第八章・エピローグ
――side. 井神 凉――
深夜の寝室。
部屋に敷き並べられた布団の中から静かに体を起こし、暗闇に目を慣らしながら周囲を見渡した。
玲茄、茉依、悠希。
三人が、穏やかな寝息を立てて眠っている。
いよいよ高校生活もあと一年。
だが、大学受験という現実的な試練は、もう数か月もすれば本格的に動き出す。
絶対に踏み外せない道だ。俺たち四人が、この先ずっと一緒に居続けるためには。
大学など、ただの通過点だ。その先に、本番がある。
不安はない。俺たちならやり遂げられる。
手を伸ばし、三人の髪に順番に触れ、優しく撫でる。
指先に伝わる柔らかな感触が、ふと、記憶の奥底に沈む時間を呼び起こす。
まだ"今の俺たち"になっていない、"中学一年の俺たち"の姿を。
玲茄。
この三人の中で最初に距離が近づいたのは、玲茄だ。
中学一年のあの日。玲茄は俺に、こう言った。『――"友達"になりましょ?』と。
悠希。
俺が救い出した、双子の片割れ。
仲良くなった順番で言えば、一番最後。最初はただの、茉依の、妹。本当に、それだけの存在だった。
茉依。
悠希の姉。出会った当初は、悠希と外見こそ瓜二つだったが、中身はまるで違っていて。
そして……俺の、"初恋の相手"、だった。
俺がまだ、世間にあふれる"名前のある関係"しか知らなかった頃。
どうして俺たちが今の歪な形に行き着いたのか。
一人の男の欲望。
一人の女の嫉妬。
二人の女の依存と、信仰。
それらがどうしようもないほどに絡み合い、この形となった。
まだ夜明けまでは時間がある。
……少し、あの日のことを思い返してみようか。
――side. 宮藤 玲茄――
髪を撫でる優しい感触に、浅い眠りの底から意識が引き上げられた。
そっと薄目を開けると、隣で身を起こした凉が、暗い窓の外を見つめていた。
その横顔には、どこか遠くを懐かしむような、静かな色が浮かんでいる。
私には、彼が今、何を考えているのかなんて手にとるようにわかる。
この箱庭の盤面が整った今。
きっと、私たちがまだ普通の中学生だった頃の……この歪な関係に行き着くまでの過程を、頭の中で反芻しているのでしょう。
彼は賢いけれど、少しだけロマンチストなところがある。
おそらく、私たちの抱えていた感情が、複雑に絡み合って"この形になった"と思っているはず。
――いいえ。
自然にそうなったわけじゃない。
私が、この形に、固めたの。
誰一人欠けないように。そして、誰も逃げ出せないように。
一つ一つの歪な感情を掬い上げ、崩れないよう鋳型へと流し込んだのは、他でもない私自身。
凉の背中を見つめたまま、ゆっくりと目を閉じる。
あの愛おしくも危うかった日々のことを。
……私も少し、あの日のことを思い返してみようかしら。
第八章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
幕間エピソードを挟んだのち、第九章を開始します。
第九章についてですが、更新まで少々お時間をいただきます。そこまで期間をあけないようにしたいと思っていますので、更新再開の際はよろしくお願いします。
(幕間エピソードは、4/17公開予定です)
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