18.アルマスに下されたもの
年末のお泊りのときにはロヴィーサ嬢がマジックポーチに大量に食材を入れて王城に持って行った。
どの食材もマンドラゴラの葉っぱを揉み込んで、蕪マンドラゴラのエーメルが歌って毒素を抜いていたので、父上とも一緒に食べられるようになっていた。
今回のお泊りで父上が僕とロヴィーサ嬢にお願いしてきたのだ。
「厨房の料理人は説き伏せたので、エドとロヴィーサ嬢が作った料理を家族で食べることはできないか?」
「わたくしが作らせていただけるのですか?」
「宰相にも了承は取っている」
ロヴィーサ嬢が驚くのも無理はない。
国王陛下の食事となると、毒になるものが入っていないように厳選された信頼のおける専門の料理人が作っている。王城の厨房というのがそれだけ他者を寄せ付けない強固な守りの中にあるというわけだ。
そこにロヴィーサ嬢が入るだけでなく、国王陛下である父上の食事まで作ってしまう。
それは重大事だった。
「私もエドと同じものを食べたい。エリアスもエルランドも同じものを食べられるのだろう? エドとロヴィーサ嬢が負担でなければお願いしたい」
父上に頭を下げられて、僕とロヴィーサ嬢は嫌といえるはずがなかった。
父上やエリアス兄上やエルランド兄上の分も充分賄えるように大量に食材を持って行く。
マジックポーチの中に入れておくと、食材は傷むことがないので安心だ。
ロヴィーサ嬢と準備を整えて僕は王城へ飛んだ。
王城では父上とエリアス兄上とエルランド兄上が頭を突き合わせて話し合いをしていた。
「アルマス殿をどうするかだな」
「モンスターの肉から毒素を抜く技術を開発したということは、魔族の国からも非常に評価されています」
「我が国でも飢饉の折りには、モンスターを食べるしかなくなるかもしれない。そのときに非常に役立ちます」
飢饉の問題を僕は考えていなかったが、飢饉で食べるものがなくなった場合に、この国は隣国から援助は受けられるが、魔族の国からはこれまでは援助は受けられなかった。
魔族の国で食べられているものがこの国の人間には有害になるものだったからだ。
それが魔族の国からも援助を受けられるとなると、飢饉の問題がかなり解決する。
その上、飢饉でもしぶとく生き残っているモンスターを人々に食べさせるということができるのだ。
アルマスの開発した技術はこの国を飢饉から救う技術でもあった。
飢饉の問題は国にとって大きなものだ。それを救う技術となると、評価されておかしくはない。
「飢饉問題を解決する技術を開発したのだったら、子爵くらいは授けていいかもしれないな」
「アルマス殿はエドの一つ年上。まだ年若いので、両親に子爵の位を与えるのがいいでしょう」
「子爵として屋敷と土地も与えねばなりませんね」
平民だったアルマスが子爵の子どもになる。
アクセリもアンニーナも子爵の子どもとして育てられるので、暮らしはかなり楽になるだろう。
父上とエリアス兄上とエルランド兄上の取り決めを聞いて、僕は安堵していた。
「エド、アルマス殿とその家族を新年のパーティーに呼ぶのだ」
「心得ました」
「エドの学友が貴族になれるのはいいことだ」
「エリアス兄上、ありがとうございます」
「エドも嬉しそうでよかった」
「エルランド兄上も考えてくださってありがとうございます」
アルマスに手紙を書いて、僕は爺やに託した。
その日の晩ご飯は、ロヴィーサ嬢と一緒に王城の厨房を使わせてもらって作った。
僕の大好物の新鮮な白身魚のフライと、カルパッチョサラダと、キノコとワカメと卵のスープ。
父上の前にも同じものが並んでいる。
「とても美味しそうだ。魚のフライにかかっているソースはなんだ?」
「タルタルソースといって、卵とピクルスで作ったソースです」
「初めて食べるな」
「ロヴィーサ嬢、エド、いただきます」
「お刺身も食べられるのですね」
父上もエリアス兄上もエルランド兄上も子どものように目を輝かせている。
白身魚にはたっぷりのタルタルソースをつけて食べるととても美味しいし、カルパッチョは味付けが絶妙だ。スープは片栗粉で少しだけとろみをつけてあって、体が温まる。
美味しい晩ご飯を食べた後で、父上に僕は聞かれた。
「魔族の国でエドはロヴィーサ嬢と同室になったようだが、王城でも同室にするか?」
「そ、それは……僕が考えなしなところがあったのです。ロヴィーサ嬢は僕の部屋とは別にしてください」
「ロヴィーサ嬢ももう王族のようなもの。エドの使う部屋の隣りの客間を使ってもらおう」
「よろしいのですか?」
「部屋が離れるとエドが寂しがるだろう」
父上の計らいで、僕はロヴィーサ嬢と隣りの部屋になった。
僕が部屋に入ると、ロヴィーサ嬢がドアをノックして部屋に入って来る。
「宿題を見なければいけませんね」
「年末までありがとうございます。来年もよろしくお願いします」
「エド殿下の勉強を見るのは楽しいのですよ。エド殿下と一緒にいることができます」
少しの時間でも僕と一緒にいたいと思ってくれるロヴィーサ嬢に、僕は愛情を感じて胸が温かくなった。
年明けのパーティーにはアルマス一家も参加した。
アルマスの両親は服を借りて来たのだろうが、貴族の中ではどうしても貧相に見えてしまうし、アルマスもアクセリもアンニーナも王城でのパーティーの雰囲気にのまれていた。
父上が挨拶をする。
「エリアスが一年間の留学を終えてこの国に帰って来た。入れ替わりに、高等学校を卒業したらエルランドも魔族の国に留学する。魔族の国と我が国の繋がりもますます深くなることだろう」
手招きされてアルマスの一家が前に出る。
両親と弟妹を守るように一番前に出たアルマスが、膝をついて頭を下げる。
父上は軽く頷きながら「顔を上げよ」と声をかけた。
「アルマス、そなたはモンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く技術を開発した。これは魔族の国と繋がりの深い我が国にとってはとても重要なことだ。飢饉の際には魔族の国から送られて来る援助を、我が国が受け取れるようになった」
アルマスの開発した技術はまだ正式に公表されていなかったので、貴族の中にざわめきが起きる。
モンスターの肉や魔力のこもった食材から毒素を抜く技術が確立されたことは、今公になった。
「それだけではない。我が国が飢饉に陥った際には、人々がモンスターの肉や魔力のこもった食材を食べることで命を繋げる可能性を見出した。そなたは、この国を飢饉から救う方法を見出したと言っても過言ではない」
父上の言葉にアルマスは驚いている。
アクセリのモンスターを食べたいという興味と、アンニーナの魔族の国に行っても平気になりたいという欲望から始めた実験がこんな結果になるとは思っても見なかったのだろう。
「魔族の国からも恩賞を送ると伝達が来ている。我が国からもそなたの功績を讃えたい。まだアルマス自身は未成年なので、アルマスの両親に子爵の地位を与え、屋敷と土地を与えよう。また、アルマスはハーヤネン公爵家のヘンリッキに婚約を望まれていると聞いている。アルマスにその意思があるのならば公爵家に婿入りする権利も与えよう」
ヘンリッキとのことも父上は知っていて、アルマスの功績の成果として権利を与えると言っている。
驚いていたアルマスは、こくりと唾を飲み込んで、深々と頭を下げた。
「お受けいたします」
「これより、アルマスは、バックリーン子爵家の息子として、アルマス・バックリーンと名乗れ」
「承知いたしました」
平民は名字がないのだが、アルマスに名字ができた。
貴族の名字は基本的に土地由来のものがほとんどだ。ミエト家はミエト領の領主だからミエト家なのだ。ハーヤネン家も同じく、ハーヤネンという土地の領主だからハーヤネン家と代々名乗っている。
バックリーン家ということは、アルマスはバックリーンという土地を与えられると決まっているのだ。
国王陛下である父上の話が終わると、アルマスが立ち上がって気絶しそうになっているご両親とアクセリとアンニーナの方を見ている。
「私たちはバックリーン家になりました、父上、母上」
「は、はい。光栄なことです」
「私たちでやっていけるでしょうか?」
「それは国王陛下の取り計らいもあるでしょうから、大丈夫でしょう」
必死にアルマスとご両親が敬語を使っているのが分かる。
ここが公の場だと分かっているのだ。
基本はできているのではないかと僕は安心する。
これから貴族となるアルマス。
未来は明るいのではないだろうか。
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