アーリヌは友達
ケプネから渡された粉を受け取る。
軽く匂いを嗅いだところ、スッと鼻に抜ける清涼感を感じる。こぼさないように上を向きそれを流し込んだ。
目を閉じてスーッとした爽快感が鼻から喉へ抜けていくのを感じる。
多少だが、頭がクリアになる。
体全体が冷えたような、そんな感覚だ。
「元気になるかな?」
不安そうにケプネはタリヤを見つめる。
「なってくれないと困る。そろそろ匂いにつられて、アーリヌがやってくるんじゃない?」
少々投げやりに、そして頭を抱える。
白いもふもふが、タリヤの膝から降りる。
うろうろと歩いているが、いつもと違う人間がいると感じているのか、こちらの存在は認識しているようだ。
「ミャー」
ポンっと白いもふもふがNO.046の膝に乗る。
薄目でそれを眺めるが撫でることも知らずに、ただ静かにその温もりを感じていた。
コンコンっと丁寧にドアがノックされる。
彼女達は一瞬ビクッと体を揺らし、ベッドから少し距離を取った。テーブルに背中をくっつけて二人で肩を並べている。
その異様な空気感は、さほど気に止めていないNO.046にも伝わってきた。
ドアに近づくこともせず、不安気に勝手にドアが開くのを待っている。
「ケプネ、タリヤ〜。」
彼女達の名前を、甘ったるい声色で呼びつけながら、妖艶という言葉でしか表現できない美しい女が部屋に入ってきた。
髪をかきあげながら、長いまつ毛を伏せ目がちに見せつける。どこからともなく、甘すぎる匂いが部屋中に広がった。
「アーリヌ…。」
二人の顔は平常心を装っているようだが、固く引き攣っている。
「今回は案外早いじゃない。」
部屋に入ってくるなりアーリヌの情欲的な視線は、すぐさまベッドの上のNO.046に注がれた。
「いい男だと思わない?」
ふふっと笑いながら少女達の顔を流し見る。
体をくねらせながら、白いもふもふを押し除けそのまま膝の上に座る。
温もりは塗り替えられ、しっとりとした冷たさへと変わっていく。
柔らかい体の重みで、ベッドが軋みゆっくりと沈んでいった。アーリヌは彼女達には聞こえないように甘い声色で耳元に顔を近づけ囁く。
(ねぇ、こんな狭い部屋じゃなくて、外の静かな所へ行かない?)
ふっと顔を離し、潤んだ瞳で何かを捕らえるように微笑みかけてくる。
「まだ少し体が重いんだ。十分に動けるかわからないから少し待ってくれるか。」
至極まっとうな答えで、微塵も歪んだ感情はなかった。
「ふふ、わかったわ。いつでも待ってるから。」
手で口を押さえ上品な仕草をみせつける。
NO.046の腕を一撫でしてベッドから立ち上がり、胸元から小さな紙を取り出した。
それをNO.046の大きな手の中に入れる。
そのまま振り返ることもなくアーリヌは甘い香りを部屋に残したまま去っていった。
「この匂い慣れないね。」
二人の少女は小さな声でこそこそ話を始める。
渡された小さな紙を開く。
そこにはアーリヌとの待ち合わせ場所が書かれていた。くしゃっと丸めてポケットに突っ込んだ。
「さっきの女は?」
「あなたをここに連れてきた、アーリヌ。もう彼女とは、長い付き合いなんだ。」
平静を取り戻したように淡々と告げる。
「怯えていたようだが…」
二人は驚いたように顔を見合わす。ケプネは静かに床を見て、タリヤは横を向き目を逸らした。
煮え切らない態度だ。
誰がどう見ても怯えていたのは間違いない。
それに彼女達は、女に無理やり看病させられていたようにしか見えない。
「はっきり言った方がいいぞ。」
彼女達が何かの影に怯え、ただ強がっている哀れな子羊にしか見えない。
力を持たないものはいつもそうだ。
強いものに利用され、淘汰されていく。
争う術も持てずに。
「別に。」
目を合わせることもなくタリヤは横を向いたままぶっきらぼうに答えた。
(ね、ねぇなんか変じゃない…?)
小さな声でケプネがタリヤを引っ張る。
(もしかして、魅了されてないんじゃ…)
(そんな訳ないでしょ。動けるようになったら行くって言ってたじゃん。)
(じゃあ…、どうして私たちの心配をするの?)
それまで頑なに目を逸らし続けていたタリヤが、静かに、ゆっくりと、ベッドに顔を向ける。真っ直ぐ目が合った男の青い瞳は、何よりも冷たく見えた。
「俺が、殺してやろうか?」




