校門の前で
――side. 井神 凉――
朝。
四人で並んで、いつもの道を歩く。
時間も、距離も、会話の量も変わらない。
「今日、英語あったよね」
「小テストじゃなかった?」
「そうです」
そんな、どうでもいいやり取り。
校門が見えてきた、その時だった。
――なにかが立っている。
門の少し手前。
一人の男子生徒が、落ち着かない様子で突っ立っている。
一年生だろう。
制服がまだ新しく、視線が定まっていない。
俺たちに気づいた瞬間、
その男子の肩が、わずかに跳ねた。
「……あ」
足が止まる。
というより、
止まったのは、俺たちじゃない。
周囲の空気だ。
――side. 一年生女子生徒――
「あれ、なに?」
誰かが小声で言った。
校門前で立ち止まる男子。
そこに向かって歩いていく四人。
組み合わせが、噛み合っていない。
――side. 井神 凉――
「……」
こうなれば、もう展開はわかりきっている。
まだわからないのは、だれなのか、だ。
男子は、一歩前に出た。
「あ、あの!」
声が裏返っている。
視線の先は、
四人の中の一人――茉依。
「……え?」
一瞬だけ、茉依が目を瞬かせた。
だが、歩みは止めない。
四人はそのまま、男子の前に立った。
距離は、近い。
逃げ場がないのは、
どちらか分からなかった。
「あの……好きです!」
校門前。
人の流れの中。
はっきりとした声。
「付き合ってください!」
一拍、間が空いた。
――
驚きは、なかった。
というより、
答えが出るまでの時間が、短すぎた。
「ごめんなさい」
茉依が、即座に言った。
声は落ち着いていて、
言い淀みも、迷いもない。
「付き合えません」
理由は言わない。
視線も逸らさない。
冷たくもない。
優しくもない。
ただ、確定した事実。
周囲が、ざわつく。
「あ……」
「え、マジ?」
「今の、告白?」
男子は、言葉を失っていた。
「……俺、あきらめませんから!」
絞り出すように言って、
そのまま駆け去っていく。
残されたのは、
四人と、
見られていた、という感覚だけ。
「……行こ」
玲茄が、何でもなかったように言う。
「うんー」
「そうですね」
誰も振り返らない。
校門をくぐる。
いつもと同じ動線。
――なのに。
背中に、視線が刺さる。
――side. 一年生女子生徒――
「断るの、早くない?」
「即答だったね……」
「でもさ」
「どう考えても無理じゃない?」
理由を、探そうとする人はいなかった。
――side. 井神 凉――
教室に入る。
鞄を置いて、席に着く。
「うー、小テスト自信なーい…」
「少し復習しましょう」
茉依は、いつも通りだった。
特別な反応もない。
話題にする気配もない。
四人の中では、
もう終わった出来事だった。
――ただ。
それを見ていた人間が、
確かにいた。
校舎の別の階。
上級生の視線が、
校門の方、先ほどまで空気が変わっていた場所に向いている。
「……さっきの、見た?」
「見た」
「へえ……」
興味なのか、
好奇心なのか、
それとも――
まだ、分からない。
ただ一つ言えるのは。
あの告白は、
四人に何も残さなかった。
残ったのは――
外だった。




