天龍寺⑥
「お待たせしてスミマセン」
「いえ、お庭に見入っていたので、ぜんぜん平気ですよ」
急ぎ足で戻ってきたイケメンに、待ってましたと艶っぽく、考えぬいた返答をする裕華。
歌織がいなくなって、罠を妨害される心配もなく、妖艶な笑顔である。
「畳に正座し、姿勢を正して庭園を眺めていると、無になれるっていうか、瞑想できるんですよ」
「さすが禅寺ですね、私でも天龍寺なら悟りを感じれそうな、雰囲気です」
裕華がいきなりおしとやかキャラに変貌する。
「そうですよね、この方丈から見る景色は額縁に収められた絵画のようなのに、風でなびいたり、葉が落ちたり、一瞬一瞬で景色が変わるからいつまでも見てられますね」
禅寺ならではの静謐な雰囲気がイケメンをまどわし、裕華のキャラ変をすんなり受け入れさせる。
冬の曹源池庭園は秋のピーク時の四分の一も観光客はいない。
今はまだ昼前で、当日京都に到着した観光客もいないから、人はまばらである。
しかし時折、額縁の景色に人が通り、2人は無言になる。
額縁を人が通過するのに10秒とかからない。
しかし静謐の中、無言で2人が見つめあっていると途方もない時間が過ぎているような錯覚を裕華は感じていた。
2人の視界の端から人が消えると、それぞれが正面の額縁に視線を戻す。
音のない世界の中で裕華は自分の心臓の鼓動が激しくなる音を自覚する。
イケメンを見る自分の顔が冬なのに熱くなるのを感じる。
『あたし本気なんだわ、会って間もないし、何も知らないけど、この人のことが好きなんだ』
裕華の視界がひらける。
方丈の屋根で見えない、澄んだ青空からまばゆい光が射し込む。
「あの……」
「その……」
声優とは思えない掠れた、弱々しい声の裕華。
「はい」
イケメンのイケボが閑静な冬の嵐山に沁みる。
その一言で裕華のキャパは軽々とオーバーした。
真っ赤な地蔵となって下を向く裕華。
「「………………」」
額縁を何人かが通り過ぎていく間、裕華は下を向いたままだった。
「そろそろ進みましょうか?」
しびれを切らしたイケメンが口を開く。
こんばんは。
更新遅くなり申し訳ございません。
明日も更新します。良かったら読んでください。よろしくお願いいたします。




