鉄板焼デート⑬
そして、淡々と調理を進めていたシェフが付け合わせの京野菜を皿に盛りつける。
やっとお肉に被せられたドームが開かれ、「おぉ~」といっせいに歓声が上がる。
再度、松坂牛の表面をカリっと焼いていく。
お肉の焼ける、ジュウジュウという音だけが静寂の中、響く。
大きなナイフが分厚い肉をスパッと一刀両断する。
お肉が持ち上げられ、客に断面が披露される。
その瞬間、インスタライブのスクショタイムのように、ポージングしたお肉を全員がスマホで撮影する。
スマホで必死に撮影しながら、沙音が歌織のほうを向いて、ボソッと言った。
「あんなステーキ見た事ないっす」
「私も!テレビでも、こんなステーキ見た事ないわ」
歌織は力強く同意する。
ピンクの断面に白いサシがきめ細かくはいっていて、普段食べるステーキとはまったく別物だった。
撮影タイムが終了し、一口大にカットされたシャトーブリアンが京野菜の隣に鎮座する。
「お待たせしました。松阪牛のシャトーブリアンです。
お好きな塩、わさび醤油、ステーキソースから順番にお好みでお楽しみください」
お品良く、華道のように料理がお皿に盛られて提供される。
「ヤバイ」
歌織の語彙力を超えた料理だった。
歌織が焼き塩を軽くつけて、シャトーブリアンを口に入れると、肉の脂が口の中で破裂する。
「ハンバーグみたいな、すごい肉汁ね」
「その食レポはダメっしょ、ステーキをハンバーグに例えないでください」
沙音が反射的にツッコミを入れてしまう。
「じゃあ浜倉さん、お手本お願いします。食劇のハオマ出てたし、さぞ素晴らしい食レポ出来るんでしょうね?」
「いいっすよ、やってやりますよ」
歌織の安い挑発に沙音がのっかり、役者スイッチをonにする。
「すごい…、フォークが何の抵抗もなく吸い込まれる」
口元でフォークを一旦とめて、キメ顔を披露する沙音。
一拍おいた後、口の中にステーキを運ぶと、目を見開き、衝撃を受けたような表情をつくる。
沙音が自分の両肩を抱きしめながら、生アフレコ風に演じる。
「う...美味い。 絶妙な焼き加減・・・。分厚くて表面はカリカリしているのに、一口嚙んだら、まるでバターみたいに柔らかく、口の中で溶けていく~」
「御粗末・・・・」
意気揚々と歌織が声を張る。
「何が御粗末よ、あんた何もしてないでしょ」
見かねた裕華がツッコミに回る。
「おあがりよ」
ノリノリの歌織がハッチャける。
「だからあんたが作ったみたいに言うなよ」
「ゆー先輩、ほんとに美味しいんで早く食べてくださいよ」
沙音に促されて、松坂牛を口に運ぶ裕華。
「うわ、本当に美味しい。塩しかつけてないのに、すごく甘い」
「ねー、ありえないくらい旨いっすね。アニメなら確実に今、全裸っすよ」
沙音が満足そうにする。
「このステーキなら100枚食べれる」
歌織のテンションもアゲアゲになる。
「よかったら、もう1枚食べませんか?」
歌織の声にイケメンが反応する。
「さすがにお腹いっぱいなってしまって、ステーキ2枚はもう食べれそうにないんです。よかったら1枚どうですか?」




