不自然で、自然な距離感
――side. サラリーマン――
連休初日の朝。
通勤時間帯を少し外した電車は、平日とも休日ともつかない、曖昧で緩慢な空気をまとっていた。
スーツ姿はまばらで、代わりに目立つのはラフな服装と、それに見合わない大きな荷物。
指定ジャージに身を包んだ学生。
これから街に繰り出すであろう若者のグループ。
旅行用のバッグを足元に置いた家族連れ。
それぞれが違う予定を抱えながら、同じ車両の揺れに身を任せている。
電車が加速する。
それに合わせて、車内の吊り革が一斉に、かすかに乾いた音を立てた。
窓の外では、見慣れた街並みがいつもと同じ速さで流れていく。
何気なく視線を外から車内へ戻した、その時だった。
妙に、目に引っかかる一団がいた。
騒いでいるわけではない。声を張り上げているわけでもない。
それでも、周囲の乗客が一度はそちらを見て、そしてもう一度、確認するように視線を戻してしまう。
違和感の正体は、はっきりしていた。
彼らの"並び方"だ。
女子四人、男子二人。計六人の高校生グループ。
本来ならそう認識すべきはずなのに、視界には"四人で一つの塊"と"それに付随する二人"という構図で映る。
一度意識を逸らし、瞬きをしてから見直しても、やはり結果は同じだった。
中心にいる男子一人と、彼を取り囲む女子三人。
その四人が、まるで一つの質量としてそこに存在している。
距離が、異常に近い。
肩と肩が触れ合い、腕の布地が重なっているのに、誰もそれを気に留める素振りすら見せない。
電車がカーブに差し掛かり大きく揺れた瞬間、示し合わせたわけでもないのに、四人の重心がまったく同時に傾いた。誰の足も踏まず、誰の姿勢も崩さず、まるで水が流れるように隙間が詰まり、また滑らかに元の空間が空く。
視線すら交わさない。誰かがわずかに体勢を変えれば、残りの三人も無意識のうちに位置を調整する。
それはまるで、”一つの神経を共有している生き物"のような、異様なまでの"調和"だった。
そして、その外側に二人がいる。
大柄な男子と小柄な女子。四人との間には、明確な物理的距離がある。けれど、仲間外れというわけではない。
防波堤のように四人を囲う位置に立つ二人は、ごく自然に、けれどどこか保護者のような眼差しでその"塊"を見守っている。
小柄な女子が、窓の外を流れる景色を見ながら柔らかく笑っていた。
だが、四人の方へ視線を移した瞬間、その横顔がふと、変わる。
ほんの一瞬。
驚きでも不安でも、警戒でもない。
何かを思い出したような、あるいは、胸の内で何かを確かめたような、酷く冷静で透き通った瞳。
だが、すぐにそれは消えた。
彼女は小さく息を吐き出すと、再び元の穏やかな笑顔に戻り――四人の"塊"を愛おしそうに見つめていた。
電車が大きく揺れ、次の停車駅を告げるアナウンスが流れる。
六人は、そのままの配置で立っている。
特別な出来事は、何一つ起きていない。
だが、なぜか、網膜の裏側にその光景がこびりついて離れない。
彼らの目的地は、まだずっと先のようだった。




