腹減ってんだから仕方ないだろ」


 二人は再び歩き出した。

お読みいただき、ありがとうございます。

毎日お昼12時に更新予定です。


楽しんでいただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。