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天龍寺⑦
「はい」
本気で落ち込む裕華の声は、必死で明るくしようとしても憂いを帯びてしまっている。
「この雲龍図は八方睨みの龍といって、どこから見てもこちらを睨み続けるんですよ」
法堂に移動し、天井いっぱいに書かれた龍を見ながらイケメンが説明してくれる。
無口になった裕華に変わって、明るく、優しい声で話すイケメン。
「すごいですね」
短文すら口ごもる裕華をイケメンが心配そうに見守る。
裕華はイケメンの視線で下を向く。
法堂の畳を睨む裕華。観光客の足だけが目に入る。
「多宝殿へ行きましょうか?後醍醐天皇尊像や歴代天皇尊牌がありますよ」
「はい」
ずっと下を向いたまま、覇気のない裕華。
移動する間、イケメンの三歩後ろを黙ってついて行く。
靴を脱ぎ、長い廊下をゆっくり進む。
多宝殿に到着するが、いつものおしゃべりな裕華がいない。
無言で進む2人。
神聖な雰囲気の中、京都らしい装飾の内部を一言も話さず見て回る。
金色に光る後醍醐天皇尊像を見ても2人の会話がはずまない。
あっという間に建物を出てしまった。




