嵐山⑥
「どこか行きたい所ありますか?」
イケメンが裕華にパンフレットを渡して尋ねる。
「あまり詳しくないから、渡月橋くらいです」
嵐山は当初の観光予定になかったので、裕華には嵐山の知識がまったくなかった。
しかし、イケメンにバレないように自然に振る舞う。
「じゃあ、渡月橋、桂川沿い、天龍寺のコースでいいですか?」
「はぃ」
爽やかにイケメンが尋ねると、誰だかわからない乙女が小さく返事する。
「どうぞ」
イケメンの手でエスコートしてもらい、裕華は人力車に座る。
イケメンも慣れた様子で座り、突然、裕華の目の前に覆いかぶさる。
「ちょっと失礼します」
横に座ったイケメンが、急に目と鼻の先に現われ、裕華は目を閉じる。
まぶたを閉じてじっとしていると、腰のあたりにイケメンの手が回される。
期待に胸をふくらませていると、何もないままイケメンは再度、隣に座る。
「狭くないですか?大丈夫ですか?」
イケメンは車夫に言われる前にシートベルトを締めた。
「全然大丈夫です」
大人2人が密着し、一つのシートベルトで2人を固定した状態になる。
車夫が膝掛けをかけて、人力車が渡月橋に向かって走りだす。
小走り程度のスピードだが、目線が高く、歩行者を次々と追い抜いて行くので気持ちがいい。
「人力車は初めて?」
「私は何度か乗った事あります」
「初めてです」
車夫が前を向いたまま、会話を始める。
「お兄さんは人力車乗った事あるんだ、京都の人?」
「祖父は京都ですけど、父と私は東京なんです」
「おじいさん何してるの?」
「伏見でお酒を造ってます。近衛です」
「近衛酒造の若旦那ですか、はじめまして」
「若旦那ではないですよ、父が3男で家を出てますし、私も商社勤務なんで実家とまったく関りがないんです」
「はぁ~?そないですか。ほな帰京なはったんは年始のご挨拶ですか?」
「いえ、ただの観光です。年始で忙しいでしょうからホテルに泊まっていて、実家に行ってませんし」
「えぇ~、それは寂しいですがな、彼女さんも実家に行ってみたいですよね?」
いきなり彼女と呼ばれて、裕華が何も返事できない。
もじもじしていると、聞き覚えのある大きな声がした。
「ゆーぼう先輩!いいな~私も乗りたい!」
歌織が2人を見つけて写真を撮りまくる。




