休日は、境界線がない
――side. 井神 凉――
土曜の朝。
目を覚ますと、まだ家の中は静かだった。
昨夜泊まったのは玲茄だ。
「……起きてる?」
寝返りを打った拍子に、腕が俺の胸に回ってくる。
無意識だ。いつものこと。
「まだ」
「そっか」
それだけ言って、また目を閉じる。
素肌の熱が、昨夜の余韻を感じさせる。
平日なら、ここで終わりだ。
支度をして、各自家に帰って、登校する。
でも今日は――休日。
誰も、帰らない。
――朝
十時前には、全員が揃う。
「おはよー」
「朝ごはんどうする?」
「昨日の残りでいいですか?」
誰かが泊まっていたとしても、
他の二人が遠慮することはない。
朝食と片付けが終わると、
リビングのソファは自然に埋まり、
俺の肩に誰かが寄りかかる。
今日は、
茉依は俺の右隣。
悠希はその反対側。
玲茄は俺の足の間に入り込む形で座り、背中を預けている。
「……近くない?」
「休みだし」
「です」
理由にもなっていない理由で、
全員が納得する。
――
休日の俺たちは、距離を測らない。
視線が合うと、自然に距離が詰まる。
唇に触れるだけの、ついばむようなキス。
深くはしない。けれど、回数が多い。
それは確認作業みたいなものだった。
ここにいる、という証明。
「ねえ、出かけよ」
「どこ行く?」
「とりあえず外」
決まれば、全員で動く。
――
街を歩く四人は、やはり目立つ。
だが、誰も気にしない。
「クレープ食べたい」
「半分こね」
「はいはい」
買い物も、映画も、
何をするにも一緒。
誰かが一人になる、という選択肢がない。
「……え、なに?」
「撮影じゃない?」
通りすがりの声が、はっきりと聞こえた。
振り返る人。
立ち止まってスマホを構える人。
カメラを探すように周囲を見回す人。
「テレビ?」
「モデルかなんか?」
理由を探す視線が、
次々とこちらに向けられる。
――もちろん、なにもない。
ただ四人で歩いて、
ただ四人で笑って、
ただ四人で一緒にいるだけだ。
そのまま通り過ぎれば、
ざわめきは背後に置いていかれる。
俺たちにとっては、
休日の外出の一場面でしかなかった。
――夜
風呂の時間になる。
休日は決まっている。
三人でじゃんけんして、勝った一人が俺と入る。
順番ではない。
特別扱いでもない。
湯気の向こうで、触れる肌と、視線と、呼吸。
それ以上のことは、言葉にしない。
けれど、何も起きていないわけがないことだけは、全員が知っている。
夜になれば、布団が並ぶ。
灯りは早めに消される。
誰がどこにいるかなんて、意味を持たない。
触れていることが前提だから。
肌に感じるぬくもりが、いつもより多く。
いつにもまして湿気を帯び、熱い。
そして、夜は静かに、深く進んでいく。
――月曜日の朝
だんだんと空が白み始めてきた頃。
全員が起きて、
一度、それぞれの家に帰る準備をする。
「じゃ、また後で」
「じゃあねー」
「今日は小テストです」
玄関で別れて、
それぞれの家に戻る。
数時間後。
また、四人で並んで登校する。
平日は、少しだけ外に合わせている。
休日は、完全に内側だけで完結する。
でも――
どちらも、俺たちだ。
変わっていない。
何一つ。
学校が始まれば、
また“いつもの四人”になる。
それだけのことだ。




