EP:24-Temple of Cocytus - the second half - 〜④〜
初雪と桐江。
嘗て、神としてこの地に生み出された初雪。
今では地下になってしまっている世界のこの神殿を収めていたが。
世界が沈み、地上に担当が移ることとなった。
自分の担当はこの僻地だった。
最初は雪なんて、欠片も無かった。
氷の力を司るのに、なんて所に飛ばされたのだろうか。
それからどれ程時間が経ったのかなんて、もう数えていない。
最初は神だといつの間にか住み始めた人間達に崇められ。
何かを要求され。
やがてその要求と欲求は強まり。
人を嫌った。
自分の力を思い知らせてやろうと今回みたいな寒波を起こしたりもした。
やがて人は畏怖の念を込めて、怒りを鎮めてもらうつもりで社を立てた。
自分が担当する祠を中心に。
それからまた、時間を数えることなく。
どれ程経っただろうか。
自ら孤独を望んでいた。
筈なのに、どこか空虚で。
社は朽ち始めていた...その時。
「あれ、何ここ...?」
1人の少女が迷い込んだ。
和装に身を包んだ、どこか冴えない調子の娘。
「え、女の子...?」
彼女こそ、過去に自身が心を許した相手であり。
佳奈江の先祖である、荻井桐江だ。
最初は人間を嫌っていた事もあって、冷たく当たった。
そんな自分を見て、怯えもあっただろう。
なのに、彼女は何故か何度も時分の元へ来た。
何度も邪険に扱い、追い払ったというのに。
自分がどう写っていたのか。
毎日来て、正直鬱陶しかったけど。
不思議と空虚感は薄れて行った。
やがて追い払うのもやめた。
「ねぇ...今日こそお話したいのね...」
その日はやけにげっそりしていた。
げんなりしている自分とは違う感じに。
「...どうした?」
「急いで来たからご飯食べてないのね...」
何とも間抜けな理由だ。
というか一食抜いただけでこの有様とは、どれ程食い意地が張っているのか。
しかし、彼女は何やらバスケットを持っている。
「...それは?」
「あ、これこれ!」
気づいてもらえたのが嬉しいのか、はしゃぎながらバスケットを開くと。
選り取り見取りな具のサンドイッチがずらり。
「一緒に食べようと思って作って来たのね!」
「一緒に...?」
あれ程邪険にしたというのに、おかしな人間だ。
臆病で、最初は雪玉を投げつけただけで泣きながら逃げて行ったのに。
今、笑顔で鶏肉のサンドイッチを差し出している。
自分は求められた事は何度もあった。
けれど、与えられたのは初めてだった。
この社以外に。
「美味しい。」
「良かったのね!」
「...前から思っていたが。その喋り方は何だ?」
「え、変なのね?」
変だ。
少なくとも、自分が見て来た人間はそんな語尾は無かった。
「でも、ウチの家系は代々こうらしいのね...そうだ!」
何をひらめいたのか。
ろくでもない事だろう。
「あなたも同じ話し方になれば変じゃないのね!」
その予感は的中した。
何を言っているのだ、目の前の阿呆な小娘は。
「だってあなた、しかめっ面ばかりで堅い口調だし、正直不気味で怖いのね。」
「喧嘩売っているのか。」
買ってやろうか。
なんて、ここまで感情的になるのも久しぶりだ、何なのだこの小娘は。
イラついたので、右手を向けて力を使って...
やろうと思ったが、サンドイッチが駄目になる。
それは良くない、食べ物に罪は無い。
溢れ出る寸前だった冷気の力を慌てて空に放つ。
すると、冷気は爆ぜて。
やがてシンシンと降り注ぐ雪となった。
間も無くそれは大雪と変わる。
なのに、こちらに降りかかる量は少ない、自分が後から調整したからだ。
瞬く間に銀世界。
彼女はそれを見て、瞳を輝かせていた。
「凄い、雪なんて初めて見たのね!!」
確かに、この地で降った事は無かった。
けど、やっぱり彼女はおかしい。
こんな力を気味悪がる処か喜ぶなんて。
そのままのテンションで両手を掴んできて。
「初めて会った時もおもったけど凄い力持ってるのね...えーと...」
が、突如その勢いが消失した。
そしてそのままのトーンで。
「あなた、名前なんだったのね?」
なんて、問うて来た。
しかし自分は。
「名前は無い。」
誰とも関わって来なかったのだ、困りはしなかった。
けど目の前の彼女は不満な様で。
「そんなの寂しいのね!えーと、えーと...」
どうして彼女がそんなに一生懸命になってくれるのだ。
不気味であろう、自分の為に。
「あ、初雪!...なんてどうなのね?」
...さっき雪を始めて見たと言っていたな?
「安直。」
「ぐっ...で、でも悪くないのね?」
「...まぁ。」
"確かにそうなの。"
「...」
「...」
沈黙。
いやいや、要望に応えたんだぞ。
「何か言って...ッ!?」
くれと、続ける前に抱き着かれた。
「可愛いのね!」
「ちょっ、放し...」
「もっと喋って、ほらさっきと同じ様に!」
「いい加減にするのッ!!」
「あ痛可愛いッ」
頭頂部に肘をくれてやった。
それから、彼女と普通に会って話すようになった。
遊び相手になり。
この力を教える師匠になり。
良き相談相手となり。
彼女が結婚して、子供を産んで母親になってからも交流は続いた。
自分と関わっていた事を快く思わない集落の者達の手によって。
気味の悪い忌子として彼女が処刑されるまで。
それからずっと、彼女の親族を見守って来た。
拒絶し切れず、関わってしまった罪の意識を抱きながら。
ずっと。
なのに、目の前で彼女の子孫の命が尽きようとしている。
自分のせいで。
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身体が動かない。
冷たい、痛い。
終わりなのか、あんなに勢いよく啖呵切ったのに。
何もできず、終わるのか。
意識が薄れていく。
闇が...濃くなっていく。
...
"諦めないで。"
声。
優しい声が響く。
"あの方に教えてもらったんでしょ?なら大丈夫なのね。"
聞いた声。
さっき?似てる。
けど違う。
...
そうだ...自分は。
身体が凍っている、解くにも自分の力はちっぽけ。
それでも。
次ページ、戦闘再開。




