俺たちの戦いはこれからだ⑥
「駅前のデパートよ」
「わざわざそんな遠くまで、ありがとうございます」
沙音はお礼を言いながら、裕華のおすすめする地元のビンチューハイを手に取る。
「徒歩3分のデパートだから近くて良かったよ。重いから厳選して買ってきたけど」
「そうですよね、お酒いっぱいで重いから、ゆー先輩は絶対に下のコンビニにいると思いました」
「いや、まぁ、その、駅からの通路キレイだったじゃない?夜の通路も見たかったのよ」
苦しそうに裕華が絞り出す。
「昼にイケメンが消えて行ったところですね」
歌織と裕華の視線がぶつかる。賢い沙音はスマホを取り出し視線をそらす。
「「うふふふふぅ」」
不気味な笑いが、戦場のドラのように部屋に鳴り響く。
「ロビーにイケメンがいなかったから駅側に行ったんじゃないですか?」
ニコとしながら歌織が毒づく。
「イケメン駅側に出たの?知らなかった~」
裕華がしれっと受け流す。
「駅から来た私達とすれ違ったじゃないですか、イケメンは駅とバスロータリーのある連絡通路の左側、私達はタクシー乗り場のある右側、メインエントランスから出たじゃないですか」
「そうだっけ~」
裕華は白を切る。
「今もイケメンを探しに駅側に行ったんじゃないんですか?」
歌織は嘲るように言い放つ。
「そんなわけないでしょ、京都駅の乗降者数なんて一日何十万人もいるのよ、探して会えるはずないでしょ」
裕華は不満そうにつぶやいた。
歌織が急に立ち上がって、モノマネタレントのように、裕華になりきる。
「すごいまた会いましたね。あたしたち運命の赤い糸で結ばれているんですね」
地声から2オクターブ上がった、イケメンを見つけた時の裕華風な声を出す。
「そろそろ、ディナーの準備しないと遅刻しますよ」
ケンカを始めそうな2人を沙音が切り離す。
ドレスコードのあるお店なので、最低限の着替えを済ます。
「ゆー先輩スッピンで行くんですか?」
髪を乾かし終えた裕華が、服を着替えて京都産の日本酒に舌鼓を打つ。
「スッピンで行く~、メイクして落とすのめんどうだし、個室じゃないからそんなに写真撮らないでしょ?それに最上級はたいてい薄暗いお店が多いし、スッピンで問題ないわよ」
「はぁ~、そうですか?」
沙音はベースメイクをしながら気の抜けた返事をする。
十分前に到着するように部屋を出て向かった3人が、レストランに到着してレセプショニストを待つ。
「いらっしゃいませ。ご予約は?」
受付に戻ってきた、レセプショニストに名前を告げると丁寧な敬礼で迎え入れられた。
「いらっしゃいませ、井ノ瀬裕華様。本日はお越しいただきありがとうございます。本日のお席は京都タワーや京都五山を望むお席です。お食事と夜景をごゆっくりご堪能下さい」
流暢な時候の挨拶の後、最敬礼から“こちらになります”と席に案内された。
京都の夜景と光る京都タワーに見とれながら、案内された席に着くと、驚きの声が上がる。
「「「「えぇ?」」」」
右端の席に新幹線で逃したイケメンが1人で座っている。
イケメンの隣はまた1つ席が空いている。
10名座れるテーブルに9名が座った状態となった。
「では始めさせていただきます」
テーブルの前の2名のシェフが調理を開始する。
イケメンの逃げられない、2時間コースがスタートした。




