それぞれの、内側
――side. 宮藤 玲茄――
夜。
凉の家の洗面所で、髪を乾かしながら思う。
特別なことは、何もない。
誰かに奪われる不安も、
誰かを疑う気持ちも、
最初から存在していなかった。
凉がそこにいて、
他の二人がいて、
それで成立している。
「……うん」
鏡の中の自分に、
確認するように小さく頷いた。
――side. 中里 茉依――
放課後、帰り道。
少し前まで、
自分に向けられていた視線の名残が、
もうどこにもない。
――私は、揺れなかった。
ただ、最初から決まっていた場所に、
立ち続けていただけだ。
無意識に、三人の名前を呼んでいた。
前に三人の顔が見えた。
もう、それだけで良かった。
――side. 中里 悠希――
夜、布団の中。
少しだけ、目を閉じたまま考える。
外からどう見えるか、
どう言われているか。
気にしないわけではない。
でも、それで内側が変わることはない。
「……静かですね」
誰に向けるでもなく、呟く。
この関係は、
説明を必要としない。
理解されなくても、成立している。
それが、心地いい。
――side. 井神 凉――
リビング。
三人がそれぞれ別のことをしている時間。
同じ空間にいるけれど、
会話はない。
それでも、
不安になる理由がない。
守るとか、支えるとか、
そういう役割分担もない。
ただ、
同じ場所にいる。
それだけで、
十分だと分かっている。
「……」
ソファに深く座り直す。
――
誰も、言葉にしない。
誰も、確かめ合わない。
でも、全員が知っている。
外側で何が起きても、
内側は、変わらない。
この関係に、
山場はない。
明日も四人で、家に帰ってくる。
いつもの夜が、やってくる。




