第二百三十六話*鬼が居ぬ間になんとやら
トニトに『浄化』を使ってみた。
『浄化』は言葉のとおり、綺麗にしてくれるスキルだ。
より詳しく説明すると、「汚れや穢れを取り除き、清浄・純粋な状態にする」スキルだ。
洗濯も綺麗にするスキルだけど、『浄化』は洗濯できないものにも効果がある。
特に空間に対してが効果的で、影の世界を浄化して回ったおかげでかなりの範囲に効果がある。
トニト単体だけでも良かったのだけど、トニトにかかっている呪いがなにか分からないし、ウィーが近づいただけで影響を受けていたから、少し広めに設定した。
「『浄化』」
私の言葉に反応して、キラキラとした光が空間に広がった。
ウィーのときはすぐにウィー本人がキラキラ輝いたのに、トニトにかかったのかしら? と疑うほど、なにも反応がない。
「むぅ?」
呪いも祓える効果があるのに、それが効いていない? ということは、思っている以上に呪いが強くて私のスキルでは祓えない?
「どうしたの、リィナリティ?」
ウィーは不思議そうな顔で私の目の前を飛んでいる。
正直、鬱陶しいのだけど。
「ウィー、邪魔しないで!」
「してない。見事に呪いは解呪されたじゃないの」
「ウィー、なにを言ってるのっ? されてないわよ」
「いやいや、キラキラしてるじゃない」
「……ウィー、それはね。あなたがまだキラキラしてるからそう見えているだけよ!」
「なんと! やだわあ、本当のわたしが現れて……っ」
「ウィー、今はそういうのはいいから。問題は目の前のトニトよ」
『浄化』をかけた範囲の、トニトから離れた空間にはスキルが効いてきたみたいで、キラキラと輝き始めた。ということは、スキルはきちんと仕事をしてくれている、ということだ。
呪いが強くて一回の『浄化』では追いついていないということだろうか。
「『浄化』の重ねがけをしてみようと思うの」
「えっ?」
「たぶんだけど、トニトのレベルが高いのと、呪いもかなり強いものなんだと思う。時間があるのなら私のレベルを上げて再チャレンジっていう手もあるけど、どうにかして呪いを解いた方が色々と話が進むと思う」
という私の言葉にウィーはいつも以上の渋面を浮かべた。
「言ってることは分かる、理解してる。そして、それが正しいことも。でもね、リィナリティ。『浄化』はあなたにとても負担がかかると話したわよね?」
「聞いたわよ。さんっざん! 聞いたわよっ! それを前提にして、『フィニメモワールドをすべて『浄化』して』なーんてむちゃぶりを言ってきたわよね?」
「ええ。だって、頼れるのはあなたしかいないのよ」
ウィーはそう言って、うるるんと瞳を揺らした。
「……そ、そんな手に乗るモノですかっ!」
「それも良く聞いたセリフね」
「おまえが言うなっ!」
普段は口が悪いし態度も悪いのに、急に真面目な表情になってウルウルしてきたら、負けるに決まってるじゃないの!
気が強い女性が弱いところを見せてきたら、守らなきゃってなる……よね?
ならない?
「わたしが言うのもなんだけど、ほんっとあんたって騙されやすいわよねえ」
「うっさい! 騙すヤツが悪いっ!」
ウィーの狡猾な罠だって分かってるんだけど、今回は違うかもって信じて、毎回、外れてる。
今回もそうだけど、結局は私はお人好しというか、人が良すぎるというか。
「じゃあ、ここにトニトをこのままにしておく?」
「それは嫌っ!」
「となると、だれかがやらないといけないじゃない。で、ウィーはやらないんじゃなくて、出来ない。そうだよね?」
「出来ないわけじゃないけどぉー」
「はいはい、負けず嫌い乙」
「んもぅ。結局さ、騙そうとしてもあなたの場合、その上を行くんじゃないのぉ」
「私こそ、負けず嫌いなのよ! ウィーになんて、負けてなるものですかっ」
なんだろう、変な我慢大会みたいになってきたぞ?
「それに! トニトにも負けないっ!」
「……わたしが騙そうが騙すまいが、結局、あなたはやろうとするじゃない」
「そうなのよ、そうなってしまうのよっ!」
悔しいけれど、そうなっちゃうのよね、ほんと。
「『浄化』の重ね掛けなんてやったことないからわからないけど。……それとも、洗濯したほうがいいのかしら?」
「『浄化』の前に洗濯したじゃない」
「したわね」
「『浄化』が効いたのなら、あれだけスキルを使ったのだから、少しでも泡立ってくるはずがきてないから、呪い自体が解けてないと思うのよね」
「うーーーーん」
そうかもだけど、そうなるとどうすればいいのよ?
「鬼の居ぬ間に洗濯」
「ウィー、いきなりなにっ? 私が鬼とでもいいたいのっ?」
「怖い人がいない間に息抜きをするっていう意味よねぇ」
「……うん」
「よく考えて、リィナリティ。そもそもどうしてトニトはここにいるの?」
「考えてって言われても、なんでトニトがここにいるのか、そんなの私も知りたいわよ」
それが分かれば、今の状況を打破できそうだ。
「そういえば」
「なにか思い当たることがっ?」
「食いつきすぎっ!」
「早う!」
「せっつかないでよ! 今、なにかつかみかけてたのにっ!もうちょっと考えさせてよっ!」
グイグイと迫ってくるウィーを引っぺがしてポイッとトニトがいる辺りに投げつけた。
「ちょっ、リィナリ……」
そして再び、ウィーはトニトの砂嵐に巻き込まれた。……ように見えたのだけど。
「……えっ?」
ウィーに『浄化』をかけていたおかげなのか、はたまた違う理由なのか。
ウィーの身体は砂嵐に当たるとぽよんっと弾かれた。
ソレと同時に、トニトの周りにあった砂嵐が突如、真っ白な床にザラザラっと音を立てて落ち、消えた。
そして。
「っ!」
トニトを中心にして爆発的に泡が産まれた。
「にゃああああ!」
「ちょっ、リィナリティっ! あんたはいっつもやり過ぎなのよおおお!」
ウィーの叫び声に、反論の余地が一ミリも見つけられずに黙るしかなかった。
「これで『浄化』を重ねがけしていたら、白い世界が透明になっていたわよっ!」
「影が光を得て、光の世界に……。いやいや、影は光がないとできないから、ここは光の世界でもあって」
「なに言い訳してるのよっ! そんなの、最初からそうだったに決まってるじゃない」
ウィー、言ってることが矛盾してない?
ここはフィニメモの裏の顔……よね?
それが光の世界っておかしな話だと思うのだけど。
なんて。
呑気に考えられるのは最初だけで。
「うにゃああああ!」
トニトからボコボコと音を立ててもおかしくないくらい泡があふれ出し、そのせいで私たちは流されてしまった。




