いつも通り、また明日
――side. 井神 凉――
日曜日の夜。
夕食を終えて、食器も片付いて、テレビの音だけが環境音のようにリビングに流れている。
そろそろ風呂の時間だな、と思った、その時だった。
「ねえ」
開いていたノートをパタンと閉じながら、茉依が思いついたような、あるいは最初から決めていたような声で言った。
「今日はさー、みんなで入らない?」
一瞬、思考が止まる。
「……風呂にか?」
俺が聞き返したのと、ほぼ同時だった。
「いいわね」
「賛成です」
玲茄と悠希が、ほとんど間を置かずに頷いた。
そこに躊躇いも、気恥ずかしさもない。
「……」
「なんか、嬉しそうね」
「そりゃーそうだよねー。おとこのこだもんねー」
「……凉くんらしいです、そういうところ」
三方向から当然のように包囲され、反論する隙間すら与えられない。
「……先、行ってるからな」
そう降伏のサインを出すのが、精一杯だった。
――
風呂。
立ち込める熱い湯気。
いつもは一人、あるいは二人で使う空間が、今日は四人分の体温と質量で満たされている。
いつもより少しだけ騒がしく。けれど、どこか儀式のように厳かでもあった。
「……洗ってあげる」
「目、閉じてくださいね。沁みますから」
気がつけば、三人に囲まれていた。
肌に触れる手が重なり、石鹸の泡が白く俺の身体を覆っていく。
「……お前らさ」
「なに?」
「何か不満ですか?」
言葉を続ける前に、柔らかな泡と指先がすべてを飲み込んでいく。
甘く、重たい時間が、湿った湯気の中に溶けて消える。
長くは、いなかった。
それでも、四人の境界線を曖昧にして溶かすには、十分すぎるほどの熱だった。
――
布団に入る時間が、いつもより少し早い。
明かりを消せば、そこはもう誰の目も届かない深海になる。
誰からともなく、四人の距離がゼロになる。
四つの鼓動が、一つのリズムを刻むように布団の中で重なり合う。
「……日曜、終わっちゃうね」
「明日から学校かー。やだなぁ」
「早いです。ずっと、このままならいいのに」
意味のない、子供のような言葉。けれど、それは四人全員の切実な祈りでもあった。
会話はそれきり。
あとは、いつもの流れに身を任せる。
互いの呼吸を確かめ合いながら、意識はゆっくりと深い場所へ沈んでいった。
――
目を覚ますと、すぐ隣に誰かの体温を感じた。
まだ、外からの光は届いていない。
朝と呼ぶには早く、夜が完全に終わったとも言えない、淡い藍色の時間。
昨日までの出来事が、ゆっくりと頭の中で形を取り戻していく。
日曜。外の世界から切り離され、俺たちだけの時間が流れていた一日。
だが、月曜が来る。
外側が、また俺たちを"普通の高校生"として扱い始める時間が。
それでも、不思議と胸の奥は静かだった。
この布団の中で共有した熱が、明日を生き抜くための"骨組み"になっているのがわかるから。
「ふぅ……」
小さく吐いた息に反応したのか、隣の気配がわずかに動いた。
誰かの指先が、無意識に俺の指を掴む。
カーテンの向こうで、春の朝がゆっくりと準備を始めている。
四人でいるための、新しい一日が。
――また、日常が始まる。




