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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第一章 四人でいることが、日常だった
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境界線のない四人

 ――俺たちは。

 恋人とも友達とも言い切れない関係のまま、"四人でいること"を日常にしていた。



 ――side. 井神 凉(いがみりょう)――


 俺は今日も、家から少しだけ歩いた先にあるコンビニの前で立ち止まっていた。


「おはよ、凉」


 不意に背中へ、柔らかな体重が預けられる。


 宮藤玲茄(みやふじれな)だ。

 ナチュラルなセミロングの髪に、健康的な薄褐色の肌。

 百七十センチという女性にしては高めの身長と、年齢以上に大人びたスタイルを持っている。


 俺の右肩のすぐ横に顔を寄せ、彼女はわずかに細めた瞳でこちらの反応を確かめるように、静かに見つめてきた。

 吐息がかかるほど近い。けれど、それは今に始まったことじゃない。


「……正面がいいな」

「それはあさってまでおあずけ」


 からかうような響きに、俺は小さく息を吐いてその距離を受け入れた。


「おはようございます、凉くん、玲茄」


 中里悠希(なかさとゆき)が、丁寧な声で挨拶をしてくる。

 中里姉妹の妹の方。色白で清楚な印象で、黒髪を――正式名称はわからないが、本人は「ぱっつんロングです」と言っていた――綺麗に切り揃えている。


「りょーくん、れなっち、おはよー!」


 少し遅れて、中里茉依(なかさとまい)が大きく手を振りながら小走りでやってきた。

 中里姉妹の姉の方。

 一卵性の双子だから顔の造作は瓜二つだが、明るいブラウンのミディアムボブとギャルっぽい雰囲気のせいで、受ける印象は妹とまるで違う。


 今日の茉依は、朝からひどく機嫌がいい。

 まぁ、その理由はよくわかっているのだが。


 この姉妹、身長は同じ百六十センチ。

 体型も整っているが、細部は意外と違う。

 服の上からではわからない、わずかな双子の差異。……それを指先や肌で知る機会が、俺は他の人間より少し、いや大分、多かっただけだ。


 四人が揃うと、俺たちは自然な塊になって学校へ向かって歩き出す。


 校門をくぐるとき――

 すれ違った上級生たちが、ちらりとこちらを見て足を止めた。


「……あれ、また一緒だぞ」

「例の四人だろ。すげえよな、逆に」


 遠ざかる背中から聞こえる囁き。そこに混じっているのは、好奇心と少しの警戒だ。


 だが、俺は特に気にも留めなかった。

 中学の頃から、ずっとこの形だ。

 変わらないまま、ここまで来ただけ。


 ――だから今日も、俺たちは同じように歩いている。



 ――side. クラスメイト――


 また今日も、四人一緒だ。


 井神、宮藤、それから中里姉妹。

 教室に入ってくるその並びを見ると、なぜだか空気が少しだけ落ち着く。


「おはよー」

「今日もいつも通りだな」


 誰かがそう言って、軽く笑いかける。

 その声に、棘はない。


 一年の頃は、正直言って奇妙だった。

 距離感も、雰囲気も、どこか普通じゃなかったから。

「井神は三人と付き合ってるらしい」とか「いや、ただの幼馴染だろ」とか、いろんな噂が立ったし、遠巻きにひそひそと囁かれることもあった。


 でも――

 二年になっても、その関係は全く変わらなかった。

 揉めることもなく、誰かが傷ついて泣くような修羅場もない。むしろ、四人でいるときの方が、彼らは自然に見えたのだ。


 気づけば、誰も彼らを茶化さなくなっていた。

 疑う理由も、指摘する理由も、どこにもなくなったからだ。


「いいよな、ああいうの」

「うん……見てて、なんか気持ちいい」


 そう感じている生徒は、実際のところ多い。


 普通じゃない、という認識はクラスの全員が持っている。

 ただの友達とは違う。

 かといって、恋人と言い切るには枠に当てはまらない。

 じゃあ何なのか、と聞かれると、誰もはっきり言葉にできない。


 手が届かないほど遠くて、踏み込めないほど綺麗で、でも――


 それ以上に、彼らの間にあるものが"絶対に壊れない"ということが伝わってくる。


 だから、倫理とか理屈よりも先に、直感で思ってしまうのだ。

 ――あの四人で、すでに完璧な"ひとつの世界"なんだと。


 他クラスからの好奇の視線や、一部の教師が眉をひそめる理由もわかる。自分たちも最初はそこを通ってきたからだ。


 この教室にいる人間にとって、あの関係性はすでに"不可侵の領域"だ。

 決して触れてはいけないけれどずっと見ていたくなる、奇妙で美しい"芸術作品"のようだった。

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