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鉄板焼デート④
般若を通り越し、鬼女となった裕華が歌織にプレッシャーをかける。
歌織は裕華からの圧を側面からビンビン感じながら、鮑をじっと見る。
絶対に振り向いてはいけない戦いがそこにはあった。
声を出せない裕華の心が叫びたがる。
『おい、コラァ』
ドスの効いた声をあげたい気持ちを我慢し、歌織を見つめるが絶対にこちらを見ずにイライラする。
その間にも調理はどんどん進んで行く。
油を引き直した鉄板に殻から取り出した鮑を並べられる。
鮑と肝を切り離す。肝の先端を切り落とし、処分する。
ナイフで鮑がカットされて、皿に盛られて、提供された。
一斉にスマホのシャッターが切られる。
「ぜひ一口目は何もつけないで、お召し上がりください。お好みで塩かわさび醤油を付けてお召し上がりください」
「では冷めないうちにお召し上がりください」
シェフに勧められるまま、鮑を口に入れると、人生で経験した事のない味が口に広がる。




