17.お祖父様とお祖母様に会いに
魔族の国に行くのは、魔法石があるので比較的容易にできる。
僕とロヴィーサ嬢はスーツとドレスに着替えて、爺やと共に魔族の国の王城に飛んだ。
王城に入ると、爺やがお祖父様とお祖母様に取り次いでくれるように話をしてくれる。
お祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上に会うと、僕は抱き締められて歓迎された。
「エドヴァルド、よく来てくれたね」
「また背が伸びたのではないですか? この年齢の男の子は成長が著しい」
「エドヴァルド、苺はどうだったか?」
次々と声をかけられて、僕は順番に答える。
「お招きいただきありがとうございます、お祖父様。背は少し伸びたかもしれません、お祖母様。苺はとても美味しかったです。父上と学友のアルマスとその弟のアクセリと妹のアンニーナと食べました」
一気に答えた僕に、ダミアーン伯父上がアーモンド形の目を見開く。
「あの苺を、エンシオ殿と、アルマス殿とアクセリ殿とアンニーナ嬢が食べたのか!?」
ダミアーン伯父上の驚きもよく分かる。魔力のこもった苺は常人には毒になりうる恐ろしいものだからだ。
僕は最初から説明をすることにした。
「アルマスの弟のアクセリが、魔力のこもったものを食べてみたいと言ったのです。アンニーナも食べたがっていました。それで、魔力のこもったものを常人が食べられるように毒素が抜けないか、実験をしたのです」
実験の結果として、アルマスとアクセリとアンニーナは成功し、魔力のこもったものが食べられるようになった。
「どのような方法なのだ? ぜひ聞いておきたい」
お祖父様が興味を持って身を乗り出す。
僕は説明を続けた。
「食材にマンドラゴラの葉っぱを混ぜるのです。その後で、マンドラゴラに歌わせると、その場が魔力に満ちて、魔力のこもった食材から毒素は抜けていました」
「なるほど。使えそうな手段だな」
「この国でも、旅人や留学生が魔力のこもったものを口にしてしまう事故は絶えません。その方法があれば、旅人や留学生向けの店はもっと安心して料理を出せるのではないでしょうか」
お祖父様もお祖母様も僕の伝えた方法に理解を示し、それを利用する方向で考えていた。
アルマスとアクセリとアンニーナが成し遂げたことはそれだけ大きなことだったのだと改めて実感する。
魔族の国においても、その技術は重宝された。
「アルマスとアクセリとアンニーナに、何か与えたいのだが、何がいいだろう?」
ダミアーン伯父上が提案するのに、僕が持っている答えは一つだけだった。
「アルマスとアクセリとアンニーナは平民で、貧しい暮らしをしています。アルマスはハーヤネン公爵家に婿に来てもらえるように願われています。アンニーナはダミアーン伯父上とのことを本気にしています。三人のために、貴族の地位がもらえないものでしょうか?」
アルマスとアクセリとアンニーナに必要なのは、貴族の地位だと思うのだ。僕の考えにお祖父様もお祖母様もダミアーン伯父上も難しい表情になっている。
「他国の政治に口出しするわけにはいかないからな」
「それでも、彼らが研究したことが我が国の利益に繋がることには変わりありません。異国からこの国にやってくるものは多くいるのです。その者たちの命を救うことができるではないですか」
「エンシオ殿と話してみて、魔族の国からも後押しすると伝えましょうか?」
「ダミアーン、頼めるか?」
「お願いしますよ、ダミアーン」
「心得ました」
ダミアーン伯父上が父上に働きかけて、アルマスとアクセリとアンニーナの件に関して事態が動きそうだった。
「魔力のこもった食材から毒素を抜くところを見せてくれないか、エドヴァルド、ロヴィーサ嬢」
お祖父様にお願いされて、ロヴィーサ嬢がマジックポーチからモンスターの肉とマンドラゴラの葉っぱを取り出した。モンスターの肉にマンドラゴラの葉っぱを揉み込んで、僕が蕪マンドラゴラのエーメルを抱き上げる。
「びーぎょえーびぎょえーびぃぎょわーぎょえー!」
エーメルが歌うと、部屋中が魔力に満ちて来る。
満ちた魔力がモンスターの肉に集まっているのを僕が感じられるのだから、お祖父様もお祖母様もダミアーン伯父上も感じていることだろう。
歌い終わったエーメルに、お疲れ様の気持ちを込めて頭を撫でてから、僕はロヴィーサ嬢を見た。
ロヴィーサ嬢はモンスターの肉をお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上に差し出している。
「毒素が抜けているか、調理してきた方がいいでしょうか?」
「見た感じは変わっていないが、蕪マンドラゴラの歌で部屋が魔力に満ちたのは感じた」
「わたくしもですわ。調理をお願いできますか、ロヴィーサ嬢」
「すぐに行ってまいります」
ロヴィーサ嬢が厨房に行くのに、僕もついて行った。
ロヴィーサ嬢はモンスターの肉の塊を、ローストビーフのようにして焦げ目をつけて焼いてから、蓋をしてじっくりと火を通していく。
出来上がったモンスターの肉のローストビーフ風のものを切って、ソースをかけて、ロヴィーサ嬢はパンと一緒に応接室に持って行った。
待っていてくれたお祖父様とお祖母様とダミアーン伯父上は、それを食べてみる。
「とても美味しい肉だな」
「わたくしたちにとっても美味しいですわね」
「毒素が抜けているかはよく分からないな」
毒素が抜けているかを確かめるために、この国に婿入りしてきた我が国の貴族が呼ばれる。王族の私的な集まりに呼ばれて、貴族の男性は非常に緊張していた。
「この肉はモンスターの肉だが、我が孫エドヴァルドとその婚約者、ロヴィーサ嬢の手によって毒素が抜かれている。食べてみてくれるか?」
「承知いたしました」
緊張で手を震わせながらローストビーフ風の肉を食べた貴族の男性は、最初は硬い表情だったが、すぐに表情が緩む。
「とても美味しいです」
「この方法を使えば、そなたも奥方や子どもと同じものを食べられる。国中にこの方法を広めよう」
「ありがとうございます」
ずっとこの国に来てから魔力のこもったものを除去して暮らしていたに違いない貴族の男性はとても嬉しそうだった。
アルマスとアクセリとアンニーナが発見したこの方法が、魔族の国でも役に立つ。それを実感させられた。
「この技術を開発しただけでも、貴族の地位を与えていい功績だと思うのだがな」
「異国の問題には口を出せませんからね。せめて、その者に恩賞を与えることはできないでしょうか?」
「そうだな。我が国にとっては非常に大きな問題だった。これで助かるものが大勢いる。エドヴァルドの学友に恩賞を与えよう」
アルマスとアクセリとアンニーナの実験が評価されている。
恩賞が与えられたらアルマスとアクセリとアンニーナの生活も少しは楽になるのではないか。
そうなればいいと僕は思っていた。
魔族の国の訪問を終えてミエト家に帰るときに、ダミアーン伯父上も出かける準備をしていた。
「私はエドヴァルドの国の王城に行って来る。エンシオ殿と話をしてくるよ」
ダミアーン伯父上は父上がアルマスとアクセリとアンニーナに貴族の位を与えるように働きかけるつもりである。
「ダミアーン伯父上、どうかよろしくお願いします」
「可愛いエドヴァルドに頭を下げられたのだから、頑張らないといけないね」
ダミアーン伯父上は父上が魔族の国に留学していた頃からの付き合いで、国は違うが王族同士、一番親しい友人といえる。
言いにくいこともダミアーン伯父上ならば父上に言うことができるだろう。
アルマスとアクセリとアンニーナの開発した技術は、魔族の国でも高く評価されて恩賞を与えられるほどになっている。
その事実を突き付けられれば、父上も何かいい策を考えてくれるかもしれない。
ミエト家に帰ってくると、僕は蕪マンドラゴラのエーメルを部屋に放した。魔族の国にいる間はずっと僕が抱いていたので、エーメルは自由がなかったのだ。
移動もしたし、歌も歌ったので疲れたのかエーメルはプランターに走っていく。
プランターに埋まろうとするエーメルに、僕はふと思い出してポーチの中から小瓶を取り出した。
アルマスはマンドラゴラの栄養剤を作ると言っていたが、その試作品が出来上がっていたのだ。
小瓶を見せると、エーメルはプランターから離れて僕のところにやってくる。
ソファに腰かけた僕の膝に乗って、エーメルは小瓶の蓋を開けて中身を飲み始めた。
エーメルの身体が白く光ったような気がする。
小瓶を返すとエーメルは元気いっぱい、部屋中を踊り出す。
アルマスの栄養剤は成功しているのかもしれない。
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