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四人でいることが、日常だった ――名前のない楽園――  作者: いもたにし
第二章 外側の夏、内側の夏

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湯気の向こう側

――side. 井神 凉――


――朝


朝食を終えたあと、今日の予定を軽く共有する。

予定といっても、おおまかな観光地をスポットで拾い、現地に着いたら自由行動のようなものだった。


外に出て、海沿いの道を進む。


砂浜は、変わらず賑わいを見せている。

昨日、あの中に溶け込んでいたはずなのに、どこか他人事のように思えた。



――


観光地というだけあって、人が多い。

予想はしていたが、外国人観光客をたくさん見かける。


「話しかけられたら、悠希か優花に任せるね」

「右に同じー!」

「スワヒリ語だけ私担当します」

「それ、ボクの出番しか回ってこないじゃないか…」


冗談みたいなやり取りをしながら、六人は人の流れに乗りつつ、散策を開始した。


土産物屋。

路地裏の小さなカフェ。

展望台へ続く坂道。


目的としている場所はない。

ただ、気になった場所に立ち寄って、それぞれ好きなものを見て、買って、食べる。


歩くときの四人と二人。

止まったときの四人と二人。

自然と、流れるように入れ替わるその境界線を、俺は無意識に目で追っていた。


昼を過ぎる頃には、足も、頭も、ほどよく疲れていた。



――


その後、夕方前まで観光を楽しみ、一度別荘へ戻るため、海沿いの道を引き返す。

日差しは少し和らいで、空の色が、ゆっくり変わり始めていた。



――夜


これから向かうのは、近くの温泉だ。

各自準備し、再度集合する。


「隆一、ふんどしは持ったか」

「井神くん、ボクが持っているから問題ないさ」

「…お前らほんとノリいいね」


そんな軽いやり取りのあと、再び外へ出た。



――


温泉は、想像以上に広かった。

木の香りと、白く立ち込める湯気。


男湯と女湯に分かれる前に、短い言葉を交わす。


「じゃあ二人とも、またあとでね」

「よーし茹だるぞー」

「使い方間違ってますよ」

「先に上がった方が、場所を取っておこう」


男湯の暖簾をくぐり、脱衣所で服を脱ぐ。


隆一の身体は、やはり目立つ。

鏡に映った自分の姿を見て、軽くポーズを決めている。


「……相変わらずだな」


思わず言うと、隆一は笑いながら肩をすくめた。


身体を軽く流してから、湯に浸かる。

熱すぎず、ぬるすぎず。


肩まで沈んだ瞬間、張り詰めていた身体の力が、お湯に溶け出していく。


――side. 綿部 隆一――


湯気の向こうで、凉が、ぼんやり前を見ている。


あの顔は、頭の中で考えを巡らせているときの顔だ。

こいつは時々、ああいう顔をする。


凉を見ていると、ふと中学の頃を思い出す。


一年の時は、こいつとの接点はなかった。

クラスが違ったし、廊下ですれ違っても、少し目立つイケメン野郎がいるな、と思う程度。


四人の中で最初に接点があったのは、悠希だった。

といっても、当時はまだ付き合っていない優花と悠希がよく一緒にいたから、その輪に必死に混ざろうとしていただけだが。


一年の終わり頃、悠希がしばらくの間、学校を休んだ。

優花に聞いても、詳しい理由はわからないという。


ただ、休み始める直前に、

彼女が大切にしていた祖母が亡くなった、という話だけは聞いていた。


二週間ほどして、悠希は登校してきた。


その日からだ。 あの四人が、あの形になったのは。


今と変わらない、あの"四人だけの世界"。


当然、学校では噂になった。

四人がずっと一緒にいることへの、好奇の目や、根も葉もない憶測。


そんな声が飛び交うなか、春休みに入る前日、俺は優花と恋人になった。


二年になり、クラス替えで、四人と俺たちが一緒のクラスになった。

現在、高校でも続いている、この組み合わせ。


学校生活はいたって真面目。

成績も、友人関係も良好。


ただ、四人という異質な構造だけが、静かに際立っていた。


最初こそ、俺も気にはなっていた。

優花に、そのことを軽く尋ねたこともある。


「本人たちがいいなら、それでいいじゃないか」


優花のその一言で、俺の心は決まった。

そこからは自然と仲良くなり、今ではこうして旅行に来るまでの関係だ。

昨日のナンパ野郎の時のように、目だけで通じ合える、かけがえのない友人。


湯の中で、手を軽く握る。


凉を含めたあの四人の関係性は、確かに異常だ。

普通じゃない。説明も、理解もされにくい。


境界線のない四人と、線を引きあった俺たち。


俺にだって、彼らのすべてを理解するのは無理だろう。


でも――


俺は、ああいう形で、ただ静かに存在しているあいつらが、嫌いじゃない。

むしろ、いい友人を持ったと思っている。


それでいいじゃないか。



――


「……どうかしたか?」


いつの間にか、凉が俺の方をじっと見ていた。

俺は小さく笑って、首を振る。


「なんでもねぇよ。……ちょっと、のぼせたかもな」


湯気の向こうで、水の音が、規則正しく響いている。


俺は、その音に身を預けるように、再び目を閉じた。

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