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エピローグ

その後、部員たちは一応救急隊へ引き渡された。


蜃気楼の空間が崩れたことで、林道や合宿所の位置関係も元に戻り、外で待機していたVEC隊員や救急隊がすぐに合流してきた。

軽傷者は何人かいたが、深刻な怪我をしている者はいない。星馬も消耗はしていたものの、自力で立てる程度には無事だった。


最初に行方不明になっていた顧問の教師については、そもそも蜃気楼の空間の外にいたらしい。

合宿所へ着いた直後、何かの拍子で生徒たちとはぐれ、そのまま異変の外側に取り残されていたようで、後から合流した時にはひどく狼狽していた。


なにはともあれ。


重傷者も死者もいない。

救助は間に合った。

高位種(ハイエンド)も討伐された。


無事に、ハッピーエンド。


その時の空は、そう思っていた。



「あの英雄猫屋と一緒に戦ってたって」

「異形に殴りかかったらしいぞ」

「鬼神みたいに無数の異形を殴り殺したって聞いたぞ」


後日。


学校へ戻ると、事件の話はとっくに広まっていた。


空がVEC所属であることも、あの日の合宿所で何があったのかも、どこから漏れたのかは分からない。

ただ、広まった情報には当然のように尾ひれがついていた。


猫屋と共闘した。

異形を何体も倒した。

高位種(ハイエンド)のいる空間で平然と戦っていた。


事実の一部だけを掬い上げて、都合よく膨らませた噂ばかりだった。


今まで空を無感覚者として貶めていた人間たちに、そんな話が回ればどうなるか。


もちろん、答えは簡単だった。


空は、腫れ物扱いを受けていた。


廊下ですれ違えば視線だけが向く。

教室でも、今までみたいな陰口は明らかに減った。というより、聞こえる場所では誰も言わなくなった。


あれだけ率先して空を嘲笑していた男子たちも、今はすっかり大人しい。

なんなら、少しだけ空を畏れているようにすら見える。


空からすれば、ほとんど猫屋がやったことだった。


自分がやったのは、せいぜい分身体を相手に少し時間を稼いだくらいだ。

それだって猫屋が本体を討伐してくれたから成立しただけで、自分ひとりでどうにかできたことではない。


なのに周囲は勝手に何かを想像し、勝手に距離を変える。


「……結局、たいして変わらないな」


小さく嘆息が漏れた。


以前は蔑まれた。

今は畏れられている。


方向が変わっただけで、結局まともに見られていないことには変わりない。


そんなことを思っていた、その時だった。


「蒼月!」


明るい声が飛ぶ。


顔を上げると、星馬がいつもの調子でこちらへ歩いてきていた。


周囲の空気を気にした様子もなく、真っ直ぐに。


「あの時は本当にありがとうな!!」


教室の中で、少し大きすぎるくらいの声だった。


視線が集まる。

けれど星馬は気にしていない。


「本当に蒼月が来てくれなかったらどうなってたか」


その目は、驚くくらいまっすぐだった。

打算も、畏れも、腫れ物に触るような気遣いもない。ただ純粋に感謝している、それだけの顔だった。


そこでようやく、空は気づく。


星馬だけは、今も前も、自分を見る目が変わっていない。


事件の前も、変に踏み込みすぎず、それでいて普通に話しかけてきた。

事件の後も、周囲みたいに距離を取らない。

ただ、蒼月空として見ている。


それが妙に、胸の奥へ落ちた。


空は少しだけ視線を逸らし、それから短く言った。


「……空、でいいよ星馬」


一瞬、星馬が止まる。


「……!」


目を見開いて、それからぱっと表情を明るくした。


「あぁ! 改めてありがとうな、空!!」


その返事があまりにも真っ直ぐで、空は少しだけ肩の力を抜く。


教室の空気は相変わらずだった。

視線もある。噂も消えないだろう。

たぶん明日からも、急に全部が楽になるわけじゃない。


それでも。


少なくとも一人だけは、変わらずここにいた。


その事実だけで、今は十分だった


更新の励みになりますので、ぜひ感想・評価・ブックマークをお願いします。

二章完結となります。

引き続き当作品をよろしくお願いいたします。

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