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第一章・エピローグ
――side. 井神 凉――
春が、少しだけ歩みを進めていた。
朝、玄関のドアを開けたとき、肌に触れる大気の質量がほんのわずかに軽く感じられた。
「暖かくなってきたわね」
「そうですね」
「もうコートいらないかもー」
そんな取り留めのない会話を交わしながら、いつもの通学路を歩く。
誰かが前を歩き、誰かが少し遅れる。だが、歩みを進めるうちに自然と引力が働き、気がつけば元の距離感へと収束している。
「そういえばさー」
「なに?」
「来月発売のアレ、買う?」
取るに足らない話題。
今すぐ決断を下す必要のない、無意味な情報のやり取り。
俺たちは、誰一人置いていかない一定の速度を保ちながら、並んで歩き続ける。
外側の世界は、少しずつ変わっていく。
季節も、環境も、周囲を取り巻く人間たちも。
でも――
俺たちの内側は、まだここにある。
変わらないことを、特別に誇るつもりはない。
ただ、この"日常"を手放す理由が、見当たらないだけだ。
校門が見えてきて、いつもの朝が始まる。
今日も、四人で。
一章の最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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