第二百三十七話*怒りの形
私とウィーは泡に流されていた。私はとっさにウィーをつかんだ。これではぐれることはないだろう。
そして、私たちは泡に包まれてはいるけれど、不思議なことに飲み込まれることもなく、息もきちんと出来ている。
ただ、泡から抜けることは出来なくて、泡の上辺をフワフワしながら流されている。
そうして移動していくと、泡が徐々に減ってきて、白い床の上にストンと降り立った。
「ウィー、ここはどこ?」
「うーんと、ここは……?」
ウィーが現在地を調べている間に周りを見回したら、少し離れたところに泡にまみれたトニトが倒れているのが見えた。
「ウィー、あそこにトニトが!」
「あいつのせいでこんなところに……っ!」
トニトに向かって突進していきそうなウィーの羽をつかんで止めた。
「ウィー、今のは私が過度に『洗浄の泡』を使ったからよ。トニトは悪くないから」
「それならぁ、あなたにぃ……突撃いいい」
そう言って、ウィーは本気でぶつかってきた。
小さな身体でも、本気の速度でぶつかられるとかなり痛い。
「ウィー、痛いからっ! 止めてっ!」
「ふふん。生意気にトニトをかばうからよ」
「……ウィー、あなた、完全に悪女よ」
「そんなわけないわ。こんなにキラキラしているのに!」
「まだ消えてないってことは、ウィーは相当に邪悪なことを考えているのね」
「そんなことないわよ! ここまで清い妖精はそうそういないわっ!」
いつものようにウィーとぎゃいぎゃい言い合っていたところ、地の底から響くような呻き声の後、掠れた声が聞こえてきた。
「ぅ……。ぁ? ここ……は?」
私とウィーは顔を見合わせた後、声がした方にギギギと音がしそうなほどゆっくりと顔を向けた。
そこにはまだ泡まみれのトニトが地面に突っ伏したままいた。
「えーっと、トニトさん、よね? 大丈夫……? じゃない、か……」
地面に突っ伏して、泡だらけ。
これではまったく大丈夫ではない。
「心配は要らない。多少、身体が痛いくらいで、なんら問題は……。問題……」
そう言ったきり、トニトから応答がなくなった。
「トニトさんっ? トニトっ?」
「……ぐぅ」
「は?」
「寝てるわねえ」
「え、はいっ? 寝てる?」
今まで会話をしていたわよね?
それなのに、いきなり寝るっ?
「あー、なるほど? 呪いにかかっていた無限の時間、ただそこにあるだけで動けず、眠れずいたみたいよ」
「眠れなかった?」
「っていうデバフがかかってるのよ」
「はぁ」
なんだかよくわからないけれど、呪いは解けた、という解釈でいいのだろう。……たぶん。
「しばらくしたら目が覚めるわよ。何日寝ていないのか知らないけど、さすがにここがリアル時間と違う時の流れをしていると言っても、それとこれとは話が別だからね」
「じゃあ、トニトが起きるまで私たちはなにをするの?」
「そうねえ。この周りを少し『浄化』しておく?」
「えー……」
散々したし、見る限り綺麗に見えるのにまたやるの?
とウンザリしていたのだけど、どうにもトニトの周りから黒い煙のようなモノが噴き出てきて……。
「呪いは解除されたんじゃないのっ?」
「うん、トニトに掛かっていた呪いは解除されたけど、消えてはないわよ?」
「もー! そういうことは早く言いなさいよっ! 『浄化』っ!」
トニトを中心に『浄化』をしたのだけど。
消えないどころか、その黒いものは集まったかと思ったら、どんどんと固まっていった。
そしてそれはゴツゴツとした人間みたいな形になった。
見た感じは黒い溶岩石の塊がたくさん繋がっているような感じ。だけど熱気を感じるし、溶岩石の隙間から赤が見える。
ということは、中には溶岩が入ってるってこと?
もしかしなくても、あの中に流れる溶岩があれの要なのかしら?
「なによ、あれ」
見たことのない謎のモンスター? モンスターって言っていい?
とりあえず『鑑定』してみたら、「呪い:怒りの形」と出てきた。
名前ェ。
ネーミングセンスが仕事をしていないぞ!
「あれ、呪いの名前なの?」
「あの溶岩マンは呪いだから」
「溶岩マン……。こっちもネーミングセンスがお留守だった!」
「うるさいわね。怒りの形よりはマシでしょ!」
「どっちもどっちなのよ」
溶岩マンでも怒りの形でもなんでもいいけど、どう見ても友好的ではないから
倒さなければ。
「『癒しの雨』豪雨っ!」
溶岩に大量の水を掛ければ温度が下がって動かなくなるでしょ。
じゅわわわわあとものすごい蒸気が呪いから立ち上がって視界が白くなる。
「ちょ、ちょっと! リィナリティ! いきなりサウナにしないでっ!」
「そんなつもりは一ミリもなくて」
「あのくらいで溶岩マンがやられるわけないでしょ!」
「ウィー、あなたはどちらの味方なのっ?」
「もちろん、リィナリティの味方のつもりよ」
「もちろんって言うのなら、断言しなさいよっ!」
ウィーの腰の引けた言葉にイラッとしたけれど、こんなことで怒っていたら、ウィーとは付き合っていけない。
「リィナリティに勝ってほしいからこそ、アドバイスをしようかと」
「なら、どうすればいいのよ」
「大量の水をあいつの熱がなくなるまで浴びせ続ければいいのよ」
「毎度ながら簡単に言うわね」
「そういいつつ、やるんでしょ?」
「やるわよ、やらせていただきますっ!」
『癒しの雨』豪雨を三連唱して、呪いの姿が雨で見えなくなるほどの水を浴びせてやった。
「ふふふ、勝った!」




