鉄板焼デート⑤
「「「おいし~」」」
3人が美味しさのあまり、一時休戦して顔を見合せる。
各テーブルから鮑とシェフを絶賛する声が上がる。
始めて食べる鮑の鉄板焼の美味しさに驚愕する。
「鮑ってこんなに柔らかいんですか?コリコリして美味しいって聞いてたんですけど?」
鮑初体験の沙音の瞳孔が開く程だった。
「私もこんなに柔らかい鮑はじめて食べた。お寿司屋さん(回る店)で鮑を食べた事あるけど、コッリコリだった!この鮑はすっごいですね!ね、ゆーぼう先輩!」
柔らか鮑初体験の歌織も目を見開いて素直に感動する。
「たしかに、すっごく柔らかくて美味しい。あたしは中華料理で鮑の姿煮を食べたことあるけど、こんなに柔らかくて、鮑の風味だけで美味しいのは始めて食べたわ」
イケメンを意識しながら、お上品に感想を述べる裕華。
横目でイケメンをチラ見すると、2つの鮑を淡々と口に運ぶイケメンがいた。
イケメンの美貌を崩さない、すました顔が他の客と違い過ぎた。
「鮑が苦手なんですか?」
唐突にイケメンに声をかける歌織。
自分達がこんなにも感動しているのに、1人普通にしているイケメンの違和感が気になってしまった。
「いえ、別に、普通に好きですよ」
離れた椅子から前のめりで話かけてきた歌織に動揺しながら、律儀に答えるイケメン。
「うちの歌織がすみません」
裕華がイケメンに謝罪するふりをして、じっくり観察する。
頭を下げながら、上から下まで何度観察しても何もわからない。
「この鮑おいしいですね?」
わからないからとりあえず無難な会話で、イケメンのレスポンスから探る。
普段のMC力をナンパに全投入する裕華だった。
「えぇ普通に美味しいですよ」
「普通に美味しい??」
おもわず大声でリピートする裕華。イケメンの普通が裕華にはわからない。
驚いて大きなリアクションをとっている裕華に、イケメンはシェフに聞こえないよう、軽く小声でささやく。
「子供の頃から毎年、四国の金毘羅に行くんですけど、そこの香梅亭の鮑と同じ味です。香梅亭の方が安いんですけどね」
急にいたずらっ子のような笑顔でイケメンが裕華に顔を近づけて、2人だけの秘密の会話をした。
裕華のほほが赤く染まった次の瞬間、イケメンは姿勢を正して鮑を口にする。
『こわ、ナチュラルイケメン怖!』
裕華がイケメンに落とされそうな自覚を覚え、踏みとどまった。
だが裕華は気がついてしまう。子供の頃からこんな鮑を何度も食べてるだと??
『こいつ、ナチュラルボンボンイケメンだ!!!』
裕華は自分がイケメンに完落ちした事には気がつかなかった。
けれども、歌織と沙音からすれば、裕華がイケメンに惚れたのはバレバレだった。
『『これはめんどうな事になるな』』
2人の心が一つになった。




